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サウジアラビアのバイオテクノロジーにおける先導的地位を強固にする新たな取り組み

(Shutterstock)
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28 Jan 2024 11:01:43 GMT9
28 Jan 2024 11:01:43 GMT9
  • サウジアラビア皇太子によって発表された国家バイオテクノロジー戦略はビジョン2030の目標と軌を一にする
  • サウジアラビアの国家バイオテクノロジー戦略の目標には、ワクチン製造の現地化や国民の健康改善が含まれている

ジュマナ・アル・タミミ

ドバイ:サウジアラビアは、医薬品やワクチンの最大の地域市場であるばかりではなく、バイオテクノロジーに関連した分野への戦略的な投資者でもある。サウジアラビアの遺伝的多様性とその地理的特徴である気候は、複雑な調査や研究の実施に理想的な条件を満たしている。

また、サウジアラビアは、競争力のあるデジタルインフラストラクチャーを構築済みであり、また、バイオテクノロジーの研究や開発、イノベーションに携わる国内人材の開発と訓練に真摯に取り組んでいることも周知の事実である。

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が2024年1月第4週に発表した新たな国家バイオテクノロジー戦略は、バイオマニュファクチャリングや食品、ゲノミクス、ワクチン産業、プラント最適化といった分野への最新の取り組みから成っている。

ワクチン製造の現地化とサウジアラビア国民の健康改善は、この国家戦略の重要目標の一翼である。しかし、そうした項目は手始めに過ぎない。

サウジ通信社によると、この取り組みは、環境保護と食料・水の安全保障を達成し、バイオテクノロジー分野の国際的先導者としてのサウジアラビアの立ち位置を強固にすることを目指しているという。

ドバイを拠点とする市場戦略調査企業ユーロモニター・インターナショナルの上級コンサルタントであるラビエ・ヤスミン氏は、この発表を歓迎し、アラブニュースに、「サウジアラビアは、もう6年後に完遂の迫ったビジョン2030計画の一環として経済を多角化し得る新たな分野を模索し続けていますが、バイオテクノロジーはサウジアラビアを支える様々な枠組みに計り知れない貢献をする可能性を秘めています」と語った。

ワクチン製造の現地化とサウジアラビア国民の健康改善は、国家バイオテクノロジー戦略の重要目標の一翼を成す。(シャッターストック)

「バイオテクノロジーとは、多様な疾病への対応能力や治療の可能性を高めるだけでなく、人間の生活の質と寿命を本質的に改善し得るものです」

最も根本的なレベルにおいて、バイオテクノロジーとは細胞や生体分子のプロセスを利用して技術開発や製造を行う事を意味し、6,000年以上の歴史を持っている。パンやチーズもバイオテクノロジーの産物なのだ。

より最近では、様々な疾患を治療するために、遺伝子工学によって構築される治療用タンパク質や医薬品開発との結びつきが強まっている。

サウジアラビアの狙いは、人口が増加し続けている砂漠国が抱える主要な懸念の1つである食料自給率の改善の実現のために植物の最適化に重点を置き、健康と食料のニーズにバイオテクノロジーを活用する事である。

収穫の増加による農業生産性の向上は、輸入に依存している経済に大きな変革をもたらし得る。(シャッターストック)

「収穫量の増加による農業生産性の向上は、輸入に依存している経済に大きな変革をもたらす可能性を持っています」と、ヤスミン氏はサウジアラビアを念頭に置いて述べた。

「バイオテクノロジーによる農業生産性の向上は、それだけではなく、サウジアラビアにおける食料安全保障に関する高度な研究の確立へと繋がって行く可能性があるのです。食料関連の技術革新の可能性を考慮に入れると、消費者の健康に好ましい影響を持ったサウジアラビア産の食品の種類が拡大して行く将来が明確に展望出来ます」

こうした将来の展開は、サウジアラビアのゲノミクス推進によってのみ可能となるだろう。この分野は、医学における新たなフロンティアと考えられており、遺伝子間の相互作用や遺伝子と環境の相互作用に研究の焦点が置かれている。

ヤスミン氏は、ゲノミクスと精密医療がサウジアラビア政府の次の重点分野になる可能性があると語り、同国の大規模な公的医療セクターと医療サービスのコストが懸念材料として浮上しつつあると付け加えた。

「ゲノミクス技術は、そうしたコストを管理するのに必要な技術革新を提供できます」と、ヤスミン氏は語った。

「とはいえ、さらに重要なことは、サウジアラビアが高い肥満レベルなどの健康管理上の課題に取り組み、サウジアラビアのゲノムプロファイルに適応した医薬品を開発し、国民の生産性と健康を最適化可能な新しいゲノムプロファイルを開発するのにバイオテクノロジーが有用であるということです」

シンクタンク「サウジアラビア事業・貿易業プラットフォーム」の創設者ジャシム・アルシャマリ氏によると、国家バイオテクノロジー戦略はサウジアラビア経済の発展において非常に重要であり、「サウジアラビアにおける強力な製薬産業の誕生」に繋がるという。

アルシャマリ氏は、アラビア語電子新聞サブクに、「国家バイオテクノロジー戦略は、輸入への依存を減少させ、国内市場の需要を満たせるように自給率を高め、経済の自主性を強化するでしょう」と語った。

