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アラブ諸国における将来の食料危機を防ぐ

サウジアラビアの多くの企業がスマート農業に取り組み、サウジアラビアの食料自給率を高めている。(フーダ・バドシャタ撮影)
サウジアラビアの多くの企業がスマート農業に取り組み、サウジアラビアの食料自給率を高めている。(フーダ・バドシャタ撮影)
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02 Sep 2022 10:09:22 GMT9

トゥルキ・ファイサル・アル=ラシード博士

歴史は繰り返す。10年以上の時を経て、食料安全保障は再び世界各国政府の最重要課題となっている。思い出すのは2007~2008年の食料危機だ。農業、フードシステム、サプライチェーンは、さまざまな課題に直面している。新型コロナウイルス感染症の大流行、ロシアによるウクライナ侵攻、気候変動による自然災害、そしてサプライチェーンの混乱とインフレ。すべてが世界の食料不安に拍車をかけた。

多くの国が現在の食料安全保障危機の影響を受けており、食料価格の上昇は政治・社会秩序を揺るがす恐れがある。その好例が、スリランカ政府の崩壊である。

迫り来る食料安全保障の危機は、サウジアラビアにとってさほど驚くようなことではなかった。2008年の食料危機が発生した後、サウジアラビアは地元の農家にスマート農業の技術を活用するよう奨励し、また海外から食料を調達することで、食料備蓄を強化する準備を整えた。

パンデミック発生当初、サウジアラビアの国内市場には豊富な食料があったため、市民や住民は食料不足の危機を感じることは全くなかった。これは、農村部の農業開発や海外農業投資などの政府のさまざまなプログラムや取り組み、そして農家に対し地域で作付けを行い、政府のプログラムや支援を活用するよう奨励したおかげである。実際サウジアラビアは、卵、乳製品、野菜、果物において高い自給率を達成している。

2019年のデーツの総生産量は150万トンで自給率は125%、野菜の生産量は約160万トンに達し、自給率は60%だった。

ジャガイモの生産量は40万3,000トン近くに達し、自給率は92%に達している。環境・水・農業省によると、果物・柑橘類の生産量は65万トン(自給率35%)となり、26万6,000トン(自給率15%)だった2016年と比較して大幅な増加となった。

サウジアラビアは、2019年の食卓用卵の生産量が31万5,000トン(自給率116%)となり、2016年の102%と比較して高い自給率を達成した。生乳と加工品の生産量は240万トンとなり、自給率109%を達成した。

また、漁業部門も過去の実績を上回っている。2020年には生産量15万5,000トン近くに達し、自給率も55%を達成した(2016年は9万トン、15%)。

また直近の政府の食料安全保障の取り組みとして、2025年までに鶏肉自給率を80%に引き上げるために、養鶏産業を支援するプログラムを実施している。サウジアラビアの鶏肉生産における自給率は、すでに2016年の45%から2022年には68%に跳ね上がっている。今から2025年の間に政府が170億サウジ・リヤル(45.2億ドル)を投資し、ブロイラーの生産能力を年間推定130万トンに到達させることを目指している。これにより国の食料安全保障を支え、雇用を創出するのだ。

ロシアによるウクライナ侵攻は、サウジアラビアを含む多くの国に影響を及ぼしている。世界の食料価格は上昇しているが、サウジアラビアは食料作物の戦略的備蓄により、食料安全保障に対する脅威を乗り切っている。

食料安全保障は、どの国にとっても非常に重要であり、持続的な発展のために不可欠なものである。国連食料農業機関によると、現在、世界の小麦生産の大部分はたった数カ国が占めている。

世界の食料価格は上昇しているが、サウジアラビアは食料作物の備蓄を戦略的に行ったおかげで、食料安全保障に関連する脅威を切り抜けることができている。

トゥルキ・ファイサル・アル=ラシード博士

世界最大の小麦生産国である中国は、食料需要の増加に対応するため、生産した小麦の多くを国内消費に回し始めている。中国は世界最大の小麦消費国であり、2020・2021年には世界の小麦消費量の約19%を占めている。

小麦生産国第2位はインドだ。中国と同様、インドは国全体で大きな食料需要があるため、小麦のほとんどを国内消費に充てている。

世界第3位の小麦生産国であるロシアは、世界最大の小麦の輸出国でもある。2021年には73億ドル相当超の小麦を輸出し、同年の小麦輸出総額の約13.1%を占めた。ウクライナは小麦輸出量第10位だ。

戦闘状態にあるにもかかわらず、国連とトルコの支援と保証のもとでロシアとウクライナ間で穀物の輸出を再開する合意が成立したことは、アラブ諸国を含む多くの国々、そして世界中の何百万人もの貧しい人々にとって生命線となるものだ。これは、現在の世界的な食料危機を終わらせる上で、極めて重要な要素である。ロシアとウクライナは現在、穀物、油、肥料の世界的な生産システムの基幹を成している。この協定により、戦争により黒海の港に滞留していた2,200万トンの穀物や必要な農産物をウクライナが輸出できるようになったという事実だけでも大きな価値がある。

欧州諸国がロシアに明白な敵意を示し、ウクライナに武器を提供している中でもこの協定を歓迎する声明を出していることから、この協定の重要さがうかがえる。さらに言えば、協定の早期履行すらも要求しているのだ。

食料危機が緩和されつつあるとの楽観論が高まる中でアラブの人々が今関心を向けているのは、この危機から教訓を得て、今後アラブの食料安全保障を確立する重要性である。

私は、食料供給のメカニズムを研究し、特に危機に際してアラブの食料安全を保障するための措置を講じることを目的とした、上級専門家からなるアラブ委員会を正式に設立することを提案する。すべての関係者の協力なくして、アラブの食料安全保障はありえないことを、関係者は自覚しなければならない。

さらに、自由保有農地を所有する上場企業(本社はホスト国にある)に投資することを提案する。サウジアラビア公共投資基金によるエジプト・ミスル肥料生産会社(MOPCO)の株式購入は、ホスト国と投資国がWin-Winになる投資の好例である。

  • トゥルキ・ファイサル・アル=ラシード博士はアリゾナ大学農学生命科学部農業・生命システム工学科非常勤教授。『Agricultural Development Strategies: The Saudi Experience』の著者。
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