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シリアに関するロシアとの取引によってウクライナ戦争終結を早められる可能性がある

ロシアによるウクライナ侵攻のさなか、戦車に乗って前線の町バフムトに向かうウクライナの軍人たち。(ロイター)
ロシアによるウクライナ侵攻のさなか、戦車に乗って前線の町バフムトに向かうウクライナの軍人たち。(ロイター)
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19 May 2023 12:05:56 GMT9

先週、ロシア軍が「信頼できる戦闘部隊の深刻な不足」によりバフムトで後退したとの報道があった。ロシア政府は急いでこのニュースを否定した。ロシア軍が後退するたびに欧米の人々は喜んでいるが、彼らは自分たちが何を望むかに慎重になるべきだ。欧米が最も望まないのは、ロシアが自暴自棄になって自暴自棄な手段を取ることだ。

ロシアは敗北を受け入れないだろう。それはウラジミール・プーチン大統領やクレムリンを超えて、ロシアの国家威信の問題なのだ。彼らはあらゆる手段で敗北を防ごうとするだろう。したがって、死傷者数と損害を可能な限り抑えつつこの戦争を終わらせるためには交渉を通した解決が必要だ。シリアはそのような解決の入り口になる可能性がある。欧米とロシアには同国の安定化という共通の目標があるからだ。しかし当然ながら、争点となるものが一つある。バッシャール・アサド大統領の存在である。

これまでのところ、欧米の対ロシア政策は同国を孤立させるというものだ。しかし、ロシアを孤立させることで戦争が終わる可能性は低い。ロシアは生き残るために巧妙な方法を見つけている。同盟相手として米国の競合国に目を向けているのだ。ロシアは現在、中国に近づいており、イランにも間違いなく接近している。サウジアラビアやトルコなどの米国の同盟国はロシアに関して中立を保っている。これらの国は、信頼できない気まぐれなパートナーを喜ばせるためにロシアとの関係を断つことに価値を見出していないのだ。

欧米諸国でロシアの資産が差し押さえられているにもかかわらず、ロシアは生き残ることができるようだ。ドイツは今年中にロシア産原油の輸入をほぼ全て停止することを予定しており、2024年半ばまでにロシア産天然ガスの輸入を停止するというより広範な計画も持っている。EUにも同様の計画がある。2027年までにロシア産化石燃料の輸入を停止しようとしているのだ。これらは全て、ロシアと関わり合うのではなく孤立させるための取り組みだ。それでも、ロシアは天然ガスを代わりに買ってくれる国を見つけるだろうし、東側で友好国を作るだろう。経済的苦難がロシアを降伏へと追いやることはない。

これまでのところ紛争解決の可能性はないように見える。ロシアと関わり合うのではなく孤立させることがトレンドだからだ。紛争解決のためには関わり合いが必要であり、関わり合いが上手くいくためには信頼構築が必要だ。現在、欧米とロシアの間には非常に大きな不信感がある。問題も複雑だ。ウクライナをめぐっては、クリミア、ドンバス、ジョージア、欧州におけるNATOの地位のほか、多くの複雑な要因が絡んでいるのだ。

より容易な道は、シリアに関してロシアとの関わり合いを開始することだろう。それは、国際社会とロシアの両方にとっての長期的目標がシリアの安定化であるという単純な理由による。アラブ諸国は現在、シリアにおけるイランやトルコの影響力を封じ込めるためにアサド大統領との関わり合いを段階的に行っている。一般に考えられているのとは逆に、それがロシアの影響力の低減につながるのであれば米国はこのプロセスを容認するだろう。

しかし、アサド大統領はいかなる変化を起こすことにも乗り気ではなく、その能力もない。同国南西部の麻薬密売人を一人捕まえる筋力さえない。ヨルダン空軍が彼の代わりにその仕事をしなければならなかった。アサド大統領には約束を反故にした前科もある。彼には今さら自身の行動を変える理由はない。したがって、地域の諸大国と関わり合う必要があるのだ。そして、ロシアはシリアの安定化のために登場する必要がある主要プレイヤーである。

シリアは紛争解決の入り口になる可能性がある。欧米とロシアには同国の安定化という共通の目標があるからだ。

ダニア・コレイラト・ハティブ博士

アサド大統領はロシアの同盟者だが、彼がシリアを安定化できないことをロシアは知っている。ロシアはいくつかの問題に関してアサド大統領と衝突してきた。例えば、アレッポをめぐる戦闘の際、ロシアはチェチェン軍警察を送り込んだ。地元住民が感情を害したり攻撃を受けたと感じたりしないよう、スンニ派部隊が派遣された。これらの部隊の任務はアレッポを安定化させることと、家屋が没収されないようにすることだった。しかし、アサド大統領とイランの民兵組織はロシア軍に対する作戦を継続した。最終的にロシア軍は撤退した。アサド大統領やイラン人らと対決したくなかったからだ。

そして2018年、難民の帰還を促すために、ロシアはアサド大統領に対し、徴兵に応じなかった人々に恩赦を与えるよう圧力をかけた。アサド大統領は難民の帰還を防ぐために、18歳になったのに徴兵に応じなかった男性全員に懲役と罰金を科す法律を作っていた。この法律のせいで、国外にいる間に18歳になった男子がいる難民家族は帰国できなかったのだ。恩赦は与えたものの、アサド大統領は難民の帰還を妨げるための巧妙な方法を見つけ出した。帰還者を恣意的な容疑や偽の容疑で逮捕したのだ。そのため人々は帰還を思いとどまった。

アサド大統領が妨害者の役割を果たしたもう一つの例はダルアーの件だ。シリア体制と反体制勢力の和解に向けたロシアの努力が地域の安定化に至らなかったため、彼はダルアーに関する全ての約束を反故にしたのだ。

それでもロシアにとって、シリアにおける利益を守ってくれる存在はアサド大統領以外にはいない。彼がいなくなれば、ロシアは自国の利益を守るために投資してきたもの全てを失うだろう。具体的にはタルトゥースとフメイミムの基地のことだ。だから、欧米がロシアと取引をまとめ、同国を対等な存在として扱えば、信頼構築に向けた最初の一歩となり得る。

欧米の心構えはロシアに対していかなる譲歩を行うことにも反対するというもので、ゼロサム的メンタリティによって駆動されているが、柔軟性が必要だ。そうでなければ、ウクライナはロシアと長い紛争を戦うことになるだろう。さらに悪ければ、より壊滅的な戦争へと発展し、ロシアが極限的な手段を使うことになる。そのため、関わり合うことが重要であり、シリアは比較的容易な入り口になる可能性がある。また、シリアに関する取引を行えばプーチン大統領の面子を保つことができるだろう。ロシアの戦略的利益を守るような取引を行えば、プーチン大統領は国民に対して「欧米とやっと話が付いた。ロシアに恥をかかせるわけにはいかないことを欧米が理解したのだ」と言いつつ、さらなる取引を行う気になるかもしれない。

欧米は早くロシアと関わり合ってシリアを安定化すべきだ。それが他の諸問題の解決を効率化するための良い入り口だからだ。しかしその第一歩は、欧米がロシアを相手にする際のゼロサム的な考え方を捨てることだろう。

  • ダニア・コレイラト・ハティブ博士はロビー活動を中心とした米国・アラブ関係の専門家であり、トラック2外交に特化したレバノンのNGO「協力・平和構築研究センター」の代表である。
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