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大地震による惨状が浮彫りにするシリア・アサド政権孤立化の人道的コスト

反政府勢力支配下のイドリブ県の都市ハリムでのホワイト・ヘルメットの救出活動。(AFP)
反政府勢力支配下のイドリブ県の都市ハリムでのホワイト・ヘルメットの救出活動。(AFP)
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19 Feb 2023 03:02:54 GMT9
19 Feb 2023 03:02:54 GMT9
  • 地震救援に関連する一部の取引を期間限定で制裁対象外とする米国の動きにより、議論が再燃した
  • 反政府勢力支配地域への人道支援物資の輸送をアサド政府が承認したのは2月10日になってからだった

アナン・テッロ

リーズ、英国:2月6日未明に2つの大地震がシリア北西部とトルコ南東部を襲った。その3日後、米国財務省は、シリア国外の供与者からシリアへの「地震救援活動に関連するすべての送金取引」について制裁を180日間免除すると発表した。

恐ろしい戦争犯罪を犯したとの申し立てへの対応としてバッシャール・アサド大統領の政権に課された制裁を解除し、10年以上にわたる破壊と難民流出からの再建をシリアに可能ならしめる方向に米国が舵を切るべきかどうかについての議論が再燃した。

シリアの経済顧問のフマーム・アルジャザエリ氏は、米国財務省の動きを、地震への対応として「実質的な支援と援助を提供して欲しいという、個々の国と組織、国際社会への強いメッセージ」なのだと説明した。

「他の方法ではおそらく困難だったと考えられる国々が援助に乗り出して来ていることからも、このことは明らかです」と、アルジャザエリ氏はアラブニュースに語った。

シリアに対する米国の制裁は、米政府がシリアを「テロ支援国家」に指定した1979年に初めて課された。

2004年のイラク戦争期間中に制裁はさらに強められ、シリア内戦が始まった2011年以来さらに数回課されている。2019年には、アサド大統領の海外の資金的、政治的支援者を罰するために、米国でシーザー法が導入され、最大級に厳しい制裁が課されるようになった。

内戦が12年間継続しているため、震災前の時点で、シリア国内の1,500万人以上が既に人道支援を必要としていた。

2月17日の時点で、シリア国内では震災により5,800人死亡したことが確認されており、負傷者は数万人に上っている。国連の推定では、約530万人のシリア人が住居を失ったという。

アラブ諸国は、震災の数日後に真っ先に援助物資を積載した輸送車列をシリアとトルコに派遣した。制裁が免除される前に輸送車列を派遣した国々もある。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン、イラク、パレスチナ自治政府、リビア、モーリタニア、アルジェリアは、資金援助と生死を分ける人道支援を迅速に提供した。

米政府が制裁の免除を発表した後、EU加盟国では最初にイタリアがシリアに援助を提供した。イタリア政府からシリアへの特使のマッシミリアーノ・ダントゥオーノ氏が、政府支配地域向けの救急車や他の医療資機材が含まれた30トンの貨物がベイルートに2月11日に到着したと述べたと、ロイター通信が報じた。

とはいえ、数多くのシリア人が、ソーシャルメディアを通じて、国際社会から見捨てられたと感じている事を表明し、制裁を非難した。フライト追跡アプリ「フライトレーダー24」のスクリーンショットを共有し、多数の救援機がシリアでなくトルコに向かっていることを示した人々もいた。

「私たちが緊急に必要としているのは、地震救援活動に最大限に効果的に対応するための全面的な人道アクセスです」と、英国に拠点を置く慈善団体「アクション・フォー・ヒューマニティ」のアドボカシー担当責任者であるニコラ・バンクス氏はアラブニュースに語った。

「人道アクセスの確保は、シリア北西部の現地にいる市民社会とNGO(非政府組織)との緊密な連携を通して行う必要があります…国連安保理は、国境横断路を追加してシリア北西部にアクセスするための国連の権限を早急に拡大するべきです」

2019年には、アサド大統領の海外の資金的、政治的支援者を罰するために、米国でシーザー法が導入され、最大級に厳しい制裁が課されるようになった。(AFP / 資料写真)

トルコが提供されているのと同等の国際的な支援を受けられず、シリアと現地の救助隊は、基本的な機材や時には素手だけで瓦礫の山を掘り起こすことを強いられている。

国際的に排斥されていると感じているのは、政府支配地域のシリア人だけではない。ホワイト・ヘルメットとしてよく知られ、反政府勢力支配地域で緊急対応の主力となってきたシリア民間防衛隊は、地震後数日間適切な救援を提供していないと国連を非難した。

「国連はシリア北西部の人々に対して犯罪を犯した」と、ホワイト・ヘルメットの代表者であるライド・サラ氏は、フランス通信社に語った。

道路の損傷と厳しい冬の天候が救助活動を阻んでいる。援助物資を載せた最初の国連の輸送車列のシリア北西部への到着は地震発生後3日経過した2月9日で、失望をもって迎えられた。ホワイト・ヘルメットは、ツイッターのスレッドで、到着した援助が単に「震災前から継続していた通常の定期的支援」だったことを指摘し、落胆と絶望感を表明した。

