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深刻な燃料不足が戦争に疲弊したシリア国民に極度の困難をもたらす

紛争における最悪の戦闘現場となったラッカで冬が近づき、ヒーターを販売する若いシリア人労働者。(AFP通信)
紛争における最悪の戦闘現場となったラッカで冬が近づき、ヒーターを販売する若いシリア人労働者。(AFP通信)
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27 Dec 2022 01:12:22 GMT9
27 Dec 2022 01:12:22 GMT9
  • 12月上旬に始まった危機は、政権支配下にある地域の生活を麻痺させている 
  • 専門家によると、制裁はシリアを平和に近づけることに失敗し、その上国民を貧困に陥れた

アナン・テロー

ロンドン:「シリアは死んでおり、誰かがプラグを抜いてくれるのを切望している」ホムス出身の栄養士であるヌールさん(26)は、内戦の勃発から10年以上が経過し、経済危機が深刻化している中で母国の状況をこうまとめた。

冬の到来とともにより深刻になり始めた燃料不足は、首都ダマスカスなどシリアの政権支配下にある地域の生活を麻痺させ、当局は多くの重要な公共サービスを停止・削減せざるを得なくなっている。

12月5日、政府は一晩で燃料価格をほぼ倍増させた。現在、首都の高級住宅街においてさえ、1日の停電時間は平均22時間に達する。冬になり気温が急に下がると、多くの住民は家を暖めることができなくなった。

燃料危機で生活水準が急落する中、ガソリンを満タンにするために行列を作るシリアの人々。(AFP通信)

近年、政府と反体制派との間の戦闘は沈静化したものの、シリアは依然として世界最大の人道的危機にさらされた場所であり、数百万人の民間人が依然として亡命し、インフラが破壊され、国民の多くが貧困線以下で暮らしている。

2020年にバッシャール・アサド大統領の政権を標的とした、米国による史上最も厳しい制裁が実施されたことで、シリアの孤立は深まった。

シリア政策研究センター(SCPR)のドイツ在住リサーチエコノミストであるモハンマド・アル・アサディ氏は、アラブニュースに次のように語っている。「現在政府管理下にある地域における燃料危機は、シリアにおける紛争経済の新しい側面ではない」

SCPRは、2020年以来、いくつかの主要な燃料不足を追跡してきたが、アル・アサディ氏によると、「現在の燃料不足は、過去数年間で最も経済的および社会的に影響が大きい」

シリアの内務省は最近、工業用および商業用ディーゼルを1リットルあたり5,400シリアポンドで販売する計画を発表した。11月下旬の2,500ポンドから上昇した価格になる。一方、ガソリンは1リットルあたり4,900ポンドで販売される予定である。

国有のSyrian Petroleum Companyから供給される燃料の価格は、1リットルあたり2,500ポンドのままである。

燃料の繰り越し需要はシリアポンドの価値に悪影響を及ぼしており、12月10日には過去最低を記録した。

闇市場のドル為替レートは初めて6,000ポンドを超え、中央銀行のレートは3,015ポンドだった。内戦が始まった2011年、公式レートは47ポンドだった。

報告によると、政府はシリア人が利用できる最も安価な交通手段であるミニバスサービスの燃料配分を削減したため、ディーゼルとガソリンが不足し、ダマスカスと近郊のバスターミナルは深刻な過密状態になっているという。

地理的にシリア最大の県であるホムスでも、同様の状況が見られる。

「午後1時を過ぎると、ミニバスは運行を停止し、私たちは道路上で見つかる車両に乗って家に帰ります」とヌールさんは述べた。「乗客は時に、ミニバスやシェアタクシーの座席をめぐる殴り合いに巻き込まれることがあります」

ファーストネームのみを名乗る会計学専攻の学生、ハーリドさん(21)は、ウェイターをして月に約5万ポンドを稼ぐ。ダマスカス郊外県のザバダニ郡からわずか48kmの距離にある、ダマスカスのメッゼ高速道路までのシェアタクシーでの移動に、今月初めに6,800シリアポンドを費やした。

これと対照して、ハーリドさんはアラブニュースに次のように語った。「同じ旅費として11月中旬に支払ったのは、3,300ポンドでした」

現実的に言えば、商品の価格は全体的に上昇したが、実質賃金は停滞したままであり、高いインフレは生活費の危機を意味している。

「コンピュータープログラマーは民間部門で月間約80万ポンドを稼ぐことができますが、これで家賃、必需品、交通費をまかなうのがやっとです」と、身元を明かさないよう求めたダマスカス在住のジャーナリストはアラブニュースに語った。

政府系ニュースサイト『Shaam Times』によると、2021年12月に、国の最低賃金は約93,000ポンドだった。

SCPRの研究者アル・アサディ氏は、国内の燃料不足は「国内の多層的な分断が続く限り終わらない」と予想しており、当局が事態に対処する可能性は低いと述べている。

シリア北東部における燃料危機のさなか、道路脇でディーゼルを販売し、容器に注ぐシリア人男性。(AFP通信)

「シリアで、エネルギーや燃料不足など、同国が直面している深刻な社会経済的課題を克服するために実際の努力をしている地域の政治権力者たちはいない」と同氏はアラブニュースに語った。

「12年間の紛争の後も、生産に基づく通常の経済サイクル回復を犠牲にして、残りの財政的、物理的、および人的リソースを戦争経済に関連する活動に役立てることに依然として専念している」

