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国連主導の原油回収作業の開始で、FSOセイファーの物語は終章へ

国連主導の原油回収作業を待つ、ラス・イッサ沿岸沖の紅海に係留された老朽化の進むFSOセイファー。(AFP)
国連主導の原油回収作業を待つ、ラス・イッサ沿岸沖の紅海に係留された老朽化の進むFSOセイファー。(AFP)
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05 Jun 2023 04:06:03 GMT9
05 Jun 2023 04:06:03 GMT9
  • イエメンの紅海沿岸沖に浮かぶ老朽化の進むFSOセイファー近傍に巨大タンカーが停泊し、複雑な原油回収作業が開始される
  • 作業が進捗し始めたことは、関係者や周辺住民、環境、そして多国間主義の理念にとって明るい知らせだと国連関係者が語った

エファレム・ コッセイフィ

ニューヨーク市:国連のイエメン常駐調整官のデヴィッド・グレスリー氏によると、イエメンの紅海沿岸沖で放置され老朽化している浮体式貯蔵積出設備(FSO)セイファーからの原油の回収は、特に重大な問題さえ発生しなければ、10日から14日以内に完了する見込みだという。

国連がこの作業のために最近購入した支援船「エンデヴァー」からのビデオリンクで、グレスリー調整官は、作業を完了して生態系への脅威を排除するためには、1,400万米ドルの追加資金が「喫緊に」必要で、必要となる残りの資金額の合計は2,900万米ドルだと語った。

エンデヴァーは月曜日にジブチから出航し、イエメンのフダイダ港に停泊後、火曜日に沖合に係留されているFSOセイファーまで移動し、海洋への流出が危惧されている110万バレルの原油の回収という細心の注意を要する作業を開始する。

環境破壊をもたらし得るこの時限爆弾の取り外しを安全に完了し、ほとんど確実視されていた壊滅的な災害から紅海の生態系や沿岸で操業している漁業コミュニティを救った後、エンデヴァーはFSOセイファーを環境に配慮した船舶解体ヤードへと曳航する予定である。

国連のこの取り組みを主導している国連開発計画(UNDP)のアヒム・シュタイナー管理官は、この回収作業の開始について、「非常に特別な日であり、長期にわたってFSOセイファーの物語に関わって来た人々にとって、真に画期的な出来事です」と述べた。

老朽化したFSOセイファーから110万バレルの原油を代替船に乗せ換え移送する契約を、UNDPとボスカリスが同社の子会社SMITサルベージと締結した後、紅海に向かう支援船エンデヴァー。(提供写真)

エンデヴァーの到着は「非常に重要かつ複雑な工程内の一段階に過ぎませんが、人類と地球にとって、本当に、イエメンにとって、紅海にとって、また多国間主義の理念にとって大きな意味を持っています。予防的措置を講じるとはどういうことかの実例を、国連が今まさに示しているのです」と、シュタイナー管理官が水曜日に語った。

「こうした大惨事の未然の防止とはどういう事なのか、これほど劇的な実例は中々ありません。そして、この工程は、この規模の原油流出が発生してしまった後の浄化にかかる費用の数分の一で済むのです」

竣工以来47年目となるFSOセイファーは、2015年のイエメン内戦の開始以来、ほぼメンテナンスを受けていない。そのため、原油漏れや引火、爆発などの危険が差し迫っていると専門家らが危惧するほど老朽化した状態となっていた。

環境破壊の観点では世界最悪の原油流出となった1989年のアラスカ沖のエクソン・バルディーズ号事故の4倍の流出量になり得ると、国連は警告していた。

国連によると、FSOセイファーから大規模な原油漏れがあった場合、イエメン人160万人を初めとして約3,000万人の生活を支えている紅海の生態系が深刻な被害を受けると専門家らは推定しているという。

こうした流出事故は、イエメン西岸沿いの漁業を壊滅させ、漁業を営むコミュニティの生計手段を破壊し得る。こうしたイエメンの行業コミュニティの人々の多くは、内戦のため、既に人道支援に依存した生活をしている。

紅海での原油流出を回避するための国連主導の作業工程開始前に撮影された、イエメンのラス・イッサ沖で老朽化したFSOセイファーから原油を回収する作業のための支援船の担当スタッフたち。(AFP)