医療や食品産業における経済の多様化や価値の創出と共に、サウジアラビアのバイオテクノロジーへの進出は他の分野にも「興味深い展望」をもたららす。(シャッターストック)

アルシャマリ氏は、「新戦略により製薬産業におけるデジタル変革と技術進歩が促進され、バイオテクノロジーが、産業プロセスの改善、そして、効果が高くかつ安全な新薬の開発に利用出来るようになる見込みがあります」と付言した。

PwC傘下のストラテジー&ミドル・イースト社が2023年に発表した報告書には、バイオテクノロジーの国際的な先導者となる高い潜在性を有するサウジアラビアが、国内の健康と食料のニーズに対応しつつ、自国の新たな市場構築を行っていることが示されている。

「サウジアラビアのバイオテクノロジー産業の現状は、『初期段階』だと言えるでしょう」と、ストラテジー&ミドル・イースト社のクラウディア・パルメ上級顧問は欧州のバイオテクノロジーニュースウェブサイト「レビオテック」に語った。

「(しかし)経済改革プログラムでは、サウジアラビアは、公的・半公的機関とこの分野での最初の取り組みを行う民間企業の間に生じる生産的な相互作用の促進と共に、より広範なバイオテクノロジー分野の進化に適した環境を構築することに焦点を置いています」

こうした取り組みには、サウジ国内のみならずより広範に湾岸地域全体で、学術機関を複数発展させその名望を高めるという大規模な方策も含まれている。

そうした学術機関には、アブダラ王立科学技術大学、キングサウード大学、キングアブドルアジーズ科学技術都市、アブダラ王立医学研究所、キング・ファイサル専門病院・研究センターが含まれる。

サウジアラビアは、2021年以降2023年半ばまでに、研究開発に約39億ドルを投じている。

加えて、サウジアラビアは、ビジネスとバイオテクノロジーの双方を取り巻く「規制の体系的な見直し」とパルメ氏が表現した取り組みと共に、研究資金の確保と最先端のバイオテクノロジー用インフラの整備にも注力している。

サウジアラビアは、2021年以降2023年半ばまでに、研究開発に約39億ドルを投じており、アブダラ王立科学技術大学などの主要大学が関与する最先端のバイオテクノロジー用インフラの整備に注力している。(インスタグラム:@kaust_research)

サウジアラビアのビジョン2030の構想では、この国家バイオテクノロジー戦略により、約11,000件の新たな雇用機会が創出され、その次の10年間で関連する雇用機会の総数は55,000件に達するとされている。

初期予測では、国家バイオテクノロジー戦略は、経済的には、ビジョン2030開始以来サウジアラビアが達成してきた非石油成長の加速を基礎として、非石油国内総生産に346億ドル(3%)の貢献を為すと見込まれている。

国際通貨基金(IMF)の最新の年次報告書によると、サウジアラビアの非石油収入の年間成長率は平均すると4.8%の増加となっている。

ゴールドマン・サックス・リサーチのアナリストであるファイサル・アルアズメ氏は、「ビジョン2030の発表以来、サウジアラビアは戦略的経済部門全般にわたって多様な開発と投資を通じて非石油経済の成長において有意義な進歩を成し遂げてきています」と語った。

新興バイオテクノロジー企業がサウジアラビアにおいて既に資金調達に乗り出しているというウォール・ストリート・ジャーナルの最近の報道は、現在サウジアラビアで大々的に生じている事業機会を反映したものである。

アブダラ王立科学技術大学センサーズ・ラボにおいて食品保存技術と食品廃棄防止について研究する博士課程在籍中のアスラル・ダムダム氏。2023年3月。(インスタグラム:@kaust_research)

カリフォルニア州を拠点とする長寿を事業テーマとする新興企業ルベド・ライフ・サイエンシズ社の最高ビジネス責任者であるアリ・サイアム氏は、サウジアラビアとより広範な湾岸地域が「バイオテクノロジーのエコシステムにおいて非常に高い重要度を持つようになりました」と米国紙に語った。

ユーロモニター・インターナショナルのヤスミン氏は、医療や食品産業における経済の多様化や価値の創出と共に、サウジアラビアのバイオテクノロジーへの進出は他の分野にも「興味深い展望」をもたらしていると指摘する。

「例えば、サウジアラビアは、バイオ燃料や再生可能エネルギー源、より環境負荷の低い代替エネルギーの生産を進めて」おり、これにより「世界のエネルギーストーリーを先導する」ことがサウジアラビアにとって可能となり、世界有数の産油国という属性に対する批判を押し戻すことが出来るようになるとヤスミン氏は語った。

アラブニュースの取材にイスタンブールから応じたトルコに拠点を置く小規模特化型政策コンサルティング企業の創設者であるウサル・サバス氏は、サウジアラビアの国家バイオテクノロジー戦略は、「健康だけではなく、中東の将来を左右し得る材料や製造、農業といった分野にとって極めて重要な意味を持つ」構想だと語った。

「そのため、バイオテクノロジーはサウジアラビアがビジョン2030において達成しようとしている技術の多様化の重要な要素となるはずです」と、サバス氏は述べた。

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