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ロシアは思惑通りトルコへの影響力を強める

今日トルコはロシアと共同でシリア北部の警備を開始した。両政府間での取り決めに応じて、クルド勢力が重要な国境近くの拠点から撤退したかどうかを確認するためだ。(AFP / デリル・スレイマン)
今日トルコはロシアと共同でシリア北部の警備を開始した。両政府間での取り決めに応じて、クルド勢力が重要な国境近くの拠点から撤退したかどうかを確認するためだ。(AFP / デリル・スレイマン)

トルコ政府は、地政学的にロシアに借りができてしまった状況にあり当惑している。アメリカのドナルド・トランプ大統領がトルコのレヂェップ・タイイップ・エルドアン大統領に対して、トルコ政府がシリアの北東部に侵攻することを許したことを受けて、ロシア政府は飛び上がって喜んだ。アメリカ軍の第一段階の撤退後、今やシリアではロシアとトルコによる共同警備が行われている。ロシアにとっては、最大限の圧力をこれまでと違った形で発揮できる瞬間が訪れたことになる。

ロシアは今ではトルコに最も強い影響力を及ぼす存在だ。クルド系のシリア民主軍を標的にトルコがシリア北東部に侵攻し、何百人もの死者が出ており、何万人もが避難を余儀なくされている状況となった。この地域の勢力図は塗り替えられたのだ。それに加えて、ISのリーダーであるアブー・バクル・アル=バグダーディー容疑者が殺害されたのも、トルコ国境からわずか数マイルのトルコが主導する自由シリア軍が支配する地域だった。

オランダの総合情報保安局によると、ISはトルコを「戦略的拠点」にして勢力の再建を図っており、ヨーロッパの安全が脅かされていたとのことだ。トルコが第一に標的にしているのはクルド人グループでありISではないため、ISは根絶を免れて自由にトルコやその先に移動できる。ヨーロッパはテロ対策を優先しているがトルコの優先順位はそれとは異なっており、それが大きな原因となってIS支持者が再度他の地域に広がることを防ぎきれていないのだ。

ロシアは、トルコがISを援助する共犯関係にあることを知っている。エルドアン大統領の近親者は、ISの経済と物資供給に関わる筋の支援に関与していたことが指摘されている。トルコに石油を密輸するのに関わっていた犯罪組織ネットワークは、2015年からISやその他のイスラム過激派に武器供与を行ったり訓練を実施したりしている。ロシアとトルコのトップ間の関係性も相まって、ロシアが持つ証拠はトルコ政府に提示されれば余計に決定的なものとなる。ウラジミール・プーチン大統領による4年間の支援の返礼として、これからロシア政府はトルコ政府からさらなる地政学的な譲歩を求めるだろう。

上記の通り、現在トルコには圧力がかかっている。トルコはロシア製のS-400ミサイル防衛システムを購入して導入も完了し、アメリカ政府は怒り狂っている状態だ。また、ロシアからトルコへの新たな天然ガスのパイプラインの建設の初期段階が完了し、ロシアはさらにトルコ国内の4地点で原子力発電所を建設予定であるなど、ロシアとトルコでは結びつきが広がっている。トルコ政府から見れば、両国関係が深まる反面、何十億ドルもの請求がロシア政府から届いている形となっている。

しかし、両国の関係は単純な債務者と債権者の関係にとどまらない。ロシアは今や、シリア関連でさらにトルコに武器を売っているのだ。追加のS-400の導入の話がすでに出ており、トルコ政府はさらに4台の購入に踏み切ろうとしている。追加購入となれば、そもそもトルコがS-400の購入を決めた目的から逸脱することになる。当時の購入目的は、西洋から、特にアメリカ政府からの独立をアピールできるようなシステムを確保することだった。

トルコが国内の様々な場所でさらなるS-400装備の大隊の配備を進める可能性が高いことに関して考察することは重要だ。なぜなら、それぞれが独立し、互いの支援が必要なくなるからだ。これは、国内からの脅威に対して有効な抑止力となるが、より重要なのは、S-400によってトルコは黒海や地中海をカバーできるという事実だ。これらの地域では瞬時に緊張が高まる可能性があり、そうなればNATOの加盟国同士が互いに対立する可能性もあるのだ。さらにロシアは、最先端のミサイルとスーホイSu-57及びSu-35戦闘機も販売したいと考えている。現在のロシアとトルコの関係はまさにロシアの思惑通りであり、トルコが果たしてNATOの加盟であっていいのかどうかという疑問すら湧いてしまう。

シリアから見れば、このロシアとトルコの関係を受けて、バッシャール・アサド大統領は次にロシアが何と言ってくるのか、そしていつ何かを言ってくるのかを注視している状態だ。プーチン大統領は、トルコとシリアの両方を指揮下に置いているようなものなのだ。問題なのはもちろん、各方面からの軍事作戦で、シリアに次の段階の交渉に応じるよう圧力がかかっていることだ。自体はその方向に動いており、ロシア政府がシリアの体制に関するプロセスの詳細にどのような関心を向けるかによって、次の展開が決まってくるだろう。

アサド大統領が現在進行中の課題に対処できているのは、ロシアからの支援があるからである。この状況はトルコ政府から見れば幾分か圧力がかけられている状況である。なぜなら、シリアにとっては、今回のトルコによる侵攻は主権の面では明らかに問題をはらむものだったが、それによってアサド大統領はより国を支配しやすくなった形であり、またシリアの将来を決める交渉にも一歩近付いた形である。さらに、ロシア政府による重要提案に基づいて一連の会談がジュネーヴで再開され、国連シリア担当特使のゲイル・ペダーセン氏がその階段の指揮を任されることになる。明らかに、ロシアはシリアの政治の行く末に関して、存在感を再度強めているのだ。

ロシア政府にとっては予期せぬ懸念事項として、アメリカ軍主導でシリア東部の油田地帯の防衛が行われている。アメリカ軍の一部の部隊はイラク国境近くのアル=タンフに駐留を続ける予定で、デリゾール近くの油田地帯にさらに部隊が送られているのである。アメリカによるこの動きでシリア政府とロシア政府は苛立っており、また地域の安定後レバントのどこにパイプラインが通されるかに関する長期的展望を受けて、イラン政府も苛立っている状況だ。ペンタゴンはロシアとトルコの両方を驚かせるスマートな動きに出た形であり、アサド大統領がシリアを再度まとめ上げるために何が必要かということに関して、近い将来においてロシアがシリアを思い通りにできないよう楔を打ち込んだ構図である。

全体的に優位に立っているのはロシアであるが、アメリカがここにきてこの地政学的流れに割って入った形である。イランは蚊帳の外で、こうした問題に関する発言力はどんどんと弱っている。トルコはロシア政府の影響下にあるが、アメリカ政府からも怒りを買っている状態だ。上記に鑑みて、トルコはヨーロッパに属していると言えるだろうか。

テオドール・カラシック博士はワシントンDCGulf State Analyticsで上級顧問を務めている。過去にはRAND Corporationの上級政治学者としてアラブ首長国連邦に10年間居住経験があり、安全保障関連の問題を専門としている。Twitter @tkarasik

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