FSOセイファーからの流出が発生した場合、国際貿易全体の10%が経由する世界有数の水路である紅海における商用船舶の運用にも大きな支障が来され、サウジアラビアやジブチ、エリトリアなどの沿岸諸国に悪影響が及び得る。

老朽化し錆の出たFSOセイファー上で火災が発生すると、840万人以上が有毒な汚染物質に曝露され得る。

原油回収作業は2段階に分けて行われる。第一に、代替船の役割を果たすタンカー「ノーティカ」に積み替えられる。その後、常設の貯蔵施設に移送され、イエメンの政治情勢が安定し売却かさらに別の場所に移送するかが決定されるまでそこに留め置かれる。

エンデヴァーがFSOセイファー近傍に到着したことは重要な節目ではあるものの、グレスリー調整官はすぐにこれは「作業工程の最初の一歩に過ぎません」と述べ、完遂までに依然として多くの段階を経なければならないと付け加えた。

「原油の移送のためにFSOセイファー側を整備し、そして、原油を積み込む代替タンカーを到着させる必要があります」と、グレスリー調整官は水曜日の記者会見で語った。

「FSOセイファーの係留を解除し解体のために牽引し、代替タンカーにパイプラインを接続するために用いる敷材を搬入しなければなりません。4つの段階が完了するまで、原油の貯蔵と環境の保護を確実に行ったということにはなりません」

国連主導の原油回収作業を待つ、ラス・イッサ沿岸沖の紅海に係留された老朽化の進むFSOセイファー。(AFP)

グレスリー調整官は、「私たちがFSOセイファー関連の作業工程に取り組んでいる現在の環境の政治と安全保障の面での不安定さ」を強調し、「何の中断も障害も無くこれらの段階を完了出来ると信じ込んでしまうのは大間違いでしょう」と付け加えた。

「とはいえ、これまでの所、私たちは全ての障害を克服出来ています」と、グレスリー調整官は語り、イエメン政府の支援に感謝の言葉を述べた。

「紛争当事者間に対立があるにせよ、より深刻な危険を認識し、より大きな信念を持って貢献するために、このプロジェクトに500万米ドルの資金を自ら提供したという事実は、共通の脅威に対峙するためであれば誰もが団結出来るのだということを示しているのだと私は思います」と、グレスリー調整官は話した。

グレスリー調整官は、サウジアラビアやオランダ、ドイツ、米国、英国、EU、その他19カ国の支援に感謝した。彼は、また、この作業工程のホスト役を務めたジブチ、国連の取り組みに貢献した多様な企業、そして、「エンデヴァーを無料で通行させてくれたエジプトのスエズ運河庁の素晴らしい厚意」に感謝した。

この段階に至るまでの道のりは、政治的、財政的障壁も有り、長くつらい過程だった。「なぜこれほど時間がかかっているのかとよく尋ねられました」と、UNDPのシュタイナー管理官は語った。

「申し上げておきたいのですが、エンデヴァーの到着は非常にハードな過程の節目です。何よりもまず、イエメンでデヴィッド(・グレスリー調整官)が全ての関係者との折衝を主導し、こうした原油回収作業を実際に開始するための環境作りや合意形成を行いました」

それから、担当チームは、「大規模な資金集めを開始しなければなりませんでした。そして、現時点では、必要な資金のかなりの部分を確保出来ました。作業工程の2つのフェーズ、または、2つの部分の総費用は約1億4,200万米ドルです」

「FSOセイファーから文字通り原油を取り除くこの緊急フェーズでは資金が後1,400万米ドル足りません。この緊急フェーズを完了するために、この数日間でその資金を何とか確保しようと私たちは懸命になっています」

「原油輸送のために専用設計され建造された大型のタンカーを確保する必要もあったのですが、それは今日の市場ではほぼ不可能でした。価格が2倍になってしまっていて、そのようなタンカーの確保は困難でした」

「必要な資金のすべてを調達できるかどうかはまだ分かりませんでしたが、ようやく何とか大型タンカーを1隻確保して購入することが出来ました」

左:国連開発計画のアヒム・シュタイナー管理官;右:イエメン国連常駐調整官のデヴィッド・グレスリー氏。(提供写真)

