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日本の微妙な地政学的バランス、今後均衡を取ることが益々厳しく

新しく選出された菅義秀首相を拍手で迎える日本の国会議員。(ロイター)
新しく選出された菅義秀首相を拍手で迎える日本の国会議員。(ロイター)
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19 Sep 2020 09:09:04 GMT9
19 Sep 2020 09:09:04 GMT9

先月、安倍晋三前首相が健康上の理由で辞任するとの予想外の発表以来、日本で在任期間が最も長い前首相が残した課題の今後について、多くの疑問が投げかけられている。

残された課題の1つは、安倍前首相の後継者である菅義偉首相が、北京とワシントンの間の緊張が益々エスカレートし、リスクが高まる中、前首相のように地政学上のバランスを上手く継続できるかどうかである。

米国と中国の両国は、日本の平和と繁栄にとって重要な存在である。アメリカは日本の安全保障上の同盟国であると同時に、2番目に大きな貿易相手国であり、中国は最大の貿易相手国で、地理上の隣国でもある。安倍前首相は2012年12月に首相に返り咲いて以来、両国との関係を非常に巧みに操ってきた。

トランプ大統領が、日米貿易は「公正で開かれたものではない」と主張し、アメリカ軍の駐留経費負担を現在の4倍に増やすよう要求されても、前首相はドナルド・トランプ大統領と気心が知れる仲となれるよう尽力した。さらに、中国の電気通信大手ファーウェイが日本の5Gネットワーク構築に参加することを目立たずに禁止することで、トランプ政権をさらに喜ばせたりもした。

同時に、安倍前首相はまた、習近平中国国家主席との関係を深め、2018年10月には関係改善を目的に訪中し、北京を訪れ、7年ぶりの日中首脳会談に臨んでいる。米中関係の悪化がとどまるところを知らない中、習近平は日本との関係改善を更に深めるため、2020年4月には日本の国賓としての訪問を予定していた。訪問が実現していれば、2008年以来の中国国家主席の来日となったところだったが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、無期限に延期されている。

しかし、菅義偉首相は、激化する米中紛争に巻き込まれない立場を維持するのは、ますます困難になっていることに気づくであろう。短期的には、延期されている習近平中国国家主席の国賓としての来日問題への対応が迫られている。中国政府による香港での厳格な国家安全維持法の施行により、菅義偉首相を支える自民党内でも訪問反対の運動が高まっている。世界に向けての宣伝としても、日本への正式訪問が実現すれば、トランプ政権による中国の封じ込めが失敗していることを実証したい習近平中国国家主席にとっても大きな勝利となる。

訪問日程変更を迫る北京の圧力は、菅義偉首相を窮地に追い込むだろう。党内でも反対が強い中、中国の願いを叶えれば、日本国内での首相の立場、政治的資本の弱体化を招く一方で、訪問を中止すれば、習近平中国国家主席を侮ったこととなり、日中関係を傷つけるであろう。日本の新首相が取れる現実的な唯一の方策は、考えられる口実を出来るだけ見つけて、可能な限り長く訪問を延期し続けることであろう。

いずれにせよ、今後数年間の内に迫り来る、2つの米中紛争問題が日本に及ぼす可能性のある影響と比べれば、ほとんど象徴的な意味合いしかない日中首脳会談に関わる緊張は、色あせたものとなる。

第1に、米国は日本に対し、中国に供給する主要技術の制限を強化するよう要請してくるであろう。しかし、中国に対する直接投資額は380億ドルを超え、14,000近くの企業が事業を展開しており、日本が言われるままに米国の制裁措置を完全に遵守することは、実際上困難で、経済的に壊滅的であり、外交的にも非常に代償が大きい。

安倍内閣の官房長官で過去8年間最も首相の近くにいて支えた菅義偉首相が、中国を怒らせずに技術問題で米国を喜ばせることができるか、またはその逆の立場を取るか、は誰にもわからない。ワシントンと北京がなんらかの形で対立を緩和しない限り、菅義偉首相は前任者よりもはるかに困難な課題に直面するだろう。

安全保障の問題でも、菅義偉首相は傍観するのがはるかに困難な時間を過ごすこととなる。いわゆる四カ国戦略対話(オーストラリア、インド、米国を含むインド太平洋の安全保障グループ)の参加国として、日本は北京の南シナ海での領土問題に異議を唱えるために、より頻繁に、より大規模に合同海軍演習に参加するというアメリカの要求に直面するであろう。たとえば昨年、日本の空母型護衛艦が中国が領海と主張する海域で米国主導の海軍演習に参加している。

中国は、二国間関係の改善により、日本の参加に強く反応していない。しかし、安倍前首相が取った和解路線が弱まり、菅政権が南シナ海をめぐる争いにおいて、より積極的かつ精力的に米国と協力し始めれば、より厳しい反応を呼び起こすかも知れない。

安倍内閣の官房長官で過去8年間最も首相の近くにいて支えた菅義偉首相が、中国を怒らせずに技術問題で米国を喜ばせることができるか、またはその逆の立場を取るか、は誰にもわからない。

ミンシン・ペイ

今後5〜7年で日中関係を完全に破壊する可能性のある事項の1つは、中距離の米国ミサイルを日本の国内に配備することである。米国国防総省の戦略家たちは、強力な攻撃兵器を中国本土の近くに配備することを熱望しており、日本は理想的な場所となっている。ミサイルはまだ開発中のため、米国側は日本への配備を支持するよう要請するには至っていない。しかし、ワシントンが十分な数を生産し終えた時には、日本への配備許可を要求しないことは想像しがたい。日本がミサイルの国内配備に同意した場合、中国との関係は、両国が1972年に外交関係を回復して以来、最悪の危機に直面する可能性がある。

もちろん、こうした問題が惹起されたとしても、安倍前首相や、菅首相の個人的な責任ではない。しかし、現状はいみじくも、再度対立する地政学上の巨大な2か国に挟まれた国の窮状と、それ故に、日本の新首相を待ち受ける外交上の課題の重大性を露わにする。

  • ミンシン・ペイは、クレアモント・マッケナカレッジの行政学教授であり、米国のジャーマン・マーシャル・ファンドの非居住シニアフェローである。著作権:Project Syndicate

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