米国経済は「離陸の準備が整った」とジョー・バイデン大統領が初の議会演説で述べたが、これは世界中が長い間待ち望んでいたニュースである。
バイデン大統領は、米国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの最悪の事態を脱し、積極的な景気刺激策の導入により、経済は今後年末にかけて劇的な成長を遂げるだろうとの見通しを示した。
さらに、米国連邦準備制度理事会(FRB)のジェイ・パウエル議長が、パンデミックによる不況の中、米国の経済と市場を活性化させてきた大規模な金融資産購入プログラムを継続すると、ほぼ同時に発表したことでバイデン大統領の発言はさらに重みを増し、世界の投資家の楽観的な見方に寄与した。
ここまで米国の株式市場を屋台骨として支えてきた絶好調のテクノロジー企業各社が先週発表した好業績も、世界の投資家を安心させたが、一部の専門家の間では、こうしたハイテク企業を中心に、今後株式市場は大暴落するのではと懸念されていた。
しかし、現在のように米国のマクロ経済が好調な中、昨年から一部で懸念されている、ハイテク企業を中心とした市場の暴落はもう起こらないと確信していいのだろうか?
米国経済が現在滑走路でエンジンを暖めている状況とすれば、世界経済を牽引するもう一つの大きな原動力である中国は、すでに雲の上に向かって飛び立っている。中国の第1四半期の国内総生産(GDP)は18.3%増となり、過去最高を記録している。世界最大の製造大国である中国は、昨年のパンデミックによる減速を劇的に回復させた。
米国と中国を合わせれば、世界の経済活動の40%を占めているのに対し、インドの貢献度は1桁台前半に過ぎない。インド(人によってはブラジルも加えるであろう)にとっての人道的な悲劇は、必ずしも世界の他の地域にとって経済的な悲劇にはつながらない。
フランク・ケイン
このように世界全体では楽観的な空気が漂う中で、暗雲が立ち込めているのはインドである。現在インドで猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ウイルスの劇的な感染再拡大は、確実に世界第5位の経済大国の成長に影響を与えるだけでなく、人類にとっての災害でもある。
しかし、こうした状況においても、経済的視点を保つことも重要である。米国と中国を合わせれば、世界の経済活動の40%を占めるのに対し、インドの貢献度は1桁台前半であろうか。インド(人によってはブラジルも加えるであろう)にとっての人道的な悲劇は、必ずしも世界の他の地域にとって経済的な悲劇とはならない。
しかし、サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国などの産油国にとっては、複雑な計算が必要となる。インドは石油の輸入大国であり、そのため、今週初めのOPEC+会議では、当初予想の増産を堅持するかどうかが議論された。
最終的にOPEC+では、インドやブラジル、そして欧州を含む他の地域の経済減速リスクよりも、米国や中国での景気回復の方の影響が大きいと判断し、予定どおり日量約80万バレルを増産する計画実行に踏み切った。
OPEC+会議の決議後の原油価格の推移を見ると、計算された賭けに出たことは適切だったことが判明している。ブレント原油はその後上昇し、現在では1バレル67ドル近くの水準にあり、OPEC+の生産国の多くがグローバル・スイートスポットと見なす「ゴルディロックス」の範囲にうまく収まっている。実際、現在の石油業界では、ブレント価格がどこまで上昇するかが大きな議論となっている。
原油価格に関して最も強気のアナリストである米国の投資銀行JPモルガンとゴールドマン・サックスの2社は、昨年の価格暴落で投資が滞ったことで、景気回復で供給増を求められても、すぐには対応できず、世界は原油をはじめとする一次産品価格の「スーパーサイクル」に突入するとの今年初めに行った予測を実質的に更に強めている。
JPモルガンのクリスチャン・マレクは、「パンデミック後の業界の大規模な資本リセットは、我々のスーパーサイクルのテーゼを強調するものになったと考えている」と述べ、ゴールドマン・サックスは、今後6ヶ月の間の目標を1バレル80ドルとすることを強調した。
こうした強気の予測は、業界の誰もが共有しているわけではなく、また、米国シェール業界の復活の可能性を注視しているOPEC+の参加者にとっても、必ずしも歓迎すべきものでもない。
しかし、現在、原油価格がどこまで上がるかが議論の中心になっているということは、米国と中国が牽引する世界経済が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを克服したと考え、今年後半の景気回復を予測していることも表している。離陸に備えて、シートベルト着用の用意は出来ているであろうか。