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イラン政権は相互保証された破壊へと舵を取る

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19 May 2019 03:05:33 GMT9
19 May 2019 03:05:33 GMT9

イラン革命防衛隊の特殊部隊「コッズ部隊」の司令官ガーセム・ソレイマーニー氏は最近イラクを訪れ、イランと関係を持つシーア派準軍事集団「ハシド・シャービ」のリーダーたちを招集した。同氏がリーダーたちに伝えたメッセージは非常に明確なものだった:「戦争の準備をしろ」

米諜報機関の報告によれば、ソレイマーニー氏はこのイラクの代理人たちに米軍を標的とするように指示した。同様のメッセージはレバノンとイエメンの代理人たちにも伝えられ、シーア派武装組織「フーシ」反乱軍は先週、アラビア湾岸の石油パイプラインに対するドローン攻撃の犯行を騒々しく宣言した。またイランは、おそらくその代理人たちを通して、間違いなくアラビア湾海域の石油タンカーに対するサボタージュ攻撃も支援していた。

私が話をした西側のほとんどの政治家は、ハシド・シャービやその関連部隊が何者であるかについて、全くの無知である。イラクを担当する当局者たちは、10年前に600人から成る連合軍を打ち負かしたそれらの準軍事組織について、気にすべきではないという自己満足の雰囲気を放っていた。西側のある外交官が指摘して私を安心させたように、ハシドの司令官ハディ・アル・アミリ氏は「最初にして最大のイラク人民族主義者」である。最近私たちは、シーア派武装組織「ヒズボラ」によるレバノンの主権や安定、領土保全に対する約束に関し、似たような口先だけの言葉をどのように聞いていたのだろうか?

しかしそれでも最近になって英国や米国は脅威レベルを引き上げたり、イラクの大使館から要職以外のスタッフを急いで退去させたりした。諜報機関の報告が、それらの民兵たちが実際に差し迫った脅威もたらす構えを見せていると、遅ればせながら認めたためだ。航空会社には、上空を飛ぶ民間航空機が「誤認」される可能性があると警告した。

テヘランはアラビア湾海域を巡回するダウ船にロケット弾を積み込んで、米国の諜報機関を動揺させた。一方でダマスカスに対するイスラエルの空爆の標的となったのは、大規模なミサイル車両部隊だったようで、レバノンやシリアにまたがる衝突の懸念を再確認させている。このようにプレイ中のボールが非常に多い状況では、たとえテヘランが戦争を望んでいないとしても、1つの誤算がそれらの好戦的な敵対勢力を相互に拡大する対立へと放り込む可能性がある。米国のジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官の武力による威嚇によって米国は孤立した状態が続くかもしれないが、NATO同盟諸国はイランの挑発的な言葉に直面すれば、急速にその歩調を合わせることになるだろう。

ワシントン・ポスト紙のあるアナリストは、テヘランが対立の道を選んだと結論づけた。その理由は、「トランプ政権が終わるのをじっと待つ作戦は上手く行かなかった。制裁措置は耐えられないほどの圧力となっており、トランプは再選されるかもしれないように見えた」からだ。私は観測筋の意見として、強大なアメリカ人に対しそのような暴力や恐怖を与えるイラン人の「ずる賢さ」を聞いている。自由に使える限られた手段を情け容赦なく使うという点で、実際にテヘランは戦術的には非常に賢いが、戦略的には極めて愚かで軽率である。

知っての通りトランプ政権は非常識であり、非常に多くの意味で無能である。しかしイランは年老いた短気な眠れるライオンを怒らせようとしているちっぽけな虫のようなものだ。結局のところ、ライオンは前足を面倒くさそうに打ち付け、その極めて小さな迫害者を消し去ってしまうだろう。イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相は、自分が持つ中国やロシアとの関わりが、核問題に関して好ましい行動をしているとの承認につながったとほくそ笑んでいる。しかしイランがアメリカのライオンを戦争へと煽り立てた後でも、それらの国はテヘランをかばってくれるだろうか?

自分自身で過熱させた地域的な主権に関する聞こえの良い誤った信念にとらわれたアヤトラ(シーア派の最高指導者)たちは、地域主権と西側勢力への攻撃という大義名分のために、多国籍から成る準軍事的な雇われ兵たちを展開するという野心を隠そうとしてこなかった。ソレイマーニー氏は自信過剰気味に、「紅海はもはや駐留するアメリカ人にとって安全ではない…トランプは我々が殉教の国であり、待ち構えていることを知るべきだ」と宣言した。

