

イネグヘデ、モロッコ:モハメド・アル・ムータワクさんが住む村はモロッコで発生した大地震で破壊され、彼が栽培するリンゴの収穫は台無しになった。しかし、彼はこの土地を離れることを拒否する。彼のような小規模農家にとって土地は極めて重要なものだからだ。
干ばつや異常気象はモロッコの農家に長年にわたり被害を与えてきたが、先日発生した地震は新たな困難をもたらしている。それらの困難は今になってはっきりと見え始めている。
マラケシュの南、最も被害の大きかったアル・ホウズ州にある山間の村イネグヘデ村に住む56歳の農家アル・ムータワクさんは、「我々にとって最悪の敵は雹だと考えていましたが、さらに手強い敵が現れました」と話す。
「それは地震です。全てを破壊してしまいました」
2900人以上の死者を出した地震の発生から数日後、彼はアトラス山脈の山腹に作られた段々畑で彼が栽培しているリンゴとクルミの木々を悲しげに見つめる。
彼は砂埃にまみれた手で、彼の家系が代々育ててきた木々を指差す。石や木でできた村の家々は倒壊したが、これらの木々は今も立っている。
9月8日の地震で、この集落の住民200人のうち11人が死亡した。被災者は援助物資として提供された黄色のテントの中で暮らしている。
ムータワクさんが収穫するつもりだったリンゴ(品種はゴールデンとガラ)は今は芝生の上に落ちており、その香りは瓦礫の下に埋もれたロバの腐敗臭と混ざり合っている。
リンゴはまだ熟していなかったため収穫は失われ、彼が借金返済に使いたいと思っていた利益もそれと共になくなった。
この村では生存者の捜索は終了している。
地震から6日経った今も救助隊が生命の兆候を捜索中である他の町とは異なり、この村では遺体は全て回収され、それ以外の人々の消息も全て明らかになった。
女性たちは、民間人らによって届けられた毛布や衣服をより分けていた。男性たちは、瓦礫を掘り進めてコップや鍋や水入れなどの生活必需品を回収していた。
この山脈の他の場所と同様に、この村でも小規模農業に加えてヤギやウシなどの牧畜が不可欠な食料源・収入源となっている。
同じくこの村に住むジャメル・アイト・ブーヤヒアさん(42)は、「私たちは少しばかりのお金を稼ぐためにリンゴを育てて一生懸命働いています。子供の学校の新年度に備えるため、そして家族を少しでも支えるためにです」と話す。
近年、モロッコ政府や寄付提供者らは援助プログラムを推進しており、その一部は気候変動に対するレジリエンスの強化を目的としている。
より具体的に、村の孤立した生活を解決することや、女性の自律性を高めることを目的とする開発イニシアティブもある。
また、処理済み排水の農業への再利用や、節水型点滴灌漑の促進といったプログラムも行われている。
水へのアクセスは現在、迫り来る最大の問題の一つとなっている。
ブーヤヒアさんは、「地震で最も深刻な被害を受けたのは灌漑です」と話す。パイプがほぼ全て破壊されたのだという。
ムータワクさんによると、井戸にはまだ水があるが、地震によって移動した石が湧き水の流れを妨げている。
モロッコ当局によると、水の問題は地域内の広範囲で起こっており、アミズミズ、ムーレイ・ブラヒム、タラット・ニアクーブなどの地区の水供給ネットワークも被害を受けている。
この地域で広範囲に活動している組織「ケア・マロック」の代表であるフリマ・ラズカウイ氏は、今後の再建活動は「開発従事者を目覚めさせるもの」になるだろうと語る。
また、その活動は水へのアクセス改善など、人々がレジリエンスを高められるような形での再建を支援する必要があると指摘したうえで、そういった活動が地域社会に「立ち直る機会」を提供することへの期待を口にする。