ヨルダンのアブドッラー国王は、火曜日にアンマンでイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とほぼ5年ぶりの会談を行った。アブドッラー国王がネタニヤフ首相を信頼していないことは周知の事実であり、これまでにも主としてアル・アクサー・モスク構内におけるイスラエル側の挑発行為をめぐって両者は舌戦を繰り返してきた。この会談は、アル・ハラム・アル・アッシャリーフを越えることは容認しないというアブドッラー国王の威嚇を受けたネタニヤフ首相からの雪解けと譲歩の可能性を示している。
ネタニヤフ新政権発足の数日前、アブドッラー国王はCNNにエルサレムの聖地の状況に変化があった場合の「紛争」に備えていると語り、キリスト教とイスラム教の聖地の守護者としてのアブドッラー国王の地位にイスラエル側が変更を加えようとしているのではないかと懸念していることを付け加えた。アブドッラー国王は、「越えてはならないレッドラインを越えようとするならば、ヨルダンは対応する」と、警告を発していた。
火曜日の会談は、先般の合意事項に引き続き責任を持つようにとの米国のネタニヤフ首相に対する圧力によって、行われた模様だ。
イスラエルの新極右政権が、平和条約締結以来30年近くにもなる隣国のヨルダン・ハシェミット王国に対して、最も慎重さを要する問題をめぐって挑発に及ぶのに時日は要さなかった。アル・アクサー・モスクの状勢である。史上もっとも右翼的なネタニヤフ新政権が12月末に発足した翌日、常に物議をかもすことで知られるイタマル・ベン・グヴィル国家安全保障相は、占領下の東エルサレムのアル・アクサー・モスクに挑発的な訪問を行い、自身の過激な心酔者たちに有言実行の士であることを示した。ベン・グヴィル国家安全保障相は、幾世紀も受け継がれてきた聖地に関する合意を変更し、ユダヤ人が公然と礼拝できるようにすると共に、イスラム教の聖域を分割するよう呼びかけた。
そして先週、イスラエル側は、テルアビブ駐在のヨルダン大使による同国のワクフ管理下にあるアル・アクサー・モスク構内への定期的訪問を阻止することで、先例を作り上げようとしたのだった。
正式な抗議後、ヨルダン大使はアル・アクサー・モスクに立ち入ることが出来た。しかし、面積144,000平方メートルのアル・ハラム・アル・アッシャリーフについてのヨルダンの主権に対する挑発は明確だった。ヨルダンは国連安全保障理事会の総会で、イスラエルが宗教的紛争を引き起こそうとしていると、この合意違反について報告した。その翌日、EUの領事と担当者35人がアル・アクサー・モスクを訪れ、ヨルダンとの連帯を示し、ヨルダン・ハシェミット王国が管理者の地位にあるとの認識を強調した。
これまでの数年間、ユダヤ人入植者の過激派によるアル・アクサー・モスクへの日常的な挑発行為は歴代のイスラエル政権により容認されている。イスラム教の聖地として長い歴史を持つアル・アクサー・モスクの現状を変更や破棄してしまうほどの挑発行為はこれまでのところない。しかし、2022年11月まで連立政権を率いた、「友好的」なナフタリ・ベネット前首相でさえ、「神殿の丘 (アル・アクサー・モスク) とエルサレムに関するすべての決定は、同市の主権を有するイスラエル政府によって、対外的配慮無く下されます」と、昨年5月にはっきりと断言している。
ヨルダンが平和条約を停止した場合、イスラエルと米国には深刻な危機が発生し得る。この危険性を完全に無効化することはできない。
オサマ・アル・シャリフ
ヨルダンの専門家のほとんどは、イスラエルがさらに歩みを進めて、アル・ハラム・アル・アッシャリーフに関して19世紀に定まった現状維持の合意を覆すことは時間の問題だと確信している。イスラエルの現政権下でそれが起き得るのか、次の政権下なのか、それだけの違いに過ぎないというわけである。昨年11月の選挙の結果、イスラエルがウルトラナショナリズムと超正統派の政党に左右されるようになった事実は、この見込みを裏付けている。
2015年に当時のジョン・ケリー米国国務長官は、アブドッラー国王とネタニヤフ首相の間で、既存の現状維持の合意を強化する取り決めを成立させた。米国、ヨーロッパ、ロシア、中国、アラブ連盟、その他多数の国が、ヨルダンの役割と聖地の現状維持への支持を、最近数日間から数週間で表明している。米国は、実際に、アル・アクサー・モスクにおけるヨルダンの役割についていかなる変更も受容しないという厳しいメッセージをネタニヤフ首相に送った。
しかし、信頼に値しないネタニヤフ首相が仮に現状維持路線を堅持したとしても、 ベン・グヴィル国家安全保障相や宗教シオニスト党の指導者のベザレル・スモトリッチ財務相といった尖鋭的な連立パートナーを抑えこむことは可能だろうか? 個人的な思惑と連立政権維持のために、ネタニヤフ首相は東エルサレム地区とヨルダン川西岸地区の将来について両者に既に著しい譲歩をしている。さらなる挑発行為が実行されることはほぼ確実である。では、ヨルダンはどのように対応するのだろうか? 管理者としてのヨルダンの立場は、1920年代から高貴な聖域を守護してきたハシェミット家の正統性に直接的に結びついている。父であった故フセイン国王と同じく、アブドッラー国王は守護者としての断ち切りようのない個人的な絆を、東エルサレム地区のキリスト教教会と共に、イスラム教の聖地アル・ハラム・アル・アッシャリーフに対して持っている。
平和条約が停止に至った場合、イスラエルと米国には深刻な危機が発生し得る。この危険性を完全に無効化することはできない。それがヨルダンの最終手段なのだ。ヨルダンは、当初、イスラエルに対する国際的反発が米国とヨーロッパの主導で発生することを期待していた可能性が非常に高い。ヨルダンは、また、イスラエルが現状に干渉した場合、アブラハム合意に参加したアラブ諸国の支援を求め、それらの国々がイスラエル首相への影響力を行使することを期待するであろう。
ヨルダンは、イスラエルとの決裂に先手を打とうと、アル・ハラム・アル・アッシャリーフにおけるヨルダンの役割を主張する外交キャンペーンを展開しようとしている。しかし、アル・アクサー・モスクの現状の変更に踏み切っても平和条約停止の危険をヨルダンは冒さないとイスラエル政権が信じているとしたらそれは間違いだ。
しかし、こうした危険にも関わらず、イスラエルの超正統派とウルトラナショナリストの極右勢力は、エルサレムのユダヤ化の戦いと同地のイスラム教徒とキリスト教徒の歴史遺産という証しを消し去る企てにおいて、アル・アクサー・モスクの奪取は必須と確信している。