Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

イラクの民兵組織:規模倍増、資金倍増、脅威倍増

テロ組織ダーイシュと戦うために2014年に結成された民兵組織ハシュドは、イラク軍とほぼ同じ規模にまで拡大した。(AFP)
テロ組織ダーイシュと戦うために2014年に結成された民兵組織ハシュドは、イラク軍とほぼ同じ規模にまで拡大した。(AFP)
Short Url:
04 Jul 2023 10:07:41 GMT9
04 Jul 2023 10:07:41 GMT9

イラク国会の財務委員会によると、イランから支援を受けているイラクの準軍事運動「​アル・ハシュド・アル・シャアビ (民衆動員部隊)」に提供される資金が膨れ上がっていることにより、人員はほぼ倍増し23万8000人となり、予算は30億ドル近くにまで達している。

2014年中頃にヌーリ・アル・マリキ首相(当時)によってハシュド運動の組織構造が確立された時、この組織には一つの具体的な目的があった。ダーイシュと戦うことである。現在ダーイシュはイラク国内にほとんど存在しておらず、一握りの地域でわずかに攻撃を行っているにすぎない。しかしムハンマド・シア​​・アル・スダニ首相はハシュドの規模を倍増させる必要があると決議した。何故だろうか。

イラクの議員らは予算について議論しつつ、スーダンの即応支援部隊(RSF)やロシアのワグネル反乱のニュース映像にも間違いなく目を向けている。いずれも、民兵組織が拡大して火力において正規軍に勝るようになることを許せば壊滅的な破壊がもたらされることを示す事例だ。しかし、彼らはこの途方もない公的資金の振り向けに対して異議を唱えなかった。

この巨大な拡大はほとんど反対もなく承認された。ハシュドがイラク政府機関のあらゆるレベルにわたって支配を固めてきたためだ。同組織がもっと急速な拡大が可能であると考えていたとしたら、おそらくさらに多くの予算配分を獲得していたことだろう。

ダーイシュ後の時代においては、ハシュドがイラクの近隣諸国からの想定される脅威に立ち向かうために存在していると示唆することはできない。その結果、ハシュドの拡大を正当化できる唯一の理屈は、たびたび脅されてきたように、米軍と戦うため、あるいはイラク国民に反して行動するためというものになる。ハシュドの軍隊は長年、スンニ派を標的とした虐殺、残虐行為、宗派浄化を行ってきた。ただ近年は、彼らはシーア派イラク国民に対する怒りの理由として利用されることが多い。

2018年の選挙の頃は、ハシュドの戦略は投票箱を通して権力を獲得することに重点を置いていた。しかし、それらの選挙に後にシーア派のデモ隊を暴力的に弾圧したことで、同組織の人気は急落した。その結果、同組織の権力維持のための唯一の戦略はむき出しの暴力の使用になった。

スダニ首相は事実上、イラク国境全体をハシュドに引き渡してしまっている。イラクの関税収入の90%がこの民兵組織の懐に入っているという元財務相の警告にもかかわらずだ。

バリア・アラマディン

我々がそれを垣間見たのは、2022年中頃、互いに対立するサドル師支持者らとハシュドの軍隊がバグダッドに集結した時だ。武力衝突に容易に発展しかねない事態だった。この事件が起こった原因は、ハシュドが2021年の選挙でわずかな議席しか獲得していなかったにもかかわらず、政府を支配する権利を要求したことだ。驚くべきことに、彼らは成功した。しかも、サドル派が退場した後、彼らは恥ずかしげもなく大きく議席を増やしたのだ。今後の権力掌握手段はより一層露骨で残酷なものになると思っておいた方がいい。

ハシュド運動の実際の規模を知ることは不可能だ。半独立派閥や傘下にある相当数の犯罪集団だけではない。アシャブ・アル・カーフ、カタイブ・カルバラー、カタイブ・サイフラーなどの影の「レジスタンス」勢力が数多くあり、それらは国の給与支払名簿に正式に記載されてさえいない。こういった団体は特定の目的のために絶えず現れては消えており、おそらくだが、異なる装いで現れては米国人、アラブ諸国、イラク国内の敵対者に対する攻撃を行っている同じ一群のハシュド過激派で構成されている。

