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シリア、米露の敵対関係における重要な戦場に

シリア北東の町コバニへ向かって走るロシア軍の車隊。(AFP/資料写真)
シリア北東の町コバニへ向かって走るロシア軍の車隊。(AFP/資料写真)
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14 Aug 2023 09:08:47 GMT9
14 Aug 2023 09:08:47 GMT9

米国政府内では影響力を強める戦略的コンセンサスが形成されつつあり、それによるとロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、シリア国内の米国への圧力を強め、強制的な米軍の国外追放を目指しているという。そして米国の軍事専門家の中には、ロシアとの対立に臆病になりすぎているとしてバイデン政権を非難する者もいる。

プーチン氏はシリアにおける目的を果たすため、2015年から配備されている米軍への緊張感を高めている。バイデン政権はシリアにおける戦略目標をはっきりと明確化させなければならない。

ジョー・バイデン大統領はプーチン氏への連絡手段を構築し、シリア国内の米国人に対するロシアによる命の脅迫について、米国の怒りを伝えなければならない。

シリアでの方針に関する限り、EUはロシアと米国の調停ができる。ロシア、イラン、シリアが協力して米軍を国外追放させる試みを妨害するためには、これが唯一の方法だ。実際には、シリアにおけるテロ組織との戦闘において、米国とロシアはほぼ協力・協調をしていない。米政府の戦略的ジレンマは単純な政治的事実に起因しており、これまでバイデン氏はプーチン氏に対して、ロシアによる米軍人への挑発行為をやめるよう伝え損ねてきた。

米国平和研究所MENAセンター副センター長のモナ・ヤクビアン氏は、プーチン氏のウクライナへの苛立ちが非難されるべきだと信じている。「ロシアによるシリア国内の米国への挑発が大きな引き金となっている緊張感の明らかな高まりを、少なくとも今年の3月以来はっきりと確認しています」とヤクビアン氏は言う。「こうした緊張感の高まりはウクライナでの戦争に直接由来しています。思うにロシアは、ウクライナの紛争地帯自体から少し離れた場所で、米国を刺激して尻込みさせることに関心を向けています」

プーチン氏への抗議に失敗したとバイデン氏を非難する者は、米大統領がシリアへの戦略的関心をほとんど示していないと言う。ジョージ・W・ブッシュ政権時に国防次官補を務めたメアリー・ベス・ロング氏によると「本当のことを言うと、操縦士やNATOの面々に出す指令としては、基本的に注意深くせよということと、ロシアからの挑発をさせないためにできることは何でもせよということです。ロシアは事態をエスカレートさせる口実作りのために事件を起こしたいのです」そのため、私たちが認めはしないものの実際に行なっていることは、飛行士や船員を高い危険にさらしていることです。基本的に彼らはこうした事態を受け入れなければならないのです。これは安全性に関する問題で、感情的な問題です。彼らには辛いことでしょう」

3月から7月の間には、シリア領空において米国とロシアの軍用機との間でニアミスが数回起きている。6月にはロシアの軍用機が米戦闘機の飛行経路を意図的に横切った。

先月遅く、露戦闘機が発射したフレアが米MQ-9リーパーに損傷を与えた。

シリアは現在起きている米露間での世界的・地域的争いのゲームチェンジャーになれる。

マリア・マアルーフ

現在、米露の戦略的バランスでは露政府が優勢である。シリアにおける米軍兵士数は約900人と少ない。ロシアはシリア国内に少なくとも6千人の兵士を有している。

旧ソ連邦構成共和国のアルメニアはロシアの軍事的努力を支援している。ロシアはシリアの広大な地域を支配しており、バッシャール・アサド政権と共同統治している。米国はダーイシュから獲得した領地から軍事行動を行なっている。

また、ロシアとイランによるシリアの米軍に対する攻撃に関して、バイデン大統領が最高顧問と協議すべき6つの戦略的問題がある。 第一に、シリアにおける米軍への攻撃増加に対してトルコは何をするだろうか。ロシアとイランによるこれらの動きについて、バイデン氏はレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と話し合わなければならない。第二に、シリアにおける反米行動の段階的拡大に対して、クルド人民兵隊はどんな役目を果たしてきただろうか。第三に、シリアに配備された米軍に対するロシアとイランによる軍事行動が、ダーイシュ打倒の労力を減らす原因となったのだろうか。

第四に、プーチン氏はシリアにおけるイラン軍と米軍との小さな直接的軍事衝突を考慮するだろうか。プーチン氏はそうした戦闘に携わらないようイランに圧力をかけることが可能だ。第五に、アサド政権を強化するための多様なキャンペーンにおいて、ロシアとイランはいかにしてアサド体制を経済支援しているのか。最後に、イランとロシアは米国追放のための共闘を通じて、いかにしてシリアにますます影響を及ぼし、レバノンに影響や衝撃を与えていくのだろうか。そうした軍事的戦略はヒズボラの勢力をますます増大させるのだろうか。

米国とロシアがシリアに関して戦争を始める可能性は少ない。バイデン氏には選択肢がいくつかある。バイデン氏は、シリアからほとんどの米軍を引き上げた前任者ドナルド・トランプ氏の戦略的制限による制約を受けている。米国は、オバマ政権が行った多くの反アサド組織の武装ができない。ロシアとイランが米軍に対する恒常的脅威としてシリアを利用しているかどうかは、大きな政治的・軍事的疑問であり難題であり、今後数週間のうちに検証されることになるだろう。シリアは現在起きている米露間での世界的・地域的争いのゲームチェンジャーになれる。

一方のプーチン氏は、イランとイラン民兵隊からの支援に頼って米国の駐留に異議を唱えることが可能だ。また、今後の衝突が空中戦に限られるのかどうか、もしくはその他の戦場へと危険な発展を遂げるのかはわかっていない。また米情報機関は、米国および連合国への破壊工作や攻撃的行動の可能性に対する防御のため、ワグネル・グループの活動にも目を光らせなければならない。

結局は、米国によるシリア情勢への積極的な関与を困難で厄介なものするのは、プーチン氏による決断と采配なのである。別の結論ではシリアの状況は流動的であるとしている。米国はシリアにおける自国軍に対する侵攻に抵抗できる。シリアにおける米国、ロシア、イラン軍の未来を、確信を持って予測することは極めて難しい。バイデン氏はシリアで脆弱であり、プーチン氏も同様だ。シリアはバイデン、プーチン両氏の権限・能力・統率力の度合いを決めるだろう。

  • マリア・マアルーフ氏はレバノンのジャーナリスト、キャスター、出版者、作家。ツイッター:@bilarakib
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