Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

イエメン紅海沿岸係留のセイファー号 国連による石油移送で「大惨事」を回避

FSOセイファー号には、1989年アラスカ沖でおきたエクソン・バルディーズ号事故で流出した石油の4倍にあたる114万バレル以上の石油が貯蔵されていた。石油の大半が移送された今、朽ち果てた同船は「安全なスクラップヤード」に曳航される予定だ。(AFP)
FSOセイファー号には、1989年アラスカ沖でおきたエクソン・バルディーズ号事故で流出した石油の4倍にあたる114万バレル以上の石油が貯蔵されていた。石油の大半が移送された今、朽ち果てた同船は「安全なスクラップヤード」に曳航される予定だ。(AFP)
UNDPとボスカリスは、同社の子会社であるSMITサルベージが、朽ち果てたFSOセイファー号から110万バレルの石油を別の船に移送する契約を締結。その後紅海に向かう支援船エンディーバー号。(提供)
UNDPとボスカリスは、同社の子会社であるSMITサルベージが、朽ち果てたFSOセイファー号から110万バレルの石油を別の船に移送する契約を締結。その後紅海に向かう支援船エンディーバー号。(提供)
Short Url:
13 Aug 2023 05:08:42 GMT9
13 Aug 2023 05:08:42 GMT9
  • 紅海に係留されていた朽ち果てた石油貯蔵船は、環境面でも人道的にも大きな脅威となっていた
  • 作戦の第一段階で、セイファー号が貯蔵する114万バレルの原油の大部分を除去することに成功

ジュマナ・アル・タミミ

ドバイ:イエメン沖に係留されている老朽化した浮体式貯蔵積出設備(FSO/前身は石油タンカー)「セイファー号」から100万バレル以上の原油が移送され、紅海における大規模な原油流出の脅威が後退したというニュースは、近隣諸国、国連当局者、そして環境保護活動家に大きな安堵をもたらした。

アントニオ・グテーレス国連事務総長が呼ぶところの「世界最大の時限爆弾」を解除することを目的に、数ヶ月にわたる現場での準備作業を経て、1億4300万ドルをかけたオペレーションが7月末に開始された。

国連が雇った作業員チームが7月25日、戦火の絶えないイエメン沖で、腐食した超大型タンカーFSOセイファー号から石油の移送を開始した。(AFP/ファイル)

国際チームはセイファー号から別の船「ノーティカ号」(後に「イエメン号」と改名)に原油を吸い上げた。この船は、国連が回収ミッションのために購入したものだ。

サウジアラビア外務省は11日(金曜日)の声明で、「石油タンカーセイファー号の問題を終わらせるためにあらゆる努力を尽くした」グテーレス事務総長と国連作業チームの努力に改めて感謝の意を表した。

サウジアラビアは、サルマン国王人道援助救援センター(KSrelief)を通じた寄付により、この移送オペレーションに資金援助を行った最初の国のひとつである。

サウジアラビア外務省はまた、「FSOセイファー号の石油の移送が完了するまでの運用計画プロセスを容易にした、イエメンの正統性を回復するための連合統合司令部」に感謝を示した。

セイファー号の状態がさらに悪化した場合、大量の石油が紅海に流出し、計り知れない環境および経済的な損害を引き起こす可能性があった。

「神に感謝する。これで終わった」と、石油アナリストでMiddle East Economic Surveyの元編集長であるワリド・カドゥーリ氏は、ベイルートからアラブニュースに語った。「国連の作業チームは、まさに大惨事を未然に防いだ。取り返しのつかない事態になっていたかもしれない」

紅海と、サンゴ礁や海草藻場を含むその「独特の生態系」は、最も危険にさらされていただろう、と彼は言った。

「石油流出によって最も大きな打撃を受けるのは環境であり、次いで海上交通である」

石油移送作業中に石油が流出する可能性を見越して、国連はホデイダの地元チームに対し、海岸を保護するためのオイルフェンス(一時的なバリア)の使用について訓練を行った。(AFP/写真)

セイファー号からほとんどの石油が移送され、紅海の生態系とイエメン沿岸の漁業コミュニティが潜在的な災害から救われた今、国連が購入した船舶がセイファー号を「安全なスクラップヤード」に曳航することになる。

国連開発計画(UNDP)のアヒム・シュタイナー総裁は、このオフローディング・オペレーションを「近年で最も重要な予防措置のひとつ」だと評価した。

「皆さんの中には、FSOセイファー号を時限爆弾だと呼ぶ人もいる。今日現在、その時限爆弾はもはや差し迫った脅威ではなくなっていると言ってよいだろう」と彼は述べた。

セイファー号は47年前の石油タンカーであり、イエメンのホデイダ港とラス・イッサ港の北、つまり紅海の中でもフーシ派民兵が支配する戦略的地域に係留されていた。

1970年代に建造され、後にイエメン政府に売却されたこの船は、イエメン東部のマリブ州の油田から汲み上げられる最大300万バレルの原油を保持するために使用された。

この船は全長1181フィート(約360メートル)、34の貯蔵タンクを備え、国連による作業が開始される前には114万バレル以上の石油を貯蔵していたという。これは、1989年にアラスカ沖で起きた世界最悪の生態系危機のひとつ、エクソン・バルディーズ号事故で流出した石油の4倍に相当する。

