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すばらしい新生――アラブ=イスラエル関係の見据えるすばらしい新世界

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06 Oct 2020 12:10:48 GMT9

南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領には数多くの金言があるが、中にこんなものがある。「敵と和解したいなら敵と協力すべきなのだ。そうすれば、敵は仲間になる」

マンデラ氏はロベン島で18年にわたる獄中生活を送った後、軍事力で勝る仇敵に暴力で対抗してもアパルトヘイトを終わらせることはできないと理解した。そこでマンデラ氏は、自分たちと自分たちを抑えてきた少数派白人層とが共存するという目標を達成するため、対話と許しと融和の姿勢をたくみに使いこなした。

南アフリカでは黒人と白人とのいさかいに終止符を打つこととなったマンデラ氏のこの戦略だが、残念ながらわがアラブ人の一部が立てる論理の筋道にはこうした戦略は見出せない。彼らは、どうすればパレスチナの人々の生活を向上させられるかについて何の解決策も持ち合わせていない。そればかりか、20世紀半ばのものである旧態依然の弁舌やおよそ現実的でない筋書きのほうにしがみつくことを好んでいる。

私は、道義的にも物質的にもこれまでずっとパレスチナの人々の支援をしてきた。が、事情はこの数十年のうちに変わってきている。私はリアリストだ。おとぎの国のような場所にいつまでもとどまるわけにはいかないし、奇跡が起きるのを未来永劫待ちつづけたりもしない。

米国のゆるぎなき庇護下でイスラエルが経済大国として存立していることは、気に入ろうと気に入るまいと厳然たる事実だ。イスラエル製品をボイコットすればイスラエルを崩壊に追い込める、などという空想は児戯であり偽善だ。いまや手元のパソコン部品の多くがイスラエル製であり、イスラエル製のマイクロチップとなると世界の1億以上の機器に使われているのだ。アラブ世界の中でイスラエルを疎外するようなことをすれば、ならばさらに武器を買いさらに多くの壁を建てよう、とイスラエル政府に思わせるだけだ。これは、実際にそうするだけでなく、気持ちの上でも彼らにそうさせてしまう、ということだ。

このほど、歴史的なアブラハム合意がもたれた。これについては、パレスチナの影響力の損失だ、交渉の切り札が形なしになる、などと言う人たちがいる。彼らにはこう言いたい。長い間、パレスチナもそのアラブの支援者もイスラエルの政策を左右する者たちになんら影響力などもっていないではないか、と。

2001年にはエジプト・ターバーでの協議により和平の実現まであと一歩だった。が、イスラエルで強硬派の老練政治家アリエル・シャロン氏がエフート・バラク首相の後継となり、米国ではジョージ・W・ブッシュ大統領がホワイトハウス入りしたことで膠着状態となった。ブッシュ氏はその中東和平案「ロードマップ」なるものを掲げて心ならずもリップサービスにいそしんだが、それというのもアラブ諸国を引き入れてイラク侵攻をおこなうことに執心していたからだ。バラク・オバマ大統領は、その言やよしだった。が、オバマ政権は実際には、親パレスチナの国連安保理決議の数々に反対だった。ドナルド・トランプ大統領にいたっては、みずからの友人であるベンヤミン・ネタニヤフ氏へ贈り物を与えどおしだ。

イスラエルと平和条約を結ぶアラブの国々が増えれば増えるだけ、その団結による影響力は高まるはずだ。

ハラフ・アフマド・アル=ハブトゥール

イスラエルはずっと固陋だった、とする向きもあり、穏当な意見かと思う。ところが、パレスチナにしてみてもそれは同じことだ。シリアやヨルダン、レバノンその他に散った難民が帰還する権利をいまだ言い募っているのだから。帰還など決してあるはずもないし、そんなことは彼らとて知り抜いている。

パレスチナは、難民を受け入れている国々へ、難民キャンプを打ち壊し、難民に仕事をし自分の家を持つ権利を認めるよう要請したほうがよいのではないか。難民たちは、父祖の住んだ故地の家の鍵を子らに受け継がせると同時に、いつわりの希望も引き継がせている。このため、イスラエルに対する満腔の憎しみは世代を下ってもなくなることがない。どちらの世代にとっても公平なことではないと私は思う。パレスチナ人は200万人いる。1948年に故地に留まった者たちの子孫だ。彼らはイスラエル国籍だ。彼らの過半はイスラム教徒であれキリスト教徒であれアラブ人としての遺産を受け継ぐことに誇りをもっている。その一方で、みずからのことはアラブ系イスラエル人などと称してはばかることがない。

もはやパレスチナ人は、今日自分たちが置かれている立場について誰彼かまわず非難している場合ではない。数十億ドルもの資金援助で寄り添ってくれた長年のアラブの同胞たち、ことにもエジプトやシリアの場合はパレスチナの大義のためにイスラエルと戦争までしたのだ、そんな彼らのことを難じるような真似はよしたほうがよい。まずはみずからの抗争をストップさせるべきなのだ。

