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サウジ皇太子による英国訪問は両王国の利益となる

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20 Aug 2023 08:08:57 GMT9
20 Aug 2023 08:08:57 GMT9

先週終盤、イギリス政府内の確かな筋からリークが出てきた。17日にサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子とリシ・スナク首相が電話会談を行った後、皇太子に対してイギリス訪問への招待がなされたというのだ。

この訪問に対してはほぼ間違いなく、大きく二分されたコメントが集まるだろう。しかし、まずはじめに明確にしておきたいのは、このような機会はイギリスにとって大きな利益となるものであり、スナク首相およびジェームズ・クレバリー外相による正しい判断であるということだ。

第一に、サウジアラビアは明らかに変わりつつある。イギリスはそのことをより深く理解し、それに関与する必要がある。そして、この変化の主要な牽引者である皇太子との最高レベルの関係なしにそれを行うことは不可能だ。

現在の中東地域に疎いイギリス人にとって、この変化のペースは掴み難いかもしれない。それについては、トーマス・フリードマン氏が6月にニューヨーク・タイムズ紙に寄せた、現在のサウジアラビアとイスラエルを対比させた基調記事によくまとめられている。同氏はこう書いている。「過去5年間にサウジアラビアに行ったことがない人は、同国に一度も行ったことがないに等しい」

労働力としての女性の役割の変化(労働参加率は2018年の19%から現在の37%まで上昇)や社会的集会の自由化から、炭素経済からのシフトとビジョン2030実現に必要な技術に至るまで、リストが必要なだけでなく、その道筋とイデオロギー的マイルストーンを障害も含め理解することが求められる。

その先頭を走っているのは、イギリスの最も革新的な企業のいくつかによるNEOM進出から、プレミアリーグやニューカッスル・ユナイテッドにまで至る、イギリス関連のビジネスとスポーツだ。同国政府がそのことを認識しており、自由貿易協定以上のさらなる機会を探ろうとしていることは驚きではない。

第二に、中東地域は急速に変化しつつある。イギリスで「スエズ以東」が議論されていた時代から、より最近だとシリアの出来事やイエメンからの攻撃に対する米国の反応に至るまでの、戦後の秩序が徐々に崩壊することで、同盟や地域政治についての認識が変わったのだ。その結果、湾岸諸国はより自己主張が強くなり、必ずしも手なずけやすいパートナーではなくなった。それは、湾岸協力理事会(GCC)内の亀裂に示されるように、湾岸諸国同士にも当てはまる。しかし湾岸諸国は、相互の安全保障に関する決定の交渉と維持はますます自分たちの手に委ねられていることを認識するようになった。

良好な関係とは多面的なものであり、最良の関係には相違点や課題を率直に認めることが伴う。

アリスター・バート

特に貿易と国防において、イギリスには守るべき死活的な利益がある。したがって、地域の大国であるサウジアラビアと関わり合わないのは愚かなことだ。同様に、地域外交がかつてのようにイギリスの顔色を窺うことはもうないかもしれないが、外交・情報・軍事的な影響力を持つ国連安全保障理事国である同国が聞く耳を持てば、「次はどこか」についてのアイディアの共有を通して双方に得るものがあるだろう。

イランとの交渉、あるいはイスラエルとの交渉からは何が出てくるだろうか。イギリスはいずれとも深い利害関係を持っている。イギリスは核保有国として、またイラン核合意の署名国として、イランとサウジの間の緊張緩和を支持するだろうが、当然のことながらその条件には関心を持つだろう。イスラエルに関しては、イギリスは数十年にわたる敵対関係に終止符を打ち、イスラエルを完全かつ公然と含む新たな経済を地域に構築するためのこの機会を歓迎すべきである。しかし、イギリスは同時に、その豊かな歴史から、パレスチナに対する不当な仕打ちに関する痛ましい章を閉じる絶好の機会を強調するためにできる限りのことをしなければならない。そして、いかなる「正常化」も、パレスチナ国家樹立とイスラエルの安全・平和の最終的実現に向けて全当事者を奮い立たせるものであるべきだと強調しなければならない。あまりにも長い間苦しんできたあまりにも多くの人々のためにだ。

第三に、世界は急速に変化しつつある。各国はもはや欧米の意志に照らして自国を測る必要はない。我々の長年の友好国のドアをノックしている他国がいるが、我々が常にそうしてきたように、彼らが自分たちの利益のために行動することは全く合理的であるということは、もはや我々にとって驚きではないはずだ。我々が過去に多くの脅威のもとで緊密な関係を築いてきた湾岸の友好諸国には、そうし続けるべき多くの理由がある。

しかし、我々が認識する必要があるのは、もしイギリスが行動しなければ、中国やロシアなどの競合国は直ちにあらゆる手段を追求するだろうということだ。

良好な関係とは多面的なものであり、最良の関係には相違点や課題を率直に認めること、そして相互の機会を受け入れることが伴う。サウジ皇太子によるイギリス訪問が実現した場合、イギリスが強硬姿勢を取ってきたジャマル・カショギ氏の事件以来長く影を引いている人権問題が見過ごされることはないだろう。訪問の関係者はそれを見込んでいるはずだ。しかし歴史は、忘却されなければ、気候変動や潜在的な大災害などの現代的課題に立ち向かうためのリセットの機会も提供する。 

関与なくして影響力はない。傍観者は、訪問が双方にとって成功となるよう望み、促すべきである。

  • アリスター・バート氏は元イギリス国会議員で、外務連邦省の閣僚職を2回務めた(2010~2013年 政務次官、2017~2019年 中東担当国務大臣)。X(旧ツイッター): @AlistairBurtUK
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