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インタビュー:日本はビジョン2030に向けて明るい見通しを示す—野村の幹部タレク・ファドラッラー氏

ルイス・グラニェナによる挿絵 タレク・ファドラッラー氏/野村インタビュー
ルイス・グラニェナによる挿絵 タレク・ファドラッラー氏/野村インタビュー
08 Sep 2019 03:09:07 GMT9

レバノンに生まれ、イギリスで教育を受け、中東で日本の銀行に勤務する—タレク・ファドラッラー氏の人生とキャリアは、グローバリゼーションに関する書籍の章を抜き出してきたかのようである。

野村アセットマネジメントの中東拠点で最高経営責任者を務める同氏は、「私は幸運続きでした」と言う。同拠点は日本最大規模の金融機関の同地域向け投資部門である。「日本はとても魅力的な場所に感じました。その日本最大の投資銀行で働けるなど、当時純真な若者だった私には良すぎる話でした。私はこのキャリアを通して、金融やより一般的に人生に関して、それまでなかった見方ができるようになりました」

大学卒業後、研修生として野村に加わったファドラッラー氏は、キャリアの大部分を野村で過ごした。その中で同氏は、日本と中東の間には、直ちに明らかとは限らない類似点があり、また違いもあったと言う。

「どちらの文化にも、家族観、伝統、そして忠誠を中心とする同様の哲学が根付いています。しかし明らかに、大きな違いもあります。何世紀も商人が行き来した中東では、昔から他の文化や異邦人に開かれた状態が続いていましたが、日本は島国で閉鎖的だったので、その歴史のほとんどを日本人たちは内向的に過ごしてきたのです。それによって、日本では、国際問題やビジネスに関して、注意深いアプローチが取られるようになりました。

「もちろんそれに似たことは中東でもあります。私が気づいた中では、日本でも中東でもビジネスマンはどちらも経営に関して注意深いアプローチを取ります。時には、問題が生じても、対処が不可避になるまで先延ばしすることさえあります。この慣習は困難な局面を引き起こしてきました」と同氏は言う。

日本と中東のビジネス上の関係の中心にあるのは、アジアの経済大国たる日本が自国では産出しない天然資源、特に石油と天然ガスを必要としているという事実である。日本が輸入する石油のかなりの部分はアラビア湾地域からのものであり、そのほとんどがサウジアラビア産である。しかし、両地域間の関係は石油と電化製品の取引という単純なものと考える向きもあるが、それは間違いである。

「中東は資源が豊富ですが、日本な資源に恵まれていません。そのため常に、中東と日本の間では、相乗効果を生み出せる大きな潜在性が存在してきました。しかし、貿易関係というのは、石油とテレビを交換するだけという簡単な話ではありません—中東は、少なくとも1998年の日本で銀行破綻が相次いだ時期から、日本の債券にかなりの投資をしているのです。そして、トヨタの全世界での生産台数の5%は中東向けです。様々な資源と資本分野において、相乗関係となっている部分が多いのです」とファドラッラー氏は言う。

経済学者の中には、世界経済は「日本化」の時代—つまり同国が20年以上にわたり経験したような経済停滞、物価のデフレ、および低金利の時代に滑り落ちつつあるかもしれないと警告する意見もある。ヨーロッパやアメリカでさえ、類似の経済の貧血状態にいつ突入してもおかしくないかもしれないと恐れる声も上がっている。

そうだとすれば、日本—そしてその他の多くの中東の経済圏—は、他にはないアドバンテージを持ってそうした時代に突入できることになる。日本や中東は、自国の経済における負債額を少ない水準で維持し、—歴史的に見ても高値となっているエネルギー資源の価格のおかげで—多くの湾岸諸国の経済には準備金が豊富にあるのだ。

「世界的に見た負債の増加は、過去30年における日本企業による負債の返済とは全く異なる様相を呈しています。今では、世界経済には不均衡が生じており、そうした不均衡は金融政策によって増幅されています。こうした政策が最終的にどのような影響をもたらすかは不明で、潜在的には壊滅的な状態を招く可能性もあります。日本はおそらく、ほとんどの他国と比較して、経済の下落をより良く見通せる位置にいるでしょう」とファドラッラー氏は言う。

サウジアラビアではビジョン2030戦略のもと、石油への依存からの脱却計画が展開されている。日本視点では、この大きな変革は見通しが明るいものである。

「サウジアラビアの投資家は、まず第一に、データの分析をもとに動きます。2018年には経済は好ましくありませんでしたが、そこから徐々に回復中であることが示されています。クレジットカードでの支払い額の上昇や住宅ローン額の急上昇、それに民間による設備投資の増加からもわかるように、消費者支出も上がっています。これは特に励みとなる動きです。

「しかし経済を多様化することは極めて難しく、経済の中で直接的または間接的に石油関連の支出に高く依存している大きな部分を、幾つも全面改修する必要が生じます。補助金が打ち切られ、短期的には痛みを味わう人々も出てくるでしょう。

「しかし、進むべき道に関する全体的な戦略や方向性に関しては、疑問の余地はありません。それは正しいものであり、また必要なものでもあるからです。しかし、世界のどこであっても、言うは易く行うは難しと言います。特に世界経済が減速する中で、外部からの向かい風は明らかに阻害要因となります。外国の投資家は、アラムコだけではなく全体を通した民営化計画が、より迅速により効果的に実行されることを望んでいるのです」とファドラッラー氏は付け加える。