バラク・オバマ氏による2015年の核交渉は数100億ドルの凍結解除につながり、欧州の多国籍企業がイランへ投資しようと列を成した。イランはこれで得た大金をシリアの肉挽き器に注ぎ込んだり、地域的な闘争に融資したりする代わりに、石油による大量の富の流入に支えられて、自国経済を全面的に整備し直し、国民の福祉を大改革することができた。しかしこのならず者政権は、対立の熱狂的な雰囲気の中で生き延びる方法を知っているにすぎない。「革命を輸出する」というイスラム共和国の1980年代の論理の真っただ中で成人となった指導者たちは、自分たちの富を浪費することに抗えず、過激派に資金提供して隣接諸国に無政府状態や宗派間の虐殺行為を押し付けている。

イスラム国は常に、目を見張らせるほど陰惨な暴力を通して自らをニュースにすることに非常に長けていた。同様にイランの代理人たちも、メディアを避けることに長けている。アル・カイダとシーア派の暗殺部隊はどちらも、2006年頃にバグダッドで起きた宗派間浄化闘争の首謀者だったが、イランの支援を受ける組織はさらに組織的に数万人の市民を殺害したり、数十万人のスンニ派教徒を脅して追放したりした。彼らは人口統計学的に66種類が混在するバグダッドの住民を、18ヶ月以内にシーア派だけにしてしまった。それでもニュースの見出しは、スンニ派とシーア派を同じように脅かした派手な無差別爆撃のおかげでアル・カイダ一色だった。また世界は2014年以降、ファルージャ、ラマディ、チクリート、モースルなどのスンニ派の都市で行われたハシドの戦争犯罪も、それらが全てイスラム国と戦うという大義名分のために行われたものである限り、都合よく無視した(ただし、ハシドのリーダーたちは常設軍との最も厳しい都市部での戦闘から去ったのだが)。

必死になって衝突を回避しようとしているドナルド・トランプ氏は、ボルトン氏が戦争に向かって強引に自分を押し切ろうとしているとの認識を否定する。この米国大統領はスイス経由でテヘランとの対話ルートを探っていると伝えられている。マイク・ポンペオ国務長官がオマーンの君主にかけた電話も、同じ目的だったかもしれない。トランプ氏はアヤトラたちが今にも対話を懇願しようとしているとの思い違いをしており、イランについてほとんど理解がないことを示している。

ハサン・ロウハーニー大統領やザリーフ氏のような中道派は、トランプ氏の核交渉からの撤退によって弱体化された。強硬派たちはこの交渉撤退を、アメリカ人は信用できないことの証明として挙げる。そのためイランの政治的な志向は、再開した米国の圧力に対する声高な反抗に統一され、少なくとも現時点では降参を政治的に不可能にしている。ロウハーニー氏は新たな制裁措置によって課せられた困難を、イラン・イラク戦争の損害に匹敵するとした。ルーホッラー・ホメイニー氏が1980年代の紛争終結のために「1杯の毒」をすすったのとまったく同じように、ロウハーニー政権も結局は降参せざるを得ないかもしれない。しかしかつてはその対立のせいで無意味な血染めの膠着状態が7年も続き、100万人もの死者を残したことを思い出してほしい。

トランプ氏による必死の対話の呼びかけ、2018年の米国バスラ領事館閉鎖(代理人たちによる砲撃後)、バグダット駐在の米国政府職員の縮小、およびシリアからの撤兵は、テヘランにとっては全て、アメリカ人が圧力に反応して逃げ出しているように見える。彼らはトランプ氏の衝突を嫌う明らかな態度、およびワシントンにおける政策の混乱を、米国大統領を脅して屈辱的なUターンをさせることができたと解釈する可能性がある。金正恩氏が最近、アメリカを悠々と負かし、トランプ氏が永遠の愛と友情を示す一方でミサイル発射実験を続けることができているのと全く同じである(トランプ氏は以前、平壌に「炎と怒り」の雨を降らすと脅していた)。米国当局はイランのいかなる挑発も容認しないと断言するが、アラビア湾の船舶と石油インフラに対する攻撃に対応しなかったことを受け、テヘランはワシントンの帝王が裸の王様であることにはっきりと気づいたのだ。

しかし、この予測不能な爆発寸前の現状において、アメリカ人を煽って怒らせるために準軍事資産を展開するというイランの思い上がった愚行は、結局のところテヘランが破壊されてがれきとなり、この地域が再び集中砲火を浴びるだけに終わりかねない。

世界はもうこれ以上、代理人による準軍事的脅威について無知なふりを続けることはできない。それらの地域化された民兵の大群が、私たちの頭上に振りかざされた剣のように利用されている限り、中東に平和は存在しない。この過激派による脅威を抑制するためには、テヘランの無鉄砲な政権と戦争狂のボルトン氏が相互に保証された破壊へと私たちを導く前に、国際コミュニティが断固とした行動を取る必要がある。

バリア・アラムディン氏は受賞歴のあるジャーナリストであり、中東および英国のアナウンサーである。彼女は『メディア・サービス・シンジケート』の編集者も務め、多数の国家元首にインタビューを行った実績を持つ。

https://www.arabnews.com/node/1499206

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