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ヒジャブを脱ぐ女性が増える中、イラン政府が反撃に出る

写真上、テヘラン北部にて、イスラム教で着用義務のあるヘッドスカーフを着用していない女性。イランでは、当局に公然と反抗してヒジャブを着用しないことを選択する女性が増えている。(AP)
写真上、テヘラン北部にて、イスラム教で着用義務のあるヘッドスカーフを着用していない女性。イランでは、当局に公然と反抗してヒジャブを着用しないことを選択する女性が増えている。(AP)
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11 May 2023 01:05:42 GMT9
11 May 2023 01:05:42 GMT9
  • 当局は法的脅迫を行うとともに、ヒジャブを着用していない女性にサービスを提供する一部の企業を営業停止に追い込んだ
  • たとえどんな結果が待ち受けていても、もう限界だと言う女性も

テヘラン:イランの首都では、母親を敬うために女性は頭にスカーフを巻くことが義務であるとする内容の看板が随所に掲げられている。しかし、1979年のイランイスラム革命後の混乱期以来おそらく初めて、老若男女を問わず、より多くの女性が頭部を覆わないことを選択している。

このような公然たる抵抗は、9月に22歳のマフサ・アミニ氏がヒジャブを緩く着用していたために風紀警察に拘束されて命を落としたことに対して、数カ月間にわたって続いた抗議活動の後に生じたものだ。デモは沈静化したように見えるが、一部の女性が公共の場で髪を隠さないという選択をしたことは、この国の神権政治に新たな課題を投げかけることになった。

女性たちの反発は、何十年もベールに包まれていたイランの分裂を露呈させるものでもある。

当局は法的脅迫を行い、ヒジャブを着用していない女性にサービスを提供する一部の企業を閉鎖。地下鉄や空港など公共の場で、警察やボランティアが口頭で警告を行っている。頭部を覆わない女性を車に乗せたドライバーをターゲットにしたSMSメッセージの送信も行われている。

しかし、イランのアナリストらは、政府があまりに強く圧力をかけると、反体制派が再燃する可能性があると警告している。このデモは、急速に進む核開発をめぐる欧米との対立によって経済的苦境に立たされているイスラム共和国にとって、厳しい時期に勃発したと言える。

どんな結果が待ち受けていても、もう限界だと言う女性たちもいる。彼女らはイランの自由と娘たちのより良い未来のために戦っているのだと話す。

また、女性の社会進出が進むことで、当局が圧力をかけづらくなる可能性もあるとの指摘もある。

「すべての事業を閉鎖したいのだろうか」と、最近テヘランに来た23歳の学生シャーヴィン氏は、短く切った髪を風になびかせながら言った。「警察署に行ったら、警察署も閉鎖するのか?」

それでも、彼女たちはリスクを心配する。インタビューに応じた女性たちは、反響を恐れて苗字は明かさなかった。

29歳のヴィダ氏は、自分と友人が人前で髪を隠さないという決断をしたことは、ヘッドスカーフだけの問題ではないと語る。

「これは、私たちのことは放っておいてくれ、という政府に対するメッセージなのです」と彼女は言った。

女性にヒジャブを義務付けているのは、イランとタリバン支配下にある隣国のアフガニスタンだけである。9月に抗議デモが起こるまでは、ヒジャブを肩まで下ろしていた女性もいたものの、スカーフを身につけていない女性を見かけることは稀であった。現在、テヘランの一部の地域では、ヘッドスカーフを身につけていない女性を目にすることが日常的になった。

イスラム教を遵守する女性にとって、頭を覆うことは神の前で敬虔であること、家族以外の男性の前では慎ましくあることの証しとされている。イランでは、ヒジャブ(一部の人が着用する全身黒色のチャドルも)は、長い間、政治的な象徴でもあった。

1936年、イランのレザー・シャー・パーレビ国王は、西洋に倣う取り組みの一環として、ヒジャブを禁止した。その5年後、息子のモハンマド・レザー・パーレビ国王が政権を握ると、禁止令は廃止された。それでも、イランの中流階級や上流階級の女性の多くは、ヒジャブを着用しないことを選んだ。

