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立方体状の陰謀はサウジの改革を止められない

世界最大の都心ビルとして描かれているムカーブ。(提供写真)
世界最大の都心ビルとして描かれているムカーブ。(提供写真)
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21 Feb 2023 04:02:29 GMT9
21 Feb 2023 04:02:29 GMT9

2006年7月、アラビア語で書かれた非常に恨めしいが、当時「電子ムンタダヤート」(アラビア語で「ウェブフォーラム」という意味、現在のソーシャルメディアの祖先)と呼ばれていたサイトでシェアされた。 その内容は次のようなものだ。何者かがニューヨークにもう一つのカアバを建てることで意図的にイスラム教を嘲ろうとしている。その立方体状の建物は神を恐れる礼拝者のためのものではなく、(質の低い翻訳によると)ニューヨークを訪れた人にとっての「メッカ」となるであろう24時間年中無休のナイトクラブである。

そう、このの真相を探ることが、本紙の姉妹紙アッシャルクル・アウサトの若手記者だった私に与えられた任務だった。この建物はナイトクラブでもカアバのレプリカでもないということがすぐに分かった。そうではなく、ニューヨーク5番街のこの建物は、象徴的な立方体の形をしたアップルのフラッグシップストアだったのだ。

後に分かったことだが、このアップルストアのエントランスはガラス製である。しかし初期の写真では立方体状のエントランスのガラス面が黒色の被覆材で覆われており、実際のカアバに色が似ていたため、結果として完全なデマがあっという間に広まってしまった。

左:建設中のニューヨークのアップルストアの前にあるガラス製の立方体は黒色の被覆材で覆われている。右:完成した32フィートの立方体が夜にライトアップされている。

言うまでもなく、当時(9.11から数年しか経っていなかった)は人々の感情が高まっており、毎日のように宗教的過激主義者が欧米に対する恐ろしいファトワを発していた。こういった類のフェイクニュースがそのような意図に合わせて利用されたり、欧米に対する憎悪を煽るのに使われたりすることもしばしばだった。

それから17年経った今、テクノロジーや情報へのアクセス能力が飛躍的に進歩した一方で、そういった扇動や過激主義的見解が根強く残っていることに驚かされる。実際、サウジ公的投資基金が先日発表したリヤドの新しいダウンタウン地区に対するソーシャルメディア上の反応を見た人は、類似点に気付いたことだろう。

特に人々を驚かせツイッターを炎上させたのは、この新開発の中心に位置する「ムカーブ」という巨大な立方体状の建造物だ。一部の過激主義者や陰謀論者に言わせれば、サウジの首都の中心に建設されるこの立方体はカアバに似すぎている。さらに言えば、娯楽、食事、商業といった目的のためにはるかに大きな立方体の建物を作ることで、近くのメッカにあるイスラムで最も神聖な聖地を見劣りさせるという密かな意図がある。

さて、そういった主張がいかに馬鹿げているかを詳しく説明する必要は全くない。第一に、イスラム教は立方体状の物体の独占権を持っているわけではない。実際、「スタートレック」のクリエイターたちがボーグ・キューブをデザインした時にメッカのことを考えてなかったのは確かだと思う。ハンガリーの発明家ルビク・エルネー氏が有名な3Dパズルを作った時も然り。第二に、そしてさらに重要なことに、このランドマークをデザインする際にそういった意図がインスピレーションになったと考えること自体が極端に滑稽なことだ。

サウジアラビア(その国王の正式な称号は「二聖モスクの守護者」だ)は、この偉大な宗教に対する奉仕への尽力に関して、ソーシャルメディア上の煽りから証言も承認も得る必要はない。何百万人もの巡礼者にサービスを提供し、モスクを建設・改修し、イスラム諸国に数十億の人道援助を出しているこの国の多大な努力を見れば分かることだ。

一方で、アップルストアとムカーブという2つの話を比べてみると興味深いひねりがある。ムカーブという「不愉快な」計画の舞台は、今度は「異教徒の」米国ではなく、イスラム教の揺籃の地であるサウジアラビアなのだ。

ムカーブに対する言いがかりの狙いはもちろん、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下が実現させている大規模で素晴らしい改革の評判を傷つけ、疑問を投げかけることだ。真実は、サウジアラビア内外の過激主義者が、女性が車を運転できるという事実、女性が以前の後見人法から解放されたという事実、女性が今や大使、弁護士、医者として活躍しているという事実を受け入れる気がないということだ。こういった過激主義者は、女性が抑圧され、教育も雇用も禁じられ、ほとんどの時間は家にいなければならない二級市民としてのみ存在する、タリバン的なサウジアラビアを望んでいるのだ。

イスラムへの最大の脅威は立方体状の閉じた建物ではない。より大きな脅威は閉ざされた心なのだ

ファイサル・J・アッバス

過激主義者は音楽やコンサートもいらないと言う。彼らは、預言者ムハンマド(彼に平安あれ)自身がメッカからマディーナへのヒジュラを行った時に歌と太鼓で迎えられたことを忘れているようだ。過激主義者は、新プロジェクトに「ダウンタウン」といった外国語の名前を付けることさえ望ましくないという。名前を口実に「忍び寄る西洋化」を罵ろうとしているのだ。

同じくらい狭量なことに、過激主義者は「西洋の概念」の多くがアラビア語に由来を持っていることを忘れているようだ。「アルゴリズム」という言葉を例にとってみよう。この言葉は実は「アル・フワーリズミー」の名前に由来しているのだ。彼は科学者で、数学、天文学、地理学において影響力のある仕事を残した。アッバース朝のバグダッドにあった名高い「知恵の館」で天文学者および図書館長を務めた人物だ。西洋が科学者にアラブの研究やアラブの知識から学び恩恵を得ることを禁じるほどに愚かだったとしたら、この世界がどのようなものになっていたか想像できるだろうか。もしアルゴリズムがなければ、狭量な人々が心底大事にしているソーシャルメディアを使うことはできなかったことは確かだ。

サウジアラビアがなすべきことは、漸進的な変化と野心的な開発プロジェクトによって改革を継続することだ。結局、イスラムへの最大の脅威は閉じられた立方体状の建物ではない。それよりはるかに危険な脅威は、イスラムが黄金時代を実現できたのは、あらゆる文化を包摂し、研究、哲学、建築(いずれもイスラムが活用し、西洋へと伝えたものだ)を奨励したからだという事実を認めようとしない閉じられた精神だ。

  • ファイサル・J・アッバスはアラブニュースの編集。ツイッター: @FaisalJAbbas
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