2015年にイエメンの内戦が始まって以来、最低限のメンテナンスしか行われなかったため、セイファー号の腐食は進み、漏出の危険性が高まっていた。

石油の移送は、政治的な根回し、資金集め、プロジェクト開発の約2年間の集大成だった。

23の国連加盟国、EU、民間企業、公的団体から、オフローディング作業のための寄付金は1億2100万ドルを超えた。しかし、セイファー号を廃棄し、紅海に残る生態系破壊の脅威を取り除くためには、さらに2000万ドルが必要である。

安全保障とエネルギーのアナリストであるハサン・セリム・オザーテム氏はこの国連の活動を「生態系災害を防ぐための重要な介入」であるとし、「過去に多くの災害があったように、石油流出のリスクを完全に排除することは不可能である」と付け加えた。

写真は国際的な浚渫(しゅんせつ)および重量物運搬会社ボスカリスが提供。2023年7月にFSOセイファー号から別のタンカーに油を移送する作業員が写っている。(Boskalis/写真)

彼がトルコの首都アンカラからアラブニュースに語ったところによると、UNDPに代表される国際社会が石油除去作業を支援したことは重要なことだという。

「この経験は、将来このような事態を回避するための教訓となるだろう。イエメン情勢がいかに複雑であるかを考えれば、他のどのようなミッションも不可能なものとして扱うべきではない」

「シリア戦争であれ、イスラエルとパレスチナの紛争であれ、すべての危機は、解決に至るために地域の当事者側の政治的意志を必要とする。国連自体は、解決策を押しつけるために必要なアメとムチを持っているわけではない」

国連のイエメン常駐調整官であるデビッド・グレズリー氏は、金曜日にメディアに寄せたコメントの中で、セイファー号で作戦に参加した2人の船長が、このプロジェクトに参加するためにアデンから招待されたことを強調し、これは、「この地で続く内戦に存在する、日々の懸念を超えていくことの重要性を示している」と述べた。

彼は、地域レベルでの回収ミッションの成功がイエメンの人々の気持ちを高揚させたと述べ、敵対する勢力同士が協力してひとつの重大な問題に取り組むことで、より広範な協力と和平交渉の土台を築くことができるかもしれないと期待を示した。

写真は国際的な浚渫(しゅんせつ)および重量物運搬会社ボスカリスが提供。2023年7月にFSOセイファー号から別のタンカーに油を移送する作業員が写っている。(Boskalis/写真)

このオフローディング作業の成功は、最も困難な状況においても協力を促進する努力における、外交、忍耐、透明性の力を証明するものだと彼は付け加えた。

「良い金曜日だ」とグレズリー氏はアラブニュースに語った。「今日私たちが見てきたことについて良い気分だ。このような進展が見られるのは喜ばしいことだ。より大きな政治的対話という点においては、もちろん、このことが直接的に貢献することはないだろう。しかし、前へ進む道があるという希望を少しは人々に与えた、と私は言うべきだろう」

「そして、政党同士は敵対関係にあっても、この特別な問題に対処するのに十分な時間、意見の相違を脇に置いておく方法を見つけた。そしてそれは、交渉においてより有利な条件を作り出すことができる方法だと思う」

「そして、昨年の3月に署名された合意文書がこれまでサヌアによって守られてきたという事実は、この方法論において、成功に至る交渉が可能であるという良い兆候だと思う」

「これは、なにかを保証するものではないが、以前にはなかったかもしれない希望の感覚を生み出すものだ。そして、そうできる立場にある人たちが、この機会を利用して前進できることを願っている」

同様に、UNDPのシュタイナー総裁は、イエメンの人道的状況という広い文脈の中で、特にこの地域とイエメン国内の力学が大きく変化する中で、セイファー号のオペレーションの成功は「希望の欠片」をもたらしていると述べた。

イエメンのラス・イッサ沖で、朽ち果てたFSOセイファー号からの石油の移送担当する船舶のスタッフ。(AFP)

「UNDPはイエメンのほぼ全域で活動しているが、過去8年間でイエメンがその発展の約20年から22年分を失っていると推定している」と、彼はアラブニュースに語った。「だから、この作戦が実施されることになった背景は、かなり特殊なものだったと思う」

「しかし、この紛争の両陣営が、互いを信頼せず、国際社会に対して非常に懐疑的でさえあるにもかかわらず、自分たちの意識の中に、そして最終的には国民からの非常に強い支持の中に、これはすべての国民にとって有益な作戦であり、それゆえに例外的で異例の措置が必要なのだということを見出したのだろうということは、少なくとも推測することができると思う」

「そして、ここに至るまでのストーリーは、今後数ヶ月でさらに達成できることがあると信じている人々に希望を与えるかもしれない」

FSOセイファー号に残った石油の除去と洗浄、そして曳航とスクラップの準備には、1週間から10日かかると見られている。(AFP/写真・ファイル)

石油の大部分はセイファー号から取り除かれたものの、オフローディング作業はまだ完了していない。船内には少量の粘性のある石油が残っており、船はまだ分解する可能性がある。

「セイファー号の残留石油は沈殿物と混ざっており、現時点ではポンプで汲み上げることはできない」とグレズリー氏は語った。「これらは最終的な洗浄の際に除去されるだろう」

作業の最終段階であるセイファー号に残った石油の除去と洗浄、そして曳航とスクラップの準備には、1週間から10日かかると見られている。

エファレム・ コッセイフィがニューヨークからレポートを寄稿。

特に人気
オススメ

return to top

<