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欧州はNATOがすでに死滅したものとして振るまわねばならない

英国ウォトフォードで開催されたNATO首脳会議で、首脳らとイェンス・ストルテンベルグ事務局長が「家族写真」のためのポーズをとる。(ロイター通信)
英国ウォトフォードで開催されたNATO首脳会議で、首脳らとイェンス・ストルテンベルグ事務局長が「家族写真」のためのポーズをとる。(ロイター通信)
06 Dec 2019 10:12:34 GMT9

これまで幾度となく書かれてきたことに反して、北大西洋条約機構(NATO)は存続する。しかしまた別の狐がいっぴき鶏小屋に侵入し、危険に対する欧州の典型的な反応に直面している。羽根をまき散らしながらクワックワッと狂ったように大騒ぎするという反応だ。

問題の狐とは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領だ。彼は最近、NATOは一種の「脳死」に陥っていると表現した。彼の言い分の要旨は認めるにしても、この言葉の選び方に賛同する必要はない。あるいは、マクロン大統領が新たにロシアのウラジーミル・プーチン大統領との意見交換に熱心になっていることに関してもだ(私は個人的に賛同しない)。ドナルド・トランプ大統領の下で米国の戦略的優先事項が大きく変化したことにより、欧州は集団的自衛について長らく抱いてきた想定の再検討を余儀なくされている。

NATOが瀕死の危機に陥るのはこれが初めてではない。同盟国がアフガニスタンでの活動以外にあまり議論すべき問題のなかった2014年までは、多くの国が同じ結論に達していた。ロシアがクリミアを併合してウクライナ東部に紛争をもたらしたときには、それがNATOに新たな活気を与えたものだ。

そしてトランプがやってきた。トランプ政権は、欧州の足の下に敷いてあったじゅうたんを引き抜き、ルールに基づく国際システムにおける米国のリーダーシップを投げ捨て、国粋主義的、保護貿易的、かつ単独行動的な外交政策を追求した。トランプは、NATOは「時代遅れ」だと言い放った。

その結果として欧州は、第二次世界大戦後初めて、自力でなんとかしなければならなくなった。しかし、戦略的にこれほど長く米国依存が続いた後で欧州は、今日の厳しい地政学的現実に対してその準備ができていない。物質面のみならず、精神面でもだ。ほかのどこよりもそれがいえるのが、ドイツだ。

NATOの将来は今、これまでのどの時期にも増して不確かだ。あの1989年の直後に、この同盟関係が20年後にも未だ健在であることを疑うものはほとんどいなかった。しかし今日、その将来に対する疑念は米国政府からだけでなく、フランス政府からも浴びせられている。NATOの存続をもはや当然視することはできず、欧州はその後どうなるかを見極めるのに20年を待ってはいられない。

国粋主義化する米国、自己主張を強める中国、そして進行するデジタル革命の合間にあって、欧州は自らが力強い存在となるほかに選択肢はない。この点において、マクロン大統領は図星をついたと言える。しかし欧州諸国は、自立した防衛にはなにが必要であるかについて、いかなる幻想をも抱くべきではない。自らを軍事勢力というよりも経済的勢力としかみなしてこなかった欧州連合(EU)にとって、それは現状との深い決裂を意味するのだ。

もちろんNATOはまだ存在し、米軍はまだ欧州に配置されている。しかしここでの性質決定文言は、「まだ」だ。従来の体制や大西洋安全保障への誓約が疑問にさらされている現在、同盟関係の解体は、「もし」というよりも「いつ」という問題になりつつある。いつ、トランプ大統領がすべてを撤回する宣言を下すことになるのか。欧州諸国にとって、なにもせずに運命のツイートが呟かれるのをただ待っているのは愚の骨頂だろう。

マクロン大統領はこれを理解しているいっぽうで、ドイツは従来と変わらず、以前の誓約へのリップサービスを述べるだけで、防衛費を増やすといいながら実際にはほとんど事を前に進めていない。マクロン大統領は、米軍の撤退に続く欧州防衛力の分裂が、多くが予想するよりもはるかに厳しいものとなることを理解しているのだ。それはほとんど気づかれるこのない漸進的変化としてではなく、突然の分裂として現れるだろう。

もし欧州がその結果を防ぎたいか、少なくとも遅らせたいのであれば、軍備に十分な投資をし、その能力を大規模に増強する必要がある。言い方を変えれば、その分裂がすでに起きたものとして行動しなくてはならないのだ。

近代史の大きな部分において欧州は、2つの課題に対処してこなければならなかった。荒れ狂う中心部(ドイツ)と、常に地政学的に無防備なままとなる東側面(ロシア、そして現在は中国)だ。その設立以来、NATOはこれら2つの問題への解決策として存在してきたのだ。

NATOやEU内からはるか東方を見れば、加盟諸国はこれまでよりも大きな安全面の脅威を目の当たりにする。これらの国々とロシアとの地理的な近さ、ロシア帝国主義の矢面に立たされてきた長い歴史を考えれば、これは驚くことではない。つい最近もロシアの軍事的なクリミア併合や、ウクライナ東部の紛争として顕われたばかりだ。ポーランドやバルト諸国を始めとするこれらの国々にとって、欧州防衛にはNATOを通した米国との統合が不可欠なのだ。

欧州東側の地政学的リスクを考えて、NATOは必要な保険形態を提供し、各加盟国がより大きな大義のために相応量の貢献を課すよう求めることでEU内の連帯と結束を促進させてもいる。トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」のスローガンの下で国粋主義へと切り替えたことで、欧州は突如として自らの支配力の問題に直面することを余儀なくされたのだ。それは、統一戦線として断固たる行動をとり得る自立した技術力をもつ勢力となることを意味する。EUが自らの意志でそれをすることは決してなかっただろう。トランプ大統領の意図がなんであれ、それは欧州に自らの再編成を強いているのだ。NATOを守るためにEUは、同盟関係がすでに断たれたものとして行動すべきである。

ヨシュカ・フィッシャー氏は、1998年から2005年までドイツの外務大臣兼副首相を務め、20年近く同国の緑の党を主導した。著作権:プロジェクト・シンジケート、2019

オピニオン:#米国に何年も戦略依存してきた#欧州は、今日の厳しい地政学的現実に対して、物質面のみならず精神面でも準備ができていないと、ヨシュカ・フィッシャーは書いている。#NATO

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