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イランとの新たな合意に関してバイデン大統領が迫られる厳しい選択

米国のジョー・バイデン大統領。(ロイター)
米国のジョー・バイデン大統領。(ロイター)
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14 Jun 2023 09:06:30 GMT9
14 Jun 2023 09:06:30 GMT9

イランは今週、先月オマーンにおいて米国との間で自国の核開発計画に関する間接協議を行ったことを認めた。当初は両国ともに否定していたにもかかわらずだ。欧米メディアによるいくつかの報道によると、米国のブレット・マクガーク中東政策調整官とイランの核問題担当首席交渉官のアリ・バゲリ・カニ氏は5月上旬、同時にオマーンの首都マスカットを訪れており、オマーン政府関係者が仲介者となったという。しかし、米国もイランも暫定合意の締結が協議の中心的な議題となることを拒否し、イラン当局は「包括的共同行動計画(JCPOA)」として知られる2015年の核合意の復活を要求した。2018年にトランプ政権が離脱したこの合意は、2015年7月に国連安全保障理事会決議第2231号によって承認されたものだ。

米国の報道によると、米国はイランに対し、ウラン濃縮度が核兵器への使用に必要な90%に達すればイランは厳しい対応に直面することになるというメッセージを伝えたという。国際原子力機関(IAEA)によると、イランは60%の純度まで濃縮されたウランを少なくとも114kg保有している。イスラエルも、イランが90%の濃縮度に近づくことを決して容認しないと警告している。

米国のアントニー・ブリンケン国務長官による先週のサウジアラビア訪問(イランの核開発がもたらす脅威が話題の中心になったことは間違いない)、そして交渉の進展の可能性に関する報告のリークを受け、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はブリンケン国務長官に対し、イスラエルはイランとのいかなる合意にも拘束されないこと、また自国の国家安全を守るために必要な措置を取るつもりであることを伝えた。

一方、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師は今週、核開発をめぐる欧米との合意の再建は可能だが、同国の原子力関連施設が現状のまま維持されることが条件だと述べた。米国が2015年の合意から離脱して制裁を科して以来、イランは高度な遠心分離機を設置し、ウラン濃縮度を60%以上まで高めた。また、IAEAの監視団による一部の施設の査察も妨げており、新たな施設の建設や既存施設の拡張を行っているとされる。

バイデン政権や西側のパートナー国による、新たな合意の締結に向けイランを関与させようとするこれまでの試みは失敗に終わっている。イランは2015年合意の復活を要求しているが、欧米は合意を他の問題に結びつけようとしている。イランの物議を醸している弾道ミサイル開発計画、イスラム革命防衛隊の地域における活動の抑制、IAEAがイランの核施設に対して十分な調査を実施できるようにすることなどだ。

一時期、バイデン政権はイランとのさらなる協議を進めることへの関心を失ったように見えた。しかし、数多くの要因によって再び関与することを余儀なくされている。ロシアによるウクライナでの戦争をきっかけに、ロシアとイランはかつてなく接近している。イランはロシアに高度なドローンを提供したり、ロシアのドローン工場建設を支援したりしているとされる。それと引き換えに、イランは早ければ今月にもロシアからの最新鋭のSu-35戦闘機の第一陣を手に入れる可能性がある。さらにイランは先週、防衛システム「アイアンドーム」をかいくぐってイスラエルを400秒以内に攻撃できると主張する極超音速ミサイルを公開した。そのような高度な兵器を開発するための技術を提供できるのはロシアか北朝鮮だけだ。

イランは2015年合意の復活を要求しているが、欧米は合意を他の問題に結びつけようとしている。

オサマ・アル・シャリフ

また、最近中国の仲介のもとサウジアラビアとイランの間で結ばれた国交正常化合意は米国の不意を突いた。サウジアラビアと米国の関係はジョー・バイデン大統領の就任以来、いくつかの厳しい時期を経てきた。その一方でサウジアラビアは独自の外交プローチを採用し、中国とロシアの両方との関係強化を実現した。地域における自国の影響力低下を感じた米国は方針を180度転換した。サウジアラビアとの関係回復を求めて国務長官を派遣したのだ。

サウジ・イラン関係の雪解けは湾岸地域やそれ以外の地域に波及している。イラン海軍のシャフラム・イラニ司令官は今月、同国はUAE、カタール、バーレーン、イラク、パキスタン、インドと共に共同海事同盟を結成することを検討していると発表し、サウジアラビアも「この方向に向かうこと」に関心を持っていることを明らかにした。この発表の数日前には、UAEが米国主導の合同海上部隊からの離脱を決定している。

イランとの協議に対する米国の姿勢の変化が明確に示しているのは、同国が抱く地政学的懸念、そして核合意の停止が多くの面でイランの思うつぼだったのではないかという恐れだ。イランに対して武力に訴えるという米国の脅しは、もはや地域の展開と調和していない。イスラエルを除く米国の主要な地域同盟国は今やイランと積極的に対話している。エジプトのようにイランとの国交回復を目前に控えている国もある。

これらの同盟国は現在、イラン核開発問題の外交的解決を支持している。湾岸協力理事会(GCC)は今週声明を出し、イランに対しIAEAへの協力を約束するよう求めるとともに、湾岸諸国に対してはGCCの安全保障上の懸念に応えるために行われる可能性のある交渉への参加を要請した。

興味深いことに、米国はイラクが約30億ドルの未払金をイランに払うことを容認しているように見える。これは、イランの要求の一部が満たされている兆候だ。またイラン政府関係者によると、数日中に同国と米国の間で囚人交換が行われる予定となっている。

合意が成立すれば、それが暫定的であろうとなかろうと、地域と世界にとって好ましいことだ。しかし、バイデン大統領と民主党にとってはこれからの選挙戦において助けにならないかもしれない。彼らは共和党候補者らやイスラエルの現政権から激しい非難を浴びることになるだろう。今週、超党派の議員35人が書簡を公開し、2015年のイラン核合意の当事国である欧州諸国に対し、合意不履行をめぐるイランへの制裁を「再開」するよう求めた。

実際、どのような合意に至ったとしても、ドナルド・トランプ前大統領や他の有力な共和党候補にバイデン大統領の再選キャンペーンをぶち壊すための攻撃材料を与えることになるのはほぼ確実だろう。そのため、ホワイトハウスにとって次の一手を決めることは非常に難しい。何もしなければ、イスラエルとイランが結果が予測できない公然の戦争に突入するリスクが伴う。合意を成立させればバイデン大統領の再選の可能性を損なうことになるし、いずれにしろトランプ前大統領あるいは共和党の強硬派がホワイトハウスに戻ってきてその新たな合意を短命にしてしまうかもしれない。

  • オサマ・アル・シャリフ氏はアンマンを拠点とするジャーナリストで政治評論家。

    ツイッター:@plato010
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