1979年のイスラム革命では、国王の打倒に貢献した女性たちの一部が、顔を除いて頭からつま先まで体を覆う、チャドルと呼ばれる衣服を取り入れた。黒い布に身を包み、武装した女性の姿は、同年末のアメリカ大使館占拠人質事件により、アメリカ人にとっておなじみの光景となった。しかし、他の女性たちは、アヤトラ・ルーホッラー・ホメイニ氏がヒジャブを公の場で着用することを定めたことに抗議した。1983年にはヒジャブの着用が法律化され、罰金や2ヶ月の懲役などの罰則が課されるようになった。

それから40年、テヘラン中心部や北部では、ヘッドスカーフをかぶらない女性を日常的に見かけるようになった。当初、イラン政府はこの問題に対する直接的な対立を避けていたが、ここ数週間、この動きを抑制するために、国家権力を行使することが増えてきた。

4月上旬、イランの最高指導者アヤトラ・アリー・ハメネイ氏は、「ヒジャブを外すことはイスラム的にも政治的にも許されることではない」と宣言。

ハメネイ氏は、ヒジャブの着用を拒む女性は、操れられているのだと主張した。「彼女らは、ヒジャブを脱ぎ、ヒジャブに抗うこの政策の背後にいるのが誰なのかに気づいていない」とハメネイ氏は語った。「敵のスパイとそのスパイ機関がこの動きを推し進めているのだ。もし彼女たちがこのことを知ったら、間違いなくこのような取り組みには参加しないはずである。」

強硬派のメディアは、ショッピングモールでヒジャブをつけていない女性の様子を掲載し、「不道徳な」状況の詳細について報道し始めた。

4月25日、テヘラン北部の23階建てのショッピングモール「オパール」で、髪を露出させた女性たちがボウリング場で男性と一緒に過ごしているのが目撃され、当局はこの施設を数日間閉鎖した。

「これは集団的懲罰です」と、ショッピングモール内の衣料品店の販売員、ノディング・カスラ氏(32歳)は言った。「客の髪のことで何百人もの従業員がいるモールを閉鎖するのですか?」

改革派のシャルグ紙によると、ヒジャブを着用していない女性を入店させたことを理由に、警察は全国で2000軒以上の商店、レストラン、さらには薬局まで営業停止にしているという。

「これは、企業にとって負け戦です。当局の命令に従ってヒジャブを着用しないよう(女性に)警告すれば、人々はその店をボイコットするでしょう」と、イラン商工会議所の元副会頭、モフセン・ジャラルプール氏は言う。「かと言って、当局に従わない場合は、政府によって閉鎖されてしまうのですから。」

イランの政治について執筆しているビジャーン・アシュタリ氏は、マフサ・アミニ氏に触発された抗議行動では沈黙していた企業経営者らが、今度は立ち上がる可能性があると警告した。

一方、ここ数カ月間は髪を隠していない女性へのサービスを提供していた政府機関もあったが、現在ではサービスの提供は行われなくなっている。シラーズ市で開催された女性限定ハーフマラソンで、一部の参加者がヒジャブを着用せずに競技したことを受け、同国陸上競技連盟のハシェム・シアミ代表が今週末、辞任した。

取り締まりがエスカレートする兆しもある。

一部の聖職者は、ヒジャブ法を徹底するために、イランの準軍事組織である革命防衛隊の有志によるバスィージ部隊だけでなく、兵士も配備するよう促している。半官営のファルス通信によると、警備隊は8日、ホルムズ島付近でヒジャブを着用していない女性らを乗せたとして、イランの漁船を押収した。

また、警察は「人工知能」を搭載した監視カメラで、頭に被り物をしていない女性を見つけ出すという。イランのメディアが公開した動画では、監視カメラの映像と身分証明書の写真が照合されることが示唆されていたが、現在そのようなシステムが運用されているかどうかは不明である。

テヘラン在住の政治アナリスト、アフマド・ゼイダバディ氏は「核合意や制裁緩和をめぐり、政府が国際社会と合意に達しない限り、ヒジャブをめぐる争いは依然として中心的な地位を占めるだろう」と述べた。

しかし、外交は停滞しており、反政府デモは拡大する可能性があり、ヒジャブは 「主たる争点となり、スカーフだけをめぐる争いではなくなるでしょう。」とゼイダバディ氏は述べた。

33歳のソレイヤ氏は、スカーフを被らないことで、より広い目的を達成するために戦っているのだという。

7歳の娘をテヘラン中心部にある小学校に送りながら、「私や私の世代が経験したようなイデオロギーの圧力に娘をさらしたくはありません。これは娘のより良い未来のためなのです。」とソレイヤ氏は語った。

AP

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