イスラエルの選挙前の政治状況は完全に予想の範囲内だ。再選を目指す現職が軍事攻撃をしかけたり、違法入植地をさらに拡大して自身の人気を上げようとするだろう。別の手段として、もしくはそれらの行動に加えて、ヨルダン渓谷を併合するというベンジャミン・ネタニヤフ氏の最近の公約のように、現職の総理大臣が非常識な選挙後の約束という手段に打って出る可能性もある。
ネタニヤフ氏の脅迫を真剣にとらえなくていいと言っているわけではない。政治アナリストの誰しもが保証するように、私たちはかつてないほど予測のつかない時代に生きており、どんなことでも起こりうる。
米国の選挙シーズンのカウントダウンも始まっていることを考えれば、それはさらに真実味を増す。周知の通り、パレスチナを支持する勢力が米政府で政治家の票を勝ち取ることはなく、イスラエル支持者が勝利する。アメリカの現政権は、いかなる場合もパレスチナ人に協定を交わす意思がない限り、多くの支援を提供できないということを非常に明白にしている。
パレスチナ指導部はこれまでのところ、ホワイトハウスのジャレッド・クシュナー上級顧問のチームからの招待を拒否し、交渉の席に着くことすらない。自然な流れとして、そのような交渉に関心が低いであろうイスラエルの指導部に、和平を望んでいないのは相手方だという釈明を与えている。
以上のような状況から、私がこのコラムで繰り返し述べている論点が浮上する。それは「パレスチナ人よ、行動せよ」というものだ。確かに、彼らは当てにしているものをすべて手に入れることはできないだろうが、手ぶらで帰ってくることもないだろう。もし成果がなかったとしても、必ずしも条件を受け入れなければならないわけではない。
クシュナー氏の構想に詳しい米国やサウジアラビアの情報筋は今年はじめ、計画にはイスラエル側の犠牲も伴うとアラブニュースに明かした。またこれらの情報筋のいずれも、ヨルダン渓谷の一部または全部を併合する計画は確認していない。むしろ、既報の通り、パレスチナ国家の承認を含む案が出され、2国間の土地交換の交渉が行われるということだ。
すでに数十年間、観測筋は和平の機会が閉ざされつつあると警告してきた。現実は痛みを伴うかも知れないが、パレスチナ人は実利的な姿勢になり、協定の交渉が長引くほど抜け出すのが難しくなるという事実を受け止めなくてはならない。今日、そのことは歴史的に証明されている。
さらに、和平合意に達するのに時間がかかるほど、有害な結果となるだろう。近隣諸国、特にシリアやレバノン、ヨルダンにはすでに被害が及んでいる。
イスラエル側も素早く、決断力を持って行動しなくてはならない。今度の選挙の結果がどうであれ、2国家共存案が急速に後退しているからだ。ネタニヤフ氏か、イスラエルの次期指導者に500万人近くのパレスチナ人を海に放り出すという計画がない限り、現地の人口状況のために共存は不可能となるだろう。
事態をさらに複雑にしているのは、ネタニヤフのチームが票を確保するためにパレスチナの土地で違法な入植地を建設し続けていることだ。この政策のおかげで彼はイスラエル史上最長任期の総理大臣になっているが、パレスチナ側との和平達成をさらに難しくしているのも事実だ。
この問題を俯瞰してみると、2005年にイスラエルのアリエル・シャロン首相がガザ地区の21か所のユダヤ人入植地を撤去した際に移住を余儀なくされた、比較的少数の入植者のみを考慮に入れればよいことになる。もしくは、1982年にメナヘム・ベギン首相がシナイ半島の18か所のユダヤ人入植地を撤去した際に、現地から移住させられた数千人でもいいだろう。
ネタニヤフ政権下において、ヨルダン川西岸への違法な入植者は80万人に膨らんでいると言われる。そのような膨大な人数のせいで入植者の移動は難題となり、発展可能な隣接国家を設立するための交渉はパレスチナ人にとってさらに難しくなっている。
現状では、ヨルダン渓谷やゴラン高原、その他のアラブ領土を併合する計画は、政治的観点からはネタニヤフ候補に有利に働くかも知れない。しかし将来的に、イスラエル側が得るものはない。そのような動きはアラブ諸国との関係正常化をさらに難しくし、アラブやイスラエルに対する大きな脅威としてイランを存続させるだけだ。