Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter
  • Home
  • 中東
  • 紛争の影におびえるスーダン近隣諸国

紛争の影におびえるスーダン近隣諸国

2023年4月23日、スーダンの準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が公開した映像のスクリーンショット。ハルツームの東ナイル地区で軍用車両の荷台に乗る戦闘員たち(AFP)
2023年4月23日、スーダンの準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が公開した映像のスクリーンショット。ハルツームの東ナイル地区で軍用車両の荷台に乗る戦闘員たち(AFP)
2023年4月29日、スーダンからの集団避難者約1900人を運ぶフェリー。スーダン港から紅海を渡り、ジェッダのサウジ・キングファイサル海軍基地へ行く(AFP)
2023年4月29日、スーダンからの集団避難者約1900人を運ぶフェリー。スーダン港から紅海を渡り、ジェッダのサウジ・キングファイサル海軍基地へ行く(AFP)
Short Url:
03 May 2023 12:05:20 GMT9
03 May 2023 12:05:20 GMT9
  • スーダン危機は政情不安なチャドや南スーダンにも波及し、さらにその先にも波及する可能性が高い
  • スーダンの二つの勢力の衝突から始まった争いが、中東地域に広範に悪影響を及ぼし始めている

レベッカ・アン・プロクター

ローマ:4月15日に発生したアブドゥルファッターハ・アル・ブルハン将軍率いるスーダン軍とモハメド・ハムダン・ダガロ司令官率いる即応支援部隊の戦闘は、三週間経っても終息する気配はない。

衝突はすでにスーダンの国土の大部分に広がっている。スーダンの近隣諸国は、紛争が国境を越え、すでに政情不安な地域にまで広がることを懸念している。

月曜日、スーダン常駐の国連人道問題調整事務所のアブドゥ・ディエン氏は、加盟国へのブリーフィングで次のように述べた。

 「スーダン危機が他地域に波及することは、深刻な懸念です。スーダンは、エジプト、南スーダン、チャド、中央アフリカ共和国、リビア、エチオピア、エリトリアの7カ国と国境を接しています。専門家やアナリストによれば、スーダンの危機は現在、政情不安な状態にあるチャドや南スーダン、そしてその先の地域にまで波及する危険性が高いです。」

国際危機グループのアラン・ボズウェル氏はツイッターで、「スーダンで起こることは、スーダンだけにとどまることはないでしょう」と述べた。

「スーダンの国家が崩壊すれば、あるいは大規模な戦争が起これば、近隣諸国はひとたまりもないでしょう」と、彼はアラブ・ニュースに語った。「スーダンの危機が長期化すれば、紛争の拡大に伴って勢力が内部分裂し、事態がより複雑になることが考えられます。スーダンの首都ハルツームでは、すでにそのような現象が見られ始めています。」

しかし、ボスウェルは、「現在はアル・ブルハン派とダガロ派の間の対立にとどまっています。しかし、外部からの本格的な介入が始まる前に、構造が変わる可能性があると思います。事態が長引けば長引くほど、介入される可能性は高くなります。そして一度外部からの介入があれば、介入は増えてゆく一方でしょう。」

スーダンはアフリカの角、インド洋、サブサハラ・アフリカ、そしてアラブ世界全体が交差する、地政学的に重要な場所に位置している。またスーダンには金、クロム、塩、石膏、セメントなどの豊富な鉱物資源があり、ナイル川や石油パイプラインなどの輸送ルートもある。そのため、紛争が国外に波及することは非常に危険だといえる。

スーダン国内で対立していた二つの勢力の衝突から始まったこの事件は、すでに周辺地域に広く影を落とし始めている。

国連は、スーダン危機によって10万人の難民がチャドに流出すると推定している。チャドはすでに50万人を超える難民を受け入れている。また、すでにスーダンから逃れた数万人のスーダン人のほとんどは南スーダンとチャドに逃れている。

ナイロビのサハン研究所(Sahan Research)の所長、マット・ブライデン氏は、アラブ・ニュースに対し次のように語っている。「スーダンは国家として破綻してしまう可能性があります。二勢力間の争いにとどまっていたものが、細かく分裂し、より多くの勢力が関わる争いに発展する危険性があるのです。」

スーダンの近隣諸国の抱える難民問題は現在表面化している問題のひとつだが、事態が長引けばさらに多くの問題が発生するだろう。

ロンドンのコモンウェルス研究所(Institute of Commonwealth Studies)の上級研究員であるマーティン・プラウト氏はアラブ・ニュースに対し、「紛争の長期的な影響はより深刻で、中東地域全体に及ぶおそれがあります。だからこそ、アラブ連盟、アフリカ連合、地域組織、アメリカ、イギリス、ヨーロッパに至るまで、誰もがこの事態を収拾しようと必死に取り組んでいます」と語った。

「しかし問題は、これによってスーダンが真っ二つに割れてしまうことです。」

2023年4月30日、チャドのエクバラ近郊、クーフルーンで木の下に避難するタンデルティ地区からのスーダン難民。(AFP)

スーダン北部の小さな村に生まれ、軍人として身を立てたアル・ブルハン将軍は、北の諸国に支援を求めている。一方、ダガロ司令官はダルフール生まれで、西部のリジガット・アラブ族の一員であり、絶大な権力と財力を持っている。

