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シリアの人道的危機は道徳的ジレンマ:アサド政権に関わるべきか否か

反体制派が支配する北西部では、100万人以上の人々が命の危険にさらされている。(AFP)
反体制派が支配する北西部では、100万人以上の人々が命の危険にさらされている。(AFP)
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30 Jun 2021 10:06:16 GMT9
30 Jun 2021 10:06:16 GMT9
  • 援助機関によると、現在、約1100万人のシリア人が人道的支援を必要としている
  • 先の道は、戦時中にシリアを悩ませたのと同じく矛盾に満ちている

デービッド・ロマーノ

ミズーリ、米国:内戦が始まってから10年以上経ったが、シリアは依然として打ちのめされている。50万人がこの内戦で亡くなったと推定されているが、その大多数はバッシャール・アサド大統領が国の支配権を取り戻すために行った残忍な作戦の犠牲者だ。

約1200万人のシリア人が家を失い、難民や国内避難民になっている。

シリア国民の少なくとも90%が貧困ライン以下の生活を送っている。シリアのインフラの約3分の1が廃墟と化している。援助団体の推計によると、現在、約1100万人のシリア人が人道的支援を必要としている。パンや燃料の供給すら減り続けているため、飢餓が今にも起こりそうだ。

こうした状況下で反射的に取る自然な行動は、アサド政権に関する異議申し立ては脇に置き、シリアの人々を支援するという、困難ではあるが非常に急を要する仕事に移ることであろう。

とにかくアサド氏が戦争に勝利しているのは、どう見ても、主にロシアとイランの支援のおかげだ。シリアを孤立させ、制裁を続けても、もう十分に苦しんでいるシリア国民の苦しみを長引かせるだけだろう。そういうセオリーだ。

しかし、アサド政権を国際社会に復帰させるとなると、重大な道徳的、現実的問題が生じる。国際社会は、自国の数十万の民間人を虐殺した支配者の「過去を水に流す」ことを本当に望んでいるのだろうか。

約1200万人のシリア人が家を失い、難民や国内避難民になっている。(AFP)

何よりも、自国民に対して化学兵器を使ったり、空爆でわざと病院を狙ったり、政治犯を大量に処刑したりした政権を許すことによる道徳的汚点を、多くの人は受け入れることができない。

アサド氏の罪が許されるのを見れば、政治的抗議に対処する他の独裁的指導者への明確なメッセージになるでだろう。彼らは自分たちのやりたいようにすることができ、世界はすぐに彼らの罪を忘れるというメッセージだ。幸いなことに、シリア国民の苦しみの放置とアサド政権の再建の2つ以外にも選択肢はある。

シリア人を助けつつ、アサド政権を孤立させ、遠ざけておく方法が残されている。

まず第一に、アサド氏が現在支配しているのは、シリアの領土の3分の2だけだ。反体制派が支配する北部イドリブ県は、トルコの支援を受けて持ちこたえている。トルコはアフリンや他の北東部の領土も占拠している。

シリアにいるクルド人は北東部の広大な領土を支配している。そこにはシリアの油田の9割と農地の大部分がある。

特に、石油収入は普通、国庫に直接流れるということを考えると (金利生活者国家モデル)、シリアの石油収入の9割がアサド氏の手に渡らないようにすることで、アサド政権を懲らしめ、シリアの他の当時者に力を与えることに大きく寄与することができる。

これらの地域の人々は、首都ダマスカスを経由しない、越境国際支援の恩恵を受けるべきだ。そのためには、こうした支援を認める国連決議を継続的に更新し、この措置に拒否権を行使しないようロシアを説得する必要がある。

国連安全保障理事会が、トルコとの国境に位置するバブアルハワ国境検問所(国連による支援を届けるために残された最後の国境検問所)を経由する、国境を越えた救援物資の輸送の認可を更新しなければ、反体制派が支配する北西部に住む100万人以上の人々の命が危険にさらされる。決定は今後2週間以内に下される予定だ。

国際救済委員会のデービッド・ミリバンド委員長は先日、「支援を必要としている全てのシリア人に最短ルートで支援を届けることは、政治的選択ではない。人道的責務だ」と述べた。しかし、過去の例からすれば、シリアに対する安保理の行動は、ミリバンド氏が「厳しい人道的な現実」と呼んだものに起因されたものではない。

2020年には中国と、アサド政権を支持するロシアが、バブアルサラム国境検問所とアルヤルビヤ国境検問所を開いたままにできる決議案に拒否権を行使した。ロシアは現在、ダマスカスを経由する他の支援ルートが利用可能であると主張し、バブアルハワに関する決議の更新を阻止することをほのめかしている。