ハマースなどの武装グループは暴力と縁を切るべきだ。それはガザ地区に住む貧しい住民たちに跳ね返り、また有害きわまりない封鎖がおこなわれている主たる原因でもあるからだ。アラブ人もハマースの支援をすべきではない。彼らは純然たるパレスチナ人ではあるが、イランにすり寄る者たちでもある。

アブラハム合意は、締結したすべての当事者が貿易、商業、観光、技術、安全保障の面で大いに利益を得る、というところが強みだ。それだけではない。近隣諸国を人質に取る核兵器の製造に余念のない共通の敵への共同戦線も堅固なものになる。

この新たなデタントが成功するとした場合、イスラエルとしても合意の遵守を望むはずだ。そうすればわれわれとしても強い立場でパレスチナの権利を求める力を得ることになる。これは基本となる常識だ。妥協とは、双方が重要な何かを失うような場合にしか発生しない。さらに多くのアラブ諸国がエジプト、ヨルダン、アラブ首長国連邦、バーレーンに続いてイスラエルとの平和協定を結ぶ輪に加わるならば、われわれの組む連合は米国の内部で、そして世界の舞台でさらに影響力をもつことになるはずだ。

記憶のかぎり、レバノンは目下最大の苦難の時期にあることはまず疑えまい。

イスラエルとの和平が成立する場合、形勢は大きく変わるはずだ。が私としては、行く手に広がる障害の数々が取り除かれないかぎりレバノンの人々の賛成は得られまいと思う。レバノン人には、胸中に秘めたものを明らかにし、平和に暮らすことを決断する勇気が必要だ。

レバノンおよびレバノン国民の望みは同じであるはずだ。すなわち、この勇気をためらわせる障害物・問題点のすべてを取り除くこと。こうした問題が克服されたなら和平へと合意が得られるのは明らかであり、レバノン国民も繁栄が可能となる。平和に暮らすことを決断するだけの器をレバノン人には示してほしい。これについてはしかし、希望の片鱗もある。ともに交戦中と自認するレバノンとイスラエルだが、先に米国の仲介で海上境界線に関して協議入りすることで合意している。これは東地中海一帯で石油・天然ガスが新たに発見されたことを鑑みたものだ。海上からさらには地上の国境線の画定交渉、ひいては待望の和平協定までの道もはっきり開かれる可能性がある。

ヒズボラによるレバノン支配は終わりを迎えつつある。ハサン・ナスラッラー師と彼に隷従する者たちは、あまりの嫌われぶりから雲隠れを画策するほどにまでいたっている。親ヒズボラ勢力がなお政界にとどまりたいのなら、みずからの勢力と手を切る必要がある。ヒズボラが二度と再び鎌首をもたげるような事態を確実に絶つためには、レバノン国民はヒズボラ指導部およびテロの主導者らへ犯罪的な戦争行為をそそのかしたかどで裁きを受けさせるよう求めるべきだ。その罪状はそれだけにとどまらない。レバノンを窒息状態にまで抑え込んだその支配体制の責めも負わせねばならない。レバノンには荒廃と窮乏と未曽有の貧困しかもたらさなかったものだ。

イスラエルとアラブ諸国の間でかつてもたれた和平合意は不承不承サインされたものだっただけに、それらとは毛色の異なる今回のアブラハム合意が画期的なのは疑いない。エジプトがイスラエルと国交を結んだのは、1967年に占領された領土の返還が目的だった。ヨルダンの場合は、当時のビル・クリントン米大統領が債務の帳消しをちらつかせて何度となく圧力をかけつづけて締結させたものだ。したがって近年までは国交正常化といってもそれは、紙の上のものにすぎなかった。冷たい平和がいまだ幅を利かせていたのだ。

この点、アブラハム合意は大きく異なる。何となれば、当事国すべてが地域に平和と繁栄の将来に資する強固な協力関係を築くことに熱意を向けているからだ。経済的な利得が昨今では世界の政治を動かしている。となると、今回の3国による国交樹立が偉大かつ永続する成功であることを確実にするかすがいとなるはずなのは、ビジネスの分野で共通の土台をもつということだ。またとない仲間を得たとイスラエルはほどなく気が付くはずだ。

わが祖国は先進と寛容の趣のある国だ。またその国民は多文化主義を受け入れ、人種や宗教が異なる人々にも友情と敬意を示してきた。違いがあれば冷静かつ礼儀正しくこれを解消する。口論や暴力などはなしだ。つまらぬことで言い合うひまなどないのだ。バリバリ仕事をして休暇を存分に楽しむ。それしか眼中にないのだ。

最後に全アラブ諸国の指導者たちに促しておきたい。過去の憎しみは葬り去ることだ。72年間外交政策を蕩尽し何も実りをもたらさなかった。平和な中東の構築にわれわれとともに参加してほしい。だれしもが新たな胸躍る機会を得ることになるはずだ。なぜか。これこそが、われわれが子らへ、そうして来たるべき世代へと残してやれる無上のレガシーであるからだ。

  • ハラフ・アフマド・アル=ハブトゥール氏はUAE経済界の大立て者であり、著名な人士。国際政治に対する見解や慈善活動、また平和推進への取り組みで声望が高い。UAEを国外に宣伝する民間の大使としての役目を長らく果たしている。
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