



イドリブ:シリア北西部の大部分を支配下に置く反政府勢力の指導者は、この10年間に、破壊的な爆破行為を行ったと主張する声明を発表し、欧米の「十字軍勢力」への復讐を行うと脅迫を重ね、イスラム教徒による宗教警察を放って女性の不適切な服装を取り締まることで悪名を馳せてきた。
アブ・モハメド・アルゴラニとして知られる男性は、現在、多元主義と宗教的寛容のメッセージを拡散することで、自身の武装勢力であるハイアト・タハリール・アルシャーム(通称 HTS)をその出身母体であるアルカイダから遠ざけようと手を尽くしている。
「ブランド再構築」の一環として、アルゴラニは、自身の組織内の過激派を抑え込み、悪名高い宗教警察を解散させた。また、最近、この10年以上の期間で初めて、イドリブ県の長らく閉鎖されていた教会でキリスト教のミサが行われた。
アルゴラニは、宗教関係者と現地当局関係者との最近の集会で、イスラム法を無理強いするべきではないと語った。「私たちを見た時だけ祈り、私たちが見えなければ祈らないような偽善的な社会を私たちは欲していません」と、アルゴラニは語った。
アルゴラニの組織の孤立化の深まりと共にこうした変化が露になってきた。かつてシリアで抗議活動が内戦へと深刻化した際に反政府勢力を支援していた各国が、シリアのバッシャール・アサド大統領との関係を修復しつつある。
シリアの武装反政府勢力への支援国家として中心的な存在であるトルコが、潮目の変化を示した。
先週、トルコとシリアの外相はモスクワで会談した。こうした会合は2011年以来初めての事だった。アサド大統領の主要同盟国であるロシアとイランの外相も会談に出席した。
シリア北西部に駐留するトルコ部隊という障害は残っているものの、この会談は、シリア政府とトルコ政府の関係修復への重要な一歩となった。
それと同時に、米国はHTSをテロ組織認定し、アルゴラニの居場所についての情報に1千万米ドルの懸賞金を懸けた。国連もHTSをテロ組織指定した。
今月初め、米国とトルコは、共同で、HTSを含む武装組織のために資金調達を行ったとされる2人の人物に制裁を課した。
アルゴラニは、2011年にシリアで発生した抗議活動の最初の数ヶ月間に、当時はヌスラ戦線として知られていたアルカイダのシリア支部の指導者となり、注目を集めるに至った。オサマ・ビン・ラディンのアルカイダの戦闘員や上級幹部らはシリア北部の活動拠点に参集したが、後にその多くは米国による空爆で殺害された。
2016年7月、ヌスラ戦線はファタハ・アルシャーム戦線に名称を変え、アルカイダとの繋がりを断つと発表し、これは多くの人に対外的イメージの改善の試みであると見做された。ファタハ・アルシャーム戦線は、その後、他のいくつかの組織と合併し、ハイアト・タハリール・アルシャーム(HTS)となった。
この間に、アルゴラニは自身の外見を初めて公開し、服装を白いターバンとローブからシャツとパンツへと変えた。アルゴラニの戦闘員は、敗北を喫してイドリブに逃げ込んで来たダーイシュの戦闘員を追跡し、HTSから離脱したアルカイダの強硬的なメンバーを含むホラス・アルディン(「宗教の守護者」)という別の組織の追撃を行った。
アルゴラニの対外的イメージの変更は、米国政府にとっては特に印象的なものではなかったように見受けられる。
米国政府の「正義への報酬プログラム」のソーシャルメディアアカウントには、薄い青色のシャツに濃紺のブレザーを着たアルゴラニの写真が掲載され、アラビア語のキャプションには、「こんにちは、ハンサムなアルゴラニ。良いシャツですね。着る服を変えたところで、今後もいつまでも君はテロリストのままです」
そして、「1千万米ドルの報奨金をお忘れなく」と、書かれていた。
2017年、HTSは「救国政府」と言われるものを設立し、地域の日々の業務に対応するようになった。初期にはイスラム法を厳格に地域住民に遵守させようとした。宗教警察は、女性が顔と手以外のすべてを覆うように徹底することを任務とした。
宗教警察の職員は、金曜日には店舗を閉店させて、毎週の礼拝への参加を強制しようとした。
音楽の演奏も、公共の場において水パイプで喫煙することも禁止された。
2020年3月には、互いに対立する武装組織を支援していたロシアとトルコが停戦協定に至った。
それ以来、反政府勢力の支配下となっているシリア北西部の状況は比較的平穏である。HTSはISや他の聖戦主義組織の残党への追撃に活動の重点を置くようになった。シンクタンクの国際危機グループは、HTSは進化して「国際的な聖戦主義から距離を置くようになった」と今年初めの報告書で述べている。
また、HTSは、時として、スンニ派アラブ人が多数を占めるシリア北西部地域における少数派の守護者を自認することもある。
3月に、ジンディレスの町で、クルドの新年を祝おうと灯りをともしたクルド人男性4人をトルコの支援を受けた武装勢力の構成員が射殺した事件があった。アルゴラニは、射殺された男性たちの家族やその地域の他のクルド人住民たちと面会し、加害者への復讐を約束した。
2021年に行われたPBSによるインタビューで、アルゴラニは彼のHTSがテロ組織認定されたことは「不公平」で「政治的」なことであるとして、自身は欧米のシリア北西部に対する地域政策に批判的ではあるものの、「HTSは欧米と戦いたいと言っているわけではない」と述べた。
アルゴラニは、自身のアルカイダとの関わりは既に途絶しており、関わりのあった過去においてすら彼の武装組織は「シリア国外における作戦の実行に反対」していたと語った。
米国務省は、アルゴラニは依然としてテロリスト指定されており、そうした指定の変更に関連し得る審議についてはコメントしないと声明を発表した。
センチュリー・インターナショナル研究所フェローのアーロン・ランド氏は、米国がHTSやアルゴラニをテロリストのリストから外す可能性は低いと考えていると述べた。「私の知る限りでは、米国政府はHTSと国際的な聖戦主義組織との関係を本当に憂慮しています」と、ランド氏は語った。
トルコに拠点を置くシンクタンクであるジュスール研究センターに所属する研究者であるワイアル・オルワン氏は、アルゴラニはイドリブ県を支配下に置いていることを示し、将来内戦が終結した後のシリアにおける自身の立場を確保しようとしているのだと確信していると語った。
HTSの違法行為を監視している活動家グループのメンバーであるアシム・ゼダン氏は、現在継続中のテロ指定はアルゴラニのセルフイメージにダメージを与えていると語った。
「救国政府を設立し省庁を設置した現在、アルゴラニは自身が国家元首であると思っているのです」と、ゼダン氏は述べた。
AP