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イスラエル例外主義を終わらせることが新たな世界秩序への第一歩

イスラエルのガザとの境界に展開する同国軍の装甲車。2023年10月24日。(AFP)
イスラエルのガザとの境界に展開する同国軍の装甲車。2023年10月24日。(AFP)
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25 Oct 2023 09:10:19 GMT9
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イスラエルのガザ地区における戦争に対しどのような立場を取るかに関係なく、戦場の状況が最終的に沈静化したとしても世界はもう以前の姿には戻らないだろう。10月7日にハマス戦闘員がイスラエル南部で行った残忍な攻撃と、イスラエルの逆上した反応という形でのそれ以降の展開は、2003年の米英によるイラク侵攻以降見られなかったような形で世界を二分している。ハマスによる攻撃はイスラエル・パレスチナ紛争の軌道を、双方だけでなく世界にとって大きく変えてしまった。この中東における最新の戦争は既に危機に瀕している世界秩序を揺さぶるような顕著な余波をもたらすだろう、などという言明では足りない状況である。

この戦争が沈静化する前に(どうやってそうなるかは誰にも分からないが)、イスラエル側がどのように反応したかを見ておくべきだろう。ハマスによる攻撃はイスラエルにとって、悪い意味で劇的なものだった。その痛み、屈辱、そして16年間封鎖されているガザ地区を囲む、テクノロジーで最も厳重に監視されたフェンスが不面目にも突破されたことは度肝を抜いた。イスラエルはいつかこの攻撃について、1973年の戦争の後と同様に調査し、何人かの首が飛ぶだろう。全ての真実については何ヶ月も、あるいは何年も分からないままかもしれない。

イスラエルの反応は予想通りだった。すなわち、ガザ地区に対する全力かつ無制限の空爆である。我々はこれを以前にも目にしたことがある。しかし今回は、軍事作戦の目標として宣言されているものが変わっている。それは、ハマスの軍事・政治インフラの完全な根絶である。それは大規模な地上侵攻によってのみ達成できる目標だが、まだ実行には移されていない。

しかし、それだけではない。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(国民の大半からこの大失敗の責任を問われている)と彼の戦時内閣は今や、ハマス指導部の殺害以上のことを望んでいるようなのだ。彼らは数百万人のガザ住民をエジプトに追いやりたいと考えている。それを強制移住と呼ぼうと民族浄化と呼ぼうと、いずれにせよ戦争犯罪である。

短期間の地上侵攻によってそれを行うことに失敗すれば、ハマスの勝利ということになる(大量の民間人死傷者を伴ってではあるが)。より長期的な地上侵攻を行う場合、2つのシナリオが考えられる。イスラエル南部における莫大な人命の損失と、ヒズボラとの北部戦線の激化の可能性である。後者が現実となれば地域戦争の可能性が高まり、その結果は予測できない。

イスラエルは現時点では、ガザ地区北部に対し大規模な空爆を行い、数百万人に南部への退避を強いている。3km、5km、あるいは9kmの緩衝地帯(デッドゾーン)を作りたいと考えているのだ。イスラエルは戦争を終結させるためにそれを受け入れるつもりがあるのだろうか。それは分からない。

一方、15年以上にわたってガザ地区を支配している過激派組織ハマスは、イスラエルとの間の幾度にもわたる激しい戦闘を経て、弱体化するどころかさらに強力になっている。10月7日の攻撃は数年前から計画されていたに違いない。ハマスがイスラエルの対応の遅さを予想していたのかどうか、あるいは人質を何人か取って、イスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人数千人の一部の解放を交渉することがハマスの唯一の目標だったのか、それらは知る由もない。しかし、ハマスは今や自分たちが、優勢な軍事力を有し欧米諸国から政治的支持を得ている国家であるイスラエルとの公然の戦争に入ったことに気づいている。