「したがって、代替エネルギーソリューションへの投資に対しては、過去10年間ほとんど関心を示していない」

石油収入は、内戦前にはシリアの国内総生産の5~7%を占めていた。総埋蔵量は25億バレルと見積もられており、これらの埋蔵量の少なくとも75%は、政権による支配の範囲外であるデリゾール周辺の油田にある。  

アサド政権は、クルド人が多数を占める同国北東部に展開している米軍がシリアの石油を「略奪」しており、それが燃料不足の原因となっていると繰り返し非難している。

12月1日、シリア国営通信社SANAは、ハサカ県のアルヤルビヤで「略奪された石油を積んだ」54隻のタンカーからなる船団が、アルマフムディヤ国境を通過してイラクに向かっているのを発見したと主張した。

シリア北東部は、国内の他の場所での蜂起を回避するため、2011年に政権軍がこの地域から撤退して以来、ほとんど自治が行われている。 

2014年の夏、ダーイシュ武装勢力はこの権力の空白を利用して、ラッカなどいくつかの主要な町と、地域の収益性の高い油田の多くを支配した。

 「包括的な政治的取り決めがなければ、そのような不足に対する決定的な解決策は遠いままである」とシリア政策研究センターのリサーチエコノミストであるモハンマド・アル・アサディ氏は述べた。(提供写真)

後にシリア民主軍(SDF)と呼ばれる、アラブ人・クルド人民兵の連合軍が、ほどなくして米国の軍事支援を受けて過激派グループを追放し、油田を掌握した。

これらの領土を支配していた北東シリア自治局(AANES)は、この石油を近隣諸国やアサド政権に販売し始めた。

2019年、当時の大統領ドナルド・トランプ氏はシリア北東部から米軍を撤退させるが、石油を確保するために小規模な部隊を残すと発表した。 

同月、SDFがダーイシュから油田の支配権を保持できるよう支援するため、米軍がデリゾールに配備されることが発表された。

多くの場合、イランの同盟国から十分な燃料供給を確保できないアサド政権は、食料、医薬品、建築資材などの必需品を留保することで、同政権が保有する地域により多くの燃料を供給するようAANESに対し圧力をかけてきた。 

ワシントン近東政策研究所は2021年の報告書で、米国政府はシリアからの石油略奪を否定しているが、「道徳的にも法的にも不明朗な計画」を実施していると述べた。これには、石油を「アサド政権の手に渡さない」「精製と販売を支援する」ことでクルドの同盟国を支援することが含まれている。

一般的にシリアのアナリストの間では、米国のわずかな関与が現在の燃料危機の主な原因ではないということで意見が一致している。

「石油が豊富な東部地域から隣接するイラク領クルディスタン地域への石油略奪や制裁は、同国の燃料危機の深刻化に貢献しているが、これらは最も重要な要因ではない」とアル・アサディ氏はアラブニュースに語った。

「新たな燃料危機の主要な要因、およびすべての同様の社会経済的課題は、過去10年間に同国で主流となった政治経済の性質、特に政治的分断、外国の政治関係者への従属、および同盟国による主要な資源と投資機会の支配に関連する側面から切り離すことはできない」

さらに悪いことに、援助活動家らは今年2月のロシアによるウクライナ侵攻がシリアの人道危機を後押ししたと述べている。

11月に約2週間シリアで過ごした後、国連人権理事会の特別報告者であるアリーナ・ドゥハン氏は、現在の米国、EU、英国による制裁は「人道に対する罪に相当する可能性がある」と主張した。

ラッカ郊外の道端に作った仮の露店で燃料を販売しているシリア人男性。(AFP通信)

ドゥハン氏は、「人権を侵害し、早期回復のためのあらゆる努力を妨げる」ので、制裁を即時に解除するよう求めた。

アサド政権に対する批判者らの一部でさえ、経済制裁はシリアの交戦国を政治的解決に近づけるにはほとんど役立たず、その間に国民をさらに貧困に追い込んだと述べている。

「アサド政権は停滞しており、多くの観察者は、政権だけでなくシリア国民をも傷つける制裁の有用性にますます疑問を感じている」と、ミズーリ州立大学の中東政治学教授であるデビッド・ロマーノ氏はアラブニュースに語った。

「シリア国民にとって人道的に重要な品目の輸出免除などの規定はあるが、実際には、シリアに対するアメリカと欧州の制裁はすでに機能不全に陥っている国全体の経済に深刻な損害を与えている」と同氏は述べた。

12月5日、シリア南西部スワイダー県の住民は、生活水準の低下に抗議するため街頭に繰り出した。このデモはすぐに地元の治安部隊との衝突に発展し、2人が死亡、8人が負傷した。

「一般人の苦しみは増加すると予想される」とアル・アサディ氏は述べた。「(特に)農家、タクシーやマイクロバスの運転手、配送部門の労働者など、生計を確保するために主に輸送に頼っている労働者たちだ」

一般的に取引されている多くの商品やサービスの輸送コストが上昇しているため、同氏は現在の燃料不足が「少なくとも2023年1月中旬まで続」き、インフレ圧力が増加し、多くの企業が「大規模な中断に直面する」と予想している。「いくつかの石油タンカーは今後数週間でシリアに到着すると予想されているが、供給される量は危機を克服するのに十分ではない可能性がある」

同政権は、燃料危機の解決策を見つける代わりに「紛争の負担を家計に転嫁している」とアル・アサディ氏はアラブニュースに語り、「包括的な政治的取り決めがなければ、そのような不足に対する決定的な解決策は遠いままである」と付け加えた。

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