「ダガロは、自分をナイル人ではなくその他の民族の代表だと思いたがっています。しかし彼はダルフール紛争ではスーダン政府側で、民兵組織ジャンジャウィード創設の中心人物でした」とプラウト氏は語った。ジャンジャウィードは、地域の住民に「悪魔の騎兵」と呼ばれていた組織で、多くの戦争犯罪への関与が疑われている。

スーダンの人々はダガロ司令官を嫌う。しかし彼にはスーダンの産出する金と引き換えに武器を提供する強力な国外の同盟者が数多くいる、とプラウト氏は言う。

プラウト氏は、この紛争はアフリカとアラブ地域が解決しなければならない問題だと考えている。「現地の職員や市民を撤退させるために軍隊を送り込むことを除けば、これは国際問題ではない」とプラウト氏は語る。

2023年4月29日、スーダンからの集団避難者約1900人を運ぶフェリー。スーダン港から紅海を渡り、ジェッダのサウジ・キングファイサル海軍基地へ行く(AFP)

南スーダンは、紛争が国境を越えることに対して深い懸念を表明している隣国のひとつである。南スーダンでは脆弱ながらも和平交渉が行われており、紛争の影響でそれが台無しになってしまう可能性があるためだ。

内戦で疲弊しており、世界でも最も貧しい国の一つである南スーダンには、これ以上スーダン難民を受け入れる余裕はない。南スーダンの人口約1,200万人のうち約230万人が国内避難民である。UNHCRによれば、人口の4分の3が人道支援に頼っている。

ロバート・ボシアガ氏によるアラブ・ニュースの記事を引用すると、「スーダンは南スーダンが生産した原油を輸出している。この貿易の仕組みが崩れれば、スーダン東部の部族の反乱の影響ですでに不安定になっている経済がさらに傾く可能性がある。」

スーダンの石油輸出価格が、金曜日に1バレルあたり100ドルから70ドルに下落したのは、紛争の直接的影響といえる。

ティグレ紛争による人道的危機からまだ立ち直っていないエチオピアは、長い国境でスーダンと接している。エチオピアのアマハラ地域通信事務所によると、4月23日現在、23カ国の民間人が、争いの絶えないスーダンからエチオピアに逃れてきた。

「エチオピアやエリトリアがどちらかの勢力を支援しているという兆候はないが、他の勢力が関与すれば警戒するだろう」と、エチオピアのアフリカの角と呼ばれる地域の専門家であるアーロン・マーショ氏はアラブ・ニュースに語っている。「まだ自国の問題を解決していないエチオピアは、スーダンの紛争の両当事者に対し、平和的に物事を解決するための対話を開始するよう公に呼びかけています。」

2021年12月15日、リビアの首都トリポリのミティガ空港で、自国へ自主帰国するため、荷物を持ったスーダン人難民が列に並んでいる(AFP)

スーダン危機によって、スーダンの北東に位置するリビアの危機の解決はさらに遅れ、政治的分裂と安全保障上のリスクが増大する可能性がある。リビアは、貿易やリビア領内からスーダン人傭兵を帰還させるため、スーダンに依存している。

国連の試算によると、リビアが平和的移行と復興を進めることができれば、2021年から2025年にかけて、スーダンの経済パフォーマンスを227億ドル向上させる可能性があるという。しかし、スーダン危機により難民や戦闘員が国境を越えて移動することが多くなり、リビア南部の国境の治安は悪化している。

インフレと債務危機に苦しむエジプトも、エチオピアから流れ込むナイル川を利用するスーダンとの間で、水の分配をめぐって対立してきた歴史がある。

2023年4月27日、アーギン国境検問所を通ってスーダンからエジプトに渡る難民たち。(AFP)

スーダン国内においても、西部のダルフール地方が再び不安定化の危機に直面している。ボスウェル氏は、スーダンの政治的分裂が深まることで、新たな部族間紛争が発生する可能性を懸念している。

「ダルフール地方で始まった紛争が、首都ハルツームに移った、とも言えるでしょう。しかし、ダルフール紛争は決して二勢力間の紛争ではありません。ダルフール地方には数多くの武装集団が存在します。すでにわかってきたように、ダルフール地方で起こったことはダルフール地方だけにとどまることはないでしょう。ダルフール地方は隣接する国々と多くの民族的なつながりがあり、国境を越えた流れを止めることができないからです。注目を集めているのは首都ハルツームですが、紛争がすでに起こっているのはダルフール地方です。紛争が長期化する可能性が最も高い地域はダルフールです」と、ボスウェル氏はアラブ・ニュースに語った。

スーダンの衝突は、すでに政情不安な地域に混乱をまき散らし、人道的危機を引き起こすだけでなく、東・中央アフリカやその他の地域に経済的大打撃を与えている。

アメリカの投資顧問会社ムーディーズによると、衝突がスーダンの内戦の長期化につながれば、周辺国に波及して地域の安全保障が弱まり、南スーダン、チャド、エチオピア、エジプトに対する開発資金融資の資産の質に関して、懸念が生じることになる、としている。

スーダンの悪夢に終止符を打つ唯一の希望は、停戦だとボスウェル氏は言った。

今のところ、アメリカ政府もサウジアラビア政府も停戦を推し進めている。しかし、混乱はスーダンの首都だけでなく、他の地域でも続いている。スーダンの日常は紛争によって破壊された。今や多くのアナリストや住民は、最悪の事態を恐れ、待つばかりだ。

特に人気
オススメ

return to top

<