アムネスティ・インターナショナルでシリアを調査するダイアナ・セマーン氏は、6月25日に発表した声明で、「安保理の政治的駆け引きが、現代における最悪の人道的危機の一つに対する国際的対応をいまだに妨げているのは恥ずべきことだ」と述べた。

同氏は「長年にわたる戦闘と大量移動により、シリア北西部では人道的な大問題が起きている」と付け加えた。

シリア国民の少なくとも90%が貧困ライン以下の生活を送っている。(AFP)

昨年起きた、クルド人が支配する北東部での大失態にシリア政府が関与していたことから、援助機関は、シリア政府がバブアルハワ国境検問所の代わりをできるかどうか疑っている。

2020年1月にはアルヤルビヤ国境検問所が閉鎖され、国連によるイラクからの、国境を越えた援助物資の輸送が終了した。国境検問所を経由する国連の活動は、ダマスカスからの輸送で代替されることになっていた。しかし、シリア政府による官僚主義的な障害やアクセス制限により、この地域に届く援助物資の量は激減した。

「シリア政府が国連の援助の代わりをできるという考えは馬鹿げている。シリア政府が越境支援に匹敵する支援をするのは不可能と思われるだけでなく、シリア当局は人道的アクセスを組織的に妨害することで有名だ」とセマーン氏は付け加えた。

アサド政権が変わるか、アサド政権の統治下で人々を守るために必要な改革が行われるまでは、シリア中央政府によるこれらの地域の支配への回帰を大急ぎで促すべきではないことは明らかだ。

特に、クルド人居住区は、アサド政権よりも合法で真正な地方政治機関として承認されるべきだ。これは、シリアの領土の保全に問題を生じさせることなく実現可能だ。

そのような承認の例は、亡命政府や、国の領土の一部のみを支配する政府といった形を取ったものが、過去にも現代にもたくさんある。

実際、クルド人居住区は、アサド政権に比べて、彼らの領土内のさまざまな宗教や民族に対してより寛容であり、より民主的であることが証明されている。トルコの支援を受けるイドリブ県の場合、中央政府の支配に戻れば、アサド政権の報復から逃げる人々で、新たな難民危機が起こるだろう。

シリアのインフラの約3分の1が廃墟と化している。(AFP)

アサド政権の支配下にあるシリア国民のために、国際社会は、アサド政権に力を与えたり、同政権を承認したりすることなく、シリアの経済復興を支える方法を見つける必要がある。

つまり、シリアに対する広範で多岐にわたる制裁を避けるということだ。アサド政権と高官に対する、規模を縮小した制裁は継続可能で、継続すべきだが、シリア国民全員をこの制裁の網にかける必要はない。

もちろん、シリアの多くの基本的インフラの再建も必要だが、アサド政権の承認や再建を望まない国際社会にとっては、そんな計画を考えるのは困難である。

そういうわけで、この仕事はアサド氏を支援するロシアに任せるのがベストかもしれない、という考え方もある。そのロジックはこのようなものだ。とにかく、インフラの大部分を破壊したのはロシアの空軍力とロシアが提供した兵器なので、ロシアにインフラを再建させよう。

外交面では、ダマスカスの国営メディアは最近、シリアが多くのアラブ諸国や欧米の一部の国との国交を再開したことを評価している。関係が改善したのは、5月に「シリアのバッシャール・アサド大統領が圧勝で再選した後だ」と国営メディア主張している。

アサド政権を国際社会に復帰させるとなると、重大な道徳的、現実的問題が生じる。(AFP)

アサド氏の選挙のうさんくささはさておき、シリアとのコミュニケーションのチャンネルをどこかの時点で再開する必要があるという事実に変わりはない。

現在、アラブ連盟の過半数の国が、アサド氏率いるシリアとの和解と、シリアによるアラブ連盟への再加盟を支持しているようだ。シリア国民への人道的支援を調整するためにも必要だと思われる。

アラブが何らかの形でシリアに建設的に関与しなければ、シリアの未来は中東の新勢力、すなわちイラン、 ロシア、トルコ、イスラエルによって決められる可能性が高い。

先の道は、内戦中にシリアを悩ませたのと同じく矛盾に満ちている。悪い選択肢と、より悪い選択肢が並んでおり、どれを選んでも十分に満足のいく解決には至らない。

• デービッド・ロマーノ氏はトマス G. ストロング賞を受賞したミズーリ州立大学教授で、専門は中東政治

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