必要な資金の調達のために、「実際に船舶仲立人や海事法弁護士、石油流出事故の専門家を見つけることに始まり、緊急時計画や安全保障関連計画の策定、保険契約の交渉と、この数ヶ月間、膨大かつ複雑な準備手順を踏む必要がありました」と、シュタイナー管理官は語った。

「実際、必要な保険契約の交渉をようやく完了出来たのは金曜日の夜中でした。そこで、私たちはエンデヴァーに月曜日早朝に日の出とともにジブチから出発し火曜日に現地に到着するようすぐに連絡しました」

なぜ原油回収作業に必要な比較的少額の資金を調達することがそれほど困難だったのかという点をアラブニュースに尋ねられたシュタイナー管理官は、「実業の世界では、船舶輸送業界から石油やガスの業界に至るいずれの業界でも、収益が上がる類まれな瞬間が確かにあるものです。私たちがより強力な貢献を期待していた理由はそれだと私は思います」

「とは言うものの、国際石油・天然ガス 生産者協会からは1,000万米ドルの資金提供の約束をいただいており、私たちは今電話をかけるところです。企業トップの方たちには、『さあ、お願いします。私たちは今すぐこの不足分を埋めなければなりません』と伝えようと思います。メリーランド州の小学生たちですらこのプロジェクトに寄付してくれています。このプロジェクトに関わらないことは機会の逸失であり、本当に残念なことです」

原油回収作業を妨げたのは、資金の問題だけではなかった。フダイダを含むイエメン一帯を支配下に置いているフーシ派民兵組織が、専門家がFSOセイファーの状態を調査し応急修理を行うことを数年にわたって妨害し、遅延を生じさせ続けてきたのだ。

フーシは、物流や安全保障の確保について要求を拡大し続けた。

「私たちは、このプロジェクトへの寄付者を含む多くの国連加盟国政府が、こうした度重なる遅延を非常に懸念していることを理解しています。私たちも、もちろん、同じ懸念を抱いているのです」と、アントニオ・グテーレス国連事務総長の報道官であるステファン・デュジャリック氏は2021年の記者会見で語った。

老朽化したFSOセイファーから110万バレルの原油を代替船に乗せ換え移送する契約を、UNDPとボスカリスが同社の子会社SMITサルベージと締結した後、紅海に向かう支援船エンデヴァー。(提供写真)

交渉担当者の感情を表すのに「苛立ち」は適切な言葉ではないとデュジャリック氏はその記者会見で語り、「私には『深まる憂慮』が正しい表現であるように思えます」と付け加えた。

「私たちはこの件についてもう2年も話し合っています。神の庇護により、大規模な原油漏れは未だ発生していません。私たちが放置すればするほど大規模な原油漏れの可能性は高まります。この件では、時間は誰の味方もしていません」

グレスリー調整官によると、フーシ派は、国連との協定に署名をした2022年3月以来、協力的だという。「私は、フーシ派が今後もこの協定を尊重し続けると確信しています」と、グレスリー調整官はアラブニュースに語った。

「そして、フーシ派は、原油回収作業工程の実行自体には関与していないものの、『周辺の安全の確保』には協力しています。フーシ派はいかに周辺の安全を確保できるかについて私たちと協議しているのです。そして、フーシ派は詳細にも深く関与しています」

「最近数週間、フーシ派が懸念を一切持たずに済むように、私たちは彼らに各段階の詳細を説明してきました。フーシ派には技術の専門家もいます。実際、アデンにもサヌアにも優れた専門家はいるのです」

グレスリー調整官は、「おそらく給与も低くくきちんとしたサポートも無いまま」FSOセイファーを過去数年間にわたり支え続けてきた乗組員たちに敬意を表した。

「実際、私たちはFSOセイファーの乗組員の1人に今日会いました。FSOセイファーの隠れた英雄の1人である彼に私はお祝いの言葉をかけずにはいられませんでした。私たちがこの原油回収作業を計画している間中、FSOセイファーを支え続けてくれたのは彼らなのです」

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