カタイブ・ヒズボラのある司令官は、「イスラムのレジスタンスを体現する」8つのハシュド旅団に言及したうえで、イラク指導部は「彼らにもその給与や装備にも触れることができない」と述べた。一方、予算の相当な部分が不可避的に、革命防衛隊やハシュド指導者らの腐敗した非道な目的のために吸い上げられている。

イラク軍の人員は書類上は30万人を超えている。ただ、2014年中頃にダーイシュとの戦いで劇的に崩壊した後、同軍はほとんどゼロから再建されなければならなかった。作戦行動可能で実働的な旅団の数は実際にはかなり少ない。特に、幽霊兵士という現象が蔓延していることを考慮に入れた場合はそうだ。同軍の相当な部分は事実上、ハディ・アル・アミリ氏などのハシュド指導者の支配下にある。そして、2003年以降これらの民兵が内務省を支配しているため、治安部隊の大部分は事実上ハシュドに付属している。

ハシュドは自分たちが選び押し付けた首相であるスダニ首相を従順な傀儡として手にしており、1520億ドルの国家予算を管理する同首相から自分たちの途方もない野心のために必要なあらゆるものを受け取ることができる。一方、イランの一般市民は貧困、失業、停電、汚染、公共サービスの欠如の中でどん底の生活をしている。主要都市の周辺部にハシュドの新しい常設軍事キャンプを設置するという同首相の発表には、征服軍による包囲のように不安にさせる響きがある。

この莫大な資金でも不十分と考えたのか、スダニ首相はさらに、暗殺されたハシュド指導者アブ・マフディ・アル・ムハンディス氏にちなんで名付けられたハシュド支配下のコングロマリット企業の立ち上げを承認し、政府入札への優先的なアクセスを享受している。

イラク軍とほぼ同じ規模にまで拡大した民兵組織は、爆発を待つ時限爆弾だ。何しろ、彼らはイラクの政治、経済、社会領域をまるごと乗っ取っているのだから。

バリア・アラマディン

スダニ首相はこの「アル・ムハンディス・ジェネラル・カンパニー」にイラク南部の広大な土地を惜しみなく与えた。レバノンの半分の面積とされるこのハシュド領土の一部は、イラクのヨルダンおよびサウジアラビアとの国境をまたいでいる。ハシュドは既にイラク・シリア国境地域の大部分を支配しており、イランから来る商品の移動を管理している。スダニ首相は事実上、イラク国境全体をハシュドに引き渡してしまっている。イラクの関税収入の90%がこの民兵組織の懐に入っているという元財務相の警告にもかかわらずだ。ハシュドはさらに、麻薬や武器弾薬などの秘密の商品の移動を通して、既に膨れ上がっている帳簿上の収入を容易に倍増させることができる。

アラブ諸国との関係を再建したいというスダニ首相が公言する意向が誠実なものであるのなら、サウジアラビアおよびヨルダンとの国境地域に敵対的な軍隊を置いていることについて、同首相が実際に従っているのは誰のアジェンダなのかという疑問が持ち上がる。

イラク軍とほぼ同じ規模にまで拡大した民兵組織は、爆発を待つ時限爆弾だ。何しろ、彼らはイラクの政治、経済、社会領域をまるごと乗っ取っているのだから。長年苦しんできたイラク国内のシーア派は、敵意を持った国外勢力の憎むべき代理組織である彼らの失脚を要求するために大人数を動員する用意があることを恐れずに繰り返し示してきた。

ロシアのワグネルが強く出過ぎて致命的な結果を招いたのと同じように、ハシュドのような者たちは、(この残忍な悪党たちが抗議する女性や若者や一般市民に銃を向けようがどうでも良いと人々に思わせるほどに)イラク国民の生活を地獄のようなものにすることで自分たちの死刑執行令状にサインしたのだ。

その時、ハシュドが20万人であるか50万人強であるかはほとんど重要ではなくなる。5000万人のイラク国民から、荷物をまとめてテヘランに行けと言われるだろうからだ。

  • バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東およびイギリスのニュースキャスターである。『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。
特に人気
オススメ

return to top