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デフォルト以降の大混乱に直面するレバノン

危機的状態にあるレバノンがまもなく償還期限を迎える12億ドルのユーロ債の支払いを停止することを発表するハッサン・ディアブ首相。 (ロイター)
危機的状態にあるレバノンがまもなく償還期限を迎える12億ドルのユーロ債の支払いを停止することを発表するハッサン・ディアブ首相。 (ロイター)
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11 Mar 2020 09:03:33 GMT9

建国以来初めて、レバノンはデフォルト(債務不履行)に陥ることになる。ハッサン・ディアブ首相は土曜日にこの発表を行い、「レバノン国民が預金にアクセスできないというのに、外国の債権者にどうやって支払うことができるというのか?」と述べた。首相は外貨準備高が「危険レベル」に達したと付け加えた。こうなるだろうという憶測は広まっていた。問題は、レバノンがデフォルトに陥り、しかも孤立している、ということだ。同国は国際社会や国際通貨基金(IMF)からの支援を受けていないのだ。IMFをアメリカ支配の道具と見なすヒズボラの反対により、IMF介入の可能性は拒否された。一方、国際社会は、同国が改革を行わない限りは援助を提供しない、と強固な姿勢を示している。米国とその同盟国は、ヒズボラと現政権との間に違いがあるとは考えていない。

そもそも、中央銀行が準備金をいくら蓄えているのかが誰にも分からないのだ。透明性に欠けているためだ。公式には、昨年末の時点でレバノンは310億ドルの準備金を持っていたが、各銀行に670億ドルを返却しなければならないころから、準備金はマイナスということになる。ディアブ首相は改革を発表し、年間3億5,000万ドルを節約すると述べている。だが、この額でなにか違いが生もうとしても無理だし、経済崩壊を救うこともできない。抜本的な改革が必要なのだ。過去30年間システムを破綻から救ってきたポンジ・スキームは、もう機能しないのだ。

政府はまた、債務者との交渉も予定している。だが、保証人がいないレバノンが、どのような交渉を行うことができるというのか。IMFの計画がなければ、債務者に改革するからと説得しようとしても困難を極めるだろう。特に世界腐敗度ランキングで180位中137位のレバノンのような国なら、なおさらのことだ。国家が破産となった今、輸入促進を目的としたL/C(信用状)の開設はますます難しくなってきた。とりわけ、レバノンの輸入は輸出の5倍以上もあるからだ。サリド・ハリリ前首相は、必需品に関しレバノンへのL/C開設を友好国に求めたが、その要求に応えた国はなかった。この国の腐敗にまみれた役立たずの政治エリートに対し、国際社会が信頼も我慢も失っていたからだ。先月のIMFによるレバノン訪問と技術的進言の提供も、何の進展ももたらさなかった。何らの計画も持っていなかった政府が、IMFが公式の干渉なしに魔法のように国の問題を解決してくれる、と期待していたのである。

レバノンの中流階級は貧困への道をたどり始めている。先週、米ドルは過去最高の2,700レバノンポンドに達し、この数値はさらに上昇すると予想されている。そうなれば商品価格は大幅に上昇することになる。ハイパーインフレにより、街頭デモが増すだろう。だがそのデモも、今回は暴力的なものになるだろう。国民は空腹で、怒っているからだ。生命維持装置につながれているような状態のディアブ政府だが、さらに、次は何が来るのか?という重要な疑問も残っている。レバノンを危機から脱出させる計画を持っている人は誰もいないようだ。ギリシャと違い、レバノンを救済してもいいと言う人もいない。こうした災難に加え、現在のリーダーシップは頑固で、現実から目をそらしている。

ハイパーインフレにより、街頭デモが増すだろう。だがそのデモも、今回は暴力的なものになるだろう。国民は空腹で、怒っているからだ。

ダニア・コレイラト・ハティブ博士

腐敗した政治家にとっては、国民を金で買うというのも選択肢の1つだろう。選挙のときにはそうしているのだから。これらの政治家たちは、過去30年にわたり国を略奪し続けて蓄えた富を利用して、国民の忠誠心を買うことができた。このような方法で、しばらくの間は自分たちの存在の正当性を回復することに成功していた。だが、レバノン政府は基本的な公共サービスも提供できない。地域の文脈からみてもレバノンの安定は最重要なのに、現在の政治体制では安定を提供できない。高度にドル化された経済においてドルの価値が急騰しドルの供給が縮小しているのだから、これも大問題だ。さらに、インフレにより、政府がまともな社会的保護を提供していない国で暮らす国民のセーフティネットが一掃されてしまうことになる。

ヒズボラがどうでるか、様子を見ることが大事だ。抗議活動が始まって以来そうしてきたように、民兵のように振るまい、脅しと力を行使して改革を求める声を握り潰そうとするのか、それとも状況が深刻すぎて、今回は傍観者にとどまろうとするか?改革には多くの問題がある。改革を行うには、シリアとの抜け道だらけの国境や空港、港を制御しなければならない。たとえヒズボラが南部における武装をひき続き許可されたとしても、それは非常に制限されたものとなり、ヒズボラはそれを容易には受け入れないだろう。ハサン・ナスルッラーフ議長は以前、抗議行動が内戦につながる可能性があると警告していた。しかし内戦はヒズボラにとって利益にならないし、それは国内の他の政治的派閥にとっても同じだ。遅かれ早かれ、ヒズボラはIMFとその制約条件を受け入れなければならなくなるだろう。だがそれまでは、レバノンは暗い見通しに直面する。しかも、現在の窮状から救うために公式に導入しようというプランもない。

  • ダニア・コレイラト・ハティブ博士はロビー活動を中心としたアメリカ-アラブ関係の専門家である。エクセター大学で政治学博士号を取得。ベイルート・アメリカン大学のイッサム・ファレス公共政策・国際情勢研究所と提携して研究を行う研究者である。
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