イスラエルによる2週間以上におよぶ残忍な爆撃(最新の集計による死者数は子供や女性を含む5000人以上)がハマスの軍事インフラに小規模な被害しか与えていないことは明白である。ハマスは2014年の戦争から教訓を得ているうえ、ヒズボラの戦争ゲームのプレイブックを使用している。イスラエルによる地上侵攻に対する準備を進めており、21世紀型のハイテク軍隊に対して20世紀型のゲリラ戦術を用いるだろう。地上侵攻が行われれば、何年も後まで歴史書に言及されるような戦闘が起こることになる。

パレスチナ人が置かれている地獄のような状況への同情が欠如したまま、イスラエルに対する免責が長年にわたって許されてきた。

オサマ・アル・シャリフ

それでは、イランとヒズボラについてはどうだろうか。これは何百万人もの人々の脳裏にある最も差し迫った疑問である。米国はヒズボラおよびイランの関与を恐れ、2つの空母打撃群を精鋭部隊や戦略ミサイル砲台と共に東地中海に派遣した。これまでのところ、ヒズボラはイスラエルからの挑発に反応するのみで曖昧な立場を取っており、イスラエル側は憶測を続けざるを得ない状況だ。

懸念されるのは、追い詰められ面目をつぶされたネタニヤフ首相が、イスラエルの遺伝子DNAを改変しようとする自身の臆面もない企てを覆い隠すために、米国を新たな中東戦争へと誘い出そうとする可能性だ。彼は保身のためなら何でもする危険な男である。それが現実となれば、米国、地域、そして必然的にイスラエルにとって大惨事となるだろう。彼が地域戦争に火をつけるために10月7日の悲劇を利用することは許されてはならない。

それにもかかわらず、欧米諸国の反応は概ね近視眼的かつ無責任である。欧州の指導者らは、イスラエルには自衛権があるとの米国の立場をオウム返ししている。その偽善と二重規範には全く反吐が出る。イスラエルをウクライナと比較するべきではない。パレスチナ人の厄災と苦しみは何十年も前から続いている。ガザ地区とヨルダン川西岸地区のパレスチナ人が置かれている地獄のような状況への同情が欠如したまま、イスラエルに対する免責が長年にわたって許されてきたのだ。

イスラエルによる占領は現代史上最長であり、19世紀にまで遡る欧州の植民地主義の遺産である。そのような歴史的ナラティブはシオニストのプロパガンダによって何十年にもわたって無効にされてきたが、今回の紛争によって世界の公論はパレスチナ人の犠牲という現実に目覚めた。

何十年も前から、欧米諸国が説くところのルールに基づいた万人に適合する国際世界秩序を実現する試みは、イスラエル例外主義によってことごとく頓挫させられてきた。2000人の子供を含む5000人以上の民間人が死亡し、住宅、モスク、教会、病院、学校、その他の建物がブロックごと破壊されるという、現代史上最も恐ろしい民間人虐殺の一つが行われている中、ルールに基づいた秩序だけでなく、複雑な紛争を扱ううえでの公平性が問われなければならない。

一極的な世界秩序の過去30年以上にわたる実績は悲惨なものだ。今回のシナリオは、イラク、アフガニスタン、リビア、イエメン、シリアの戦争の時と同じである。今は多極的な世界秩序が必要とされる時代だ。地域諸国は自国の未来について発言権を持たなければならない。イスラエルは何十年にもわたって例外であり続けてきた。その例外主義を終わらせなければならない。より公正な世界を実現するために、イスラエルは他の全ての国と同様に国際法を遵守すべきだ。欧米諸国の政府はその国民たちと立場を異にしている。この危機の影響は今後、欧米に波及していくだろう。

ガザ地区で起こることとは関係なく、世界にはルールに基づいた秩序が必要であり、それに対する最終決定を欧米に任せることはもはやできないのである。

• オサマ・アル・シャリフ氏はアンマンを拠点とするジャーナリスト・政治評論家。X: @plato010

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