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気候変動対策は世界の保険である

2023年7月18日、フランス南西部トゥールーズの噴水で涼む人々。(AFP)
2023年7月18日、フランス南西部トゥールーズの噴水で涼む人々。(AFP)
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19 Jul 2023 05:07:18 GMT9
19 Jul 2023 05:07:18 GMT9

気候変動はもはや「未来の問題」ではない。気候変動は今ここに存在し、その影響は至る所に及んでいる。さらに悪いことに、今日の異常気象は、私たちが今年や来年にどれだけ経済活動を脱炭素化できるかにかかわらず、今後数十年の間に人類を待ち受ける苦痛のデモンストレーションに過ぎないのだ。

このような悲観的な見解は、「気候楽観主義」の重要性についての議論を引き起こしがちである。悲観主義は、結局のところ、やる気を失わせる。マーティン・ルーサー・キング牧師も、自分の子供たちが生きる未来について、悪夢ではなく夢を持っていた。

通常、私はこのような楽観主義の呼びかけに賛同する。クリーンエネルギー競争が加速していることは喜ばしいことであり、気候の転換点に関連するすべてのネガティブなフィードバックループに匹敵する、ポジティブな社会経済的フィードバックループが出現していることについても同様である。しかし、クリーンエネルギー導入のペースがかつてないほど速くなっている一方で、世界全体の温室効果ガス排出量は依然として増加している。

では、この2つの力学が相反する方向へ互いを引っ張り合う中で、私たちはこの課題についてどう語れば良いのだろうか?

ひとつの答えは、リスクと不確実性という言葉を受け入れることだ。少し前まで、気候変動対策に抵抗する人々は不確実性の問題を取り上げていた。「疑惑の商人たち」と呼ばれる、化石燃料産業に従属する周縁の科学者やその他のコメンテーターたちは、人為起源の気候変動に関するコンセンサスの強化に異議を唱えるために、私たちの完全な知識の欠如に焦点を当てた。不確実性は彼らの味方だった。しかし、それ以外の人々にとっては、不確実性は「パブリック・エネミー・ナンバー・ワン」なのだ。気候変動をこれほど緊急の問題にしているのは、未知であること、そして知りえないことなのだ。

過去数十年の間に、気候科学と経済学の進歩により、気候に関連する不確実性は定量化されるようになった。この進歩は、有益であると同時に驚異でもある。なぜなら、これらの不確実性が実際にどれほど危険なものであるかが、さらに明確になったからだ。

そして何よりも、気候変動対策が必要なのは、比較的緩やかな平均値のさらなる上昇を抑えるためだけでなく、――それ以上に重要なことは――不確実性を抑えるためである。洪水、干ばつ、山火事、その他気候が引き起こす極端な現象は、この問題を非常にコストのかかるものにしている。逆に言えば、異常気象の分布の尻尾(テール)を断ち切るような気候政策立案は、大きな成功とみなされるべきである。

これは文字通り、最悪の現象に対する保険をかけることを意味する。例えば、保険加入の義務化は、住宅所有者が住む場所を決める際に、洪水や山火事のコストを計算することを強制する。災害の多い地域では住宅所有者の保険料が高騰していることを考えると、義務化は気候変動への適応を促す最も効果的な方法のひとつとなりうる。

クリーンエネルギー解決策に関する学習曲線が急速に上昇するにつれ、より低コストで優れた技術が出現する可能性が高い。

ゲルノット・ワグナー

同様に、低炭素エネルギー源への投資は、レジリエンスへの投資、つまり不確実性の低減への最善の投資と見なされる。自身の平均的な二酸化炭素排出量を減らすことは評価されるべきであり、適切に報われるべきである。しかし、屋根にソーラーパネルを設置するにしても、バックアップ用蓄電池としてバッテリーパックを使うにしても、ヒートポンプや電磁誘導(IH)ヒーターに切り替えるにしても、その最大の見返りは「極端な状況」が起こった時、または、それが発生しない場合にもたらされる。

ソーラーパネルとバッテリーパックを使えば、異常気象で送電網がダウンしても、明かりは確保される。同様に、ヒートポンプと電磁誘導ヒーターがあれば、ガス供給ラインに頼らず、暖房費に直接影響する将来のガス供給ショックからの独立を宣言することができる(電気代に関わる間接的な影響は、ソーラーパネルとバッテリーパックの設置の必要性につながる。このことは、電力網全体の脱炭素化の緊急性をさらに強めることになる)。

太陽光発電とオール電化のコストは時間とともに下がる一方だが、天然ガスと石油の相場は地政学と世界経済の気まぐれによって変動し続けるだろう。いわゆる化石燃料インフレを防ぐ確実な方法は、化石燃料から完全に離れることである。

住宅所有者に当てはまることは、経済全体にも当てはまる。化石燃料への依存度が低いということは、不確実性が低いということだ。確かに、クリーンエネルギーへの移行は、銅やリチウムなどの重要な鉱物のような、変動の可能性のある商品にも依存している。しかし、化石燃料とは決定的な違いがある。ひとつは、クリーン・テクノロジーに投入される数百万トンの原料は、毎年燃やされる数十億トンの化石燃料に比べれば桁違いに少ないということだ。そして、クリーンエネルギー解決策に関する学習曲線が急速に上昇するにつれ、より低コストで優れた技術が出現する可能性が高い。

トレンドラインは、クリーンエネルギーの未来について慎重ながらも楽観的な見通しを支持している。しかし、乗り越えなければならないハードルはまだたくさんある。そのハードルの多くは、化石燃料の既得権者が設け、避けることができない結果を遅らせようと、支えているものだ。また、気候変動に起因する苦痛や破壊もまだたくさん待ち受けている。事態は好転する前に悪化するだろう。

しかし、たとえ気候変動を防ぐことができなくなったとしても、それに伴う不確実性を最小限に抑えることで、気候変動を緩和することは可能だ。私たちはこれらの不確実性を、最悪の事態を防ぐための警鐘として受け入れなければならない。気候変動リスクは金融リスクであり、気候変動対策は――世界全体にとって、企業にとって、そして私たち個人にとっての――保険なのである。

・ゲルノット・ワグナー氏はコロンビア大学ビジネススクールの気候経済学者である。
©Project Syndicate

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