サウジアラビアの石油大手であるアラムコが、サウジアラビア王国外で初となるIPOの舞台となる主要な外国の証券取引所として、東京を選択するのではないかという推測が最近なされるようになった。ファドラッラー氏は、その見通しについてコメントするには時期尚早としつつも、「最近の発表から、あらためて決意を持ってIPOを目指しているということがわかりました。上場の可能性が発表されて以来、多くの外国の投資家は、アラムコの民営化プロセスはサウジアラビア王国の経済再建において中心的役割を果たすものだとの見方をしています」と語った。

野村は銀行として完全な認可を受けてリヤドで営業しており、ファドラッラー氏は同地に頻繁に出張している。しかし同氏の拠点はアラブ首長国連邦のドバイ国際金融センターであり、同氏はアラブ首長国連邦の最近の経済の動向に関しても現地からならではの視点を有している。

「去年のアラブ首長国連邦の経済は期待外れでした。そして今年も、わずかに成長が持ち直したに過ぎないというのがコンセンサスです。しかし、今年末まで金利が低く抑えられることが、不動産と小売という重要分野にとっては安心材料となっています。

「住宅価格とビジネス向け賃貸価格の下落でドバイは競争力を得ましたが、不動産の分野を安定させることは、競争力を得るのと同じくらい、経済にとっては極めて重要なことです。建築許可に必要なコストを減らして固定資産税の上昇を下降に転じさせる、そして数年前に厳格化された住宅ローンの規制条件を緩和することができれば、とても良いのではないかと思います」と同氏は言う。

つい先週、不動産という極めて重要な分野を統括するトップレベルの戦略委員会の設置を、ドバイは発表したばかりだ。

ファドラッラー氏は、アラブ首長国連邦の未来は明るいと考えており、最近配車サービス企業のCareemがUberによって31億ドルで買収されたのも、アラブ首長国連邦における起業ビジネス文化の好例だと指摘した。

「アラブ首長国連邦は、長期的に明るい未来の設計を続けています。原油価格の下落の影響は避けられませんが、多様化の努力によってすでに、自国を石油関連以外の分野においてもハブとして位置付けることに成功しています。そこから、汎地域的なビジネスが多く誕生しています」と彼は言う。

こうした明るい見通しがあるのと同時に、その背後で世界経済に不安な点があるのも事実だ。「私は30年以上にわたって世界の金融市場を間近で見てきましたが、常に知らないことを学ぶ毎日であり、今もこれまで見てきたのとは全く違う環境が広がっています」と彼は言う。

「リーマンショックから11年後、大手の中央銀行が、『緊急』対策であったはずの施策を延長して金融政策の正常化を図るという、足元がぐらつく戦略に逆戻りしてしまっていることに、私はとても驚いています。これが良い兆候であるはずなどないのですが、アメリカの株式市場はもうすぐ史上最高額です」とファドラッラー氏は警告する。

米中貿易戦争も、同氏の心配のタネのうち大きなものであると言う。「トランプ大統領は満足かもしれませんが、私は少し混乱しています。トランプ大統領は株式市場に固執しており、また次の選挙をにらんだ動きにも出ています。これらに鑑み、トランプ大統領が不利な内容であろうと中国と近いうちに合意に達し、それを勝ちであったかのようにすり替える作戦に出るかもしれません。しかしそうなったら、もう手遅れです。

「多国間主義から国家主義に傾いている現状は、国際的な経済発展にとっては悪い予兆であり、世界の貿易、繁栄、そして平和などの恩恵が反グローバリゼーションによって消えてしまうことを、私は最も恐れています」と同氏は言う。

欧州連合からの離脱計画をめぐるイギリスの混沌とした状況も、心配のタネである。「ブレクジットに関する不透明さによって、イギリス経済への外国からの投資が減少している状態です。日本はイギリスにすでに大規模な製造拠点を置いています。例えばサンダーランドの日産の拠点などです。日本企業は、イギリスが単一市場に残る方が好ましいとの見方を示してきました。この問題が解決されるまで、新たに大規模な投資の話が出てくる可能性はほぼないでしょう」と同氏は言う。

中東の投資家にとって、イギリスの状況にかすかに希望の光があるのも事実だ。「中東の投資家が主に関心を向けているのは、国民投票後に低迷した不動産の分野です。投資先としての評価がなされる段階になりましたが、ポンド安の状況で安くで不動産を買い占められる機会があるのは、かなり魅力的な状況になりつつあります」と同氏は付け加えた。

最後に、日本は経済停滞の期間を切り抜ける方法を中東に伝授できる立場にあると言う。「私は日本の長期の不景気の期間、企業がもがき苦しむのを目の当たりにしてきました。その経験を、これから変革していく経済に適応しようとしている中東全域の企業に共有していきたいと強く望んでいます」

しかしファドラッラー氏はこうも警告する。「残念なことに、真摯なアドバイスは歓迎されるとも限りません。特に既得権益に逆らうことになる場合です。そうした場合には、アドバイスをしているのに批判していると誤解されてしまうことがあります。中東は大きな困難に直面しています。こうした課題を克服するには、私たちはビッグでなければなりません」

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