「捜索救助隊や瓦礫の下に閉じ込められた人々の救出のための特別な支援や資機材ではありませんでした」と、ホワイト・ヘルメットは付け加えた。

国際制裁がシリア政権に課せられていることが震災への人道支援の妨げになっているかとの質問を受けたアクション・フォー・ヒューマニティのバンクス氏は、「地震救援では、状況はもう少し複雑なのです」と答えた。

アラブ諸国は、震災の数日後に真っ先に援助物資を積載した輸送車列をシリアとトルコに派遣した。制裁が免除される前に輸送車列を派遣した国々もある。(AFP)

「甚大な震災被害を受けたイドリブは、シリア救国政府の支配下にあります。2017年11月初めに発足した反アサド政権勢力による事実上の代替政権です」

「イドリブの住民は、アクション・フォー・ヒューマニティからのものも含め、ずっと人道支援に頼ってきました。シリア政府はこの地域には人道支援をまったく提供せず、空爆だけを続けています」と、バンクス氏は語った。

ダマスカスに拠点を置くシリア・アラブ赤新月社のハーリド・ハブバティ氏は、最近、自身の組織が反政府勢力支配地域に援助物資を輸送する用意があることを強調し、救援活動促進のために、シリア政権に課している制裁を解除するよう米国とヨーロッパ諸国に呼びかけた。

しかし、国営メディアの報じるところでは、政府支配地域から前線を越えて反政府勢力支配地域に直接人道支援物資を輸送することをシリア政府が承認したのは2月10になってからだった。

当初、シリアのバッサム・サバーフ国連大使は、あらゆる人道援助は、反政府勢力支配地域へのものも含めて、ダマスカスを経由しなければならないと述べていた。

中東研究所のシリア及びテロ対策・過激主義プログラムの代表者のチャールズ・リスター氏は、この悲劇的状況を利用して制裁を解除しようとしているとしてアサド政権を非難している。

「人道援助物資をアサド政権支配下のシリアの地域の届けるにあたって、制裁はまったく障害になっていません」と、リスター氏は言った。

内戦が12年間継続しているため、震災前の時点で、シリア国内の1,500万人以上が既に人道支援を必要としていた。(AFP)

ミズーリ州立大学中東政治学のデビッド・ロマノ教授は、「緊急人道支援物資を届けるためにシリアに課している制裁を緩和することは…実は不要である」ことに同意した。

ロマノ教授は、「現行の制裁規定では人道支援は例外として認められているため、制裁はこうした緊急支援の障害にはなりません」と、アラブニュースに語った。しかし、「シリアのより長期的で非常に困難な再建過程は、制裁緩和から大きな恩恵を受けられるでしょう」

一方、制裁緩和がシリアにおける当座の震災対応において大きな違いをもたらすと確信している人々もいる。

ドイツを拠点とするシリア政策研究センターの経済研究者のモハメド・アル・アサディ氏は、「制裁緩和は、被災者への少額の寄付から現地の支援団体の大規模な調達契約まで、震災への人道的対応を確実に容易にすることでしょう」と、アラブニュースに語った。

「支援の政治的利用は不可避なのかもしれません。しかし、現段階では人道支援を優先する必要があります」

2月13日までは、約400万人が10年近く外部支援に依存してきたシリア北西部の反政府勢力支配地域に、国連の支援を輸送するにあたっては、バブ・アル・ハワ国境検問所を通過することが、トルコ・シリア間の国境線の唯一の横断方法だった。内戦初期には他の国境検問所も使用可能だったが、国連安保理で援助が直接的に反政府勢力支配地域に輸送されるべきか、ダマスカスを経由すべきかが議論されている最中に閉鎖されてしまった。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、トルコ経由の追加支援のシリア北西部への輸送を円滑にするためにアサド政権がバブ・アル・サラムとバブ・アル・レイの2国境検問所を再開すると決定したことを歓迎した。

今年、国連安全保障理事会は、シリアへの越境支援をさらに6ヶ月延長し、同国北部へのライフラインを維持することを全会一致で議決した。シリア北西部への援助の80%以上はバブ・アル・ハワ国境検問所を通して行われてきた。

ニコラ・バンクス氏は、「地震救助活動の支援のための援助が被災地に確実に到達するまでは、現地の組織が…震災への対応の唯一の当事者ということになります」と語った。

サウジアラビア(同国の援助については写真参照)、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン、イラク、パレスチナ自治政府、リビア、モーリタニア、アルジェリアは、震災後、資金援助と生死を分ける人道支援を迅速に提供した。(Shutterstock)

彼女は「資源と資金が現地の組織に適切に柔軟な形で到達する」よう国際社会に対して強く呼びかけた。

とはいえ、当面の間は、米財務省が提供する制裁緩和の小窓のおかげで、シリア政権は国際的孤立の及ぼす壊滅的な影響から一時的な猶予を得られる。

長きにわたってロシアとイランに経済、軍事、外交の面で依存してきたシリア政権は、最近になってようやくトルコやより広いアラブ地域との正式な関係回復に着手し始めた。

アルジャザエリ氏は、国民の辛苦は、シリアの内戦と国際的孤立と関連した「より広範で顕著な制裁の解除」によってのみ解消できると語った。

「それは、多分、『シリア問題』全体への突破口を開くために、全当事者間で新たに行う対話に基づくものになるでしょう」とアルジャザエリ氏は付け加えた。

「さもなければ、そうした動きを起こさない限り、シリアのより広範な人口層と地域で生活がより劇的に劣化することが不可避となってしまうでしょう」

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