Faisal J. Abbas
先週、ヨルダンは建国100周年を迎えた。パンデミックのため小規模になった式典、またハシミテ王室での先日の亀裂にもかかわらず、ヨルダンには誇りを持って祝福する権利が大いにある。
実際、限られた資源(飲料水を含む)、問題の絶えない近隣諸国、困窮する経済、難民の流入など多くの問題を抱える国にとって、100年を迎えたことは目覚ましい成果である。こうした難題にもかかわらず、ヨルダンは現在もその価値観に忠実であり、テロとの闘いの最前線に存在し、米国の強固な同盟国で、寛容なイスラム教を支持し、この地域の和平交渉の重要なプレーヤーである。
サウジアラビアにとってヨルダンは、歴史的、家族的なつながりだけでなく、北部の長い国境や他いくつもの利害関係を共有する安定したアラブの王国である。サウジアラビアは、多くのアラブ諸国と同様、ヨルダンの「緩衝地帯」としての地位を高く評価し、終わりのないこの地域の混乱によって引き起こされる衝撃を吸収するユニークな能力に敬意を表している。だからこそ、ここ数日リヤドでなされた議論は、ヨルダン王室で起こった亀裂についてではなく、西側諸国の専門家がより大きな構図を把握できていないことについてであった。
公平を期すために言えば、ハムザ・ビン・フセイン皇太子が自分の忠誠を再度表明する書簡に署名し、アブドッラー国王がこの問題は解決されたと述べたことによって、平均的なオブザーバーはこの王室での紛争物語は終結したと信じるのは理解できることである。この2人は、この問題後初めて、100周年記念の式典で公の場に一緒に登場した。
しかし、ここは中東であり、目に見える以外のものが常にある。ワシントンポスト紙のDavid Ignatius氏のような評判の高いコラムニストや、Foreign Policyのような媒体のライターたちが、この紛争の核心を見逃してしまったのは驚くべきことであった。
たとえば、Ignatius氏の目には、アンマンで起きたことは「ヨルダン版『ザ・クラウン』の面白いエピソードの1つにすぎなかった。そこでは、ほとんどの王朝で一般的である乱雑な家族内の制度が、ハシミテ家を悩ませた。」彼は4月6日にこのように書いた。
ヨルダンの苦悩をドラマ作品に比較するのなら、より正確な比較対象は「ザ・クラウン」ではなく、「地獄の黙示録」だろう。
Faisal J. Abbas
Ignatius氏は自分の主張に基づいてこの問題に対する診断と治療法を提供した。「ヨルダンの問題の最も心配すべき側面は、(国王)アブドッラーが想像上のソーシャルメディアの敵に対して執着心を持ったことである」と、彼は記した。勿論、言論と批判の自由を認めるコラムに異議はないが、彼の分析は近視眼的であると言わざるを得ない。なぜならIgnatius氏は、この地域全域に大きな影響を与える可能性のある問題の原因にではなく、結果のみに焦点を当てたからである。
例えば「ザ・クラウン」の類推を考えてみよう。ヨルダンの苦悩と今後の潜在的な課題の真の規模をドラマ作品に比較するのなら、より正確な比較対象は「ザ・クラウン」ではなく、「地獄の黙示録」だろう。
この亀裂が表面化し、ソーシャルメディアの声がヨルダン政府に批判的である根底には、より深い理由がある。理由は経済危機である。
これこそが国際社会と米国の新政権が注力しなければならない課題である。ヨルダンのような国の奥深い社会問題を診断することができなければ、国際社会の最も費用のかかる外交政策上の失敗のひとつになりかねない。これら社会問題は、最終的にはリーダー間の亀裂、大衆の疎外、ひいては内戦など、様々な結果として現出するかもしれないものである。
ヨルダンは、問題の絶えないイスラエル・パレスチナ地域、ハイジャックされたイラク、激しく分裂したシリア、非常に不安定なレバノンなどと隣り合わせだ。ヨルダンでの混乱は、そこから未曾有の難民の流出をもたらし、隣接地域の既存の不安定性を容易に悪化させ、イスラム国のような過激派が悪用できる新たな空白を作り出す可能性がある。
これらはすべて有り得ないように聞こえるかもしれないが、間違えてはならない。ヨルダンは現在深刻な危機の渦中にある。米国、西欧のほとんどの国や近隣の湾岸諸国とは異なり、ヨルダンにはパンデミックによって悪化した経済の修復のための巨額の費用を賄う手段がない。
2021年の国家予算法案に関し、最近ヨルダンの財務大臣Mohamad Al-Ississ氏は「この法案はヨルダンにとってこれまでで最も厳しいものだ。コロナウイルスのパンデミックおよび非凡な地域的状況が、成長を最小限に抑えたばかりだ」と述べた。
リヤドにとって不安定なヨルダンな大問題であり、アブドッラー国王の地域的な嵐を乗り切る独自の能力を支援することによってのみ、恩恵を受けることができる。
Faisal J. Abbas
さらに、ヨルダンには130万人近いシリア人が居住しており、その半数以上が難民である。シリア内戦の絶頂期には毎日13,000人近くのシリア人がヨルダンに流入していた。今日まで、人口わずか1,000万人のヨルダンは、世界的な難民危機を封じ込めるというその多大な努力に対してまったく十分な補償を受けていない。また忘れてはならないのは、ヨルダンはパレスチナ難民やイラク難民を支援する手段を持っていなかったにもかかわらず、これまで受け入れ続けてきたということである。
要点は、これは危機的状況だということだ。危機はホワイトハウスからの電話1本で解決するものではない。アブドッラー国王にはよく耳を傾けるべきであり、彼の政府が何年にもわたって警告してきた国家危機に起因する批判を読むのを止めるべきだなどと言っている場合ではない。
この地域の強国は、ヨルダンの(そして、ひいては地域全体の)ニーズに対して、より機敏であった。ヨルダンが限界に達したことに気付いたサウジアラビアは、コロナウイルスとの闘いのためにヨルダンへの酸素輸送を命じ、サルマン国王人道援助救援センター(KSrelify)を介して、かなりの量の支援を継続している。また2018年、サウジアラビアはヨルダンを支援する経済イニシアティブを開始した。Makkah首脳会談と呼ばれ、クウェートとアラブ首長国連邦が出席し、25億ドルの支援パッケージが実現した。
陰謀論に反して真実を言えば、リヤドにとって不安定なヨルダンな大問題であり、アブドッラー国王の地域的な嵐を乗り切って自国民をリードする独自の能力を支援することによってのみ、恩恵を受けることができる。
しかし、まだまだ他の取り組みも必要である。そして、米国の新政権は、先日のヨルダンのドラマがただの家族問題だったなどとの幻想に埋もれていないことが不可欠である。あのドラマを可能にした経済的要因は日々強まっており、私たちはヨルダン人をあらゆる方法で支援する義務を負っているのだ。