ラシード・ハサン
リヤド:サウジアラビア王国でサウジ・ビジョン2030のもとで抜本的な改革が行われている中、同国の日本との関係も拡大・進展していると上村司在サウジアラビア日本大使は語る。
『Arab News』の独占取材に対し、「サウジアラビアと日本は、1955年の国交樹立以来強いパートナー関係を構築してきました」と同大使は言う。「サウジアラビアはサウジ・ビジョン2030のもとで、極めてダイナミックな社会経済面の改革を行なっており、同時にサウジアラビアと日本の両国関係にも大きな変化が現れています」
「2016年9月1日には、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子と安倍総理大臣が日・サウジ・ビジョン2030共同グループを立ち上げ、両国の提携関係の新時代を切り拓いています」
日・サウジ・ビジョン2030は、安倍首相とサルマーン国王が「新たな戦略的パートナーシップの羅針盤」として翌年3月に立ち上げたものであると、上村大使は付け加えた。
同大使によれば、この共同ビジョンは両国の経済と将来の繁栄に資する戦略的パートナーシップの構築に向けた包括的な計画であり、そのために両国の戦略を組み合わせて相乗効果を狙うとのことだ。
同大使は、サウジ・ビジョン2030では、活力のある社会、繁栄する経済、そして野心溢れる国家の構築のために明確な目標が設定されていることを指摘し、日本は積極的にその支援を行う重要な役割を担いたいと考えていると言う。
日本の国家改革プログラムに関して、「日本は、コネクテッドインダストリーズを通して第5世代の社会を実現するための新たな成長戦略を設定しました」と同大使は言う。「それに加えて、日本の成長戦略では、女性の進出促進を通して、多様で活力のある労働力を作り上げるという戦略も掲げられています。またクールジャパン戦略(日本の文化大国としての台頭を反映するもの)を通して、経済に文化的価値を付加します。
「サウジアラビアの豊かな歴史と文化に日本人観光客は魅了されると確信しています」
上村司在サウジアラビア日本大使
「日本政府は、サウジアラビアの社会経済面の改革を実現するための施策を、全面的に支援します」
同大使によれば、2014年のサルマーン国王による日本訪問や、2017年の皇太子による日本訪問も助けになり、両国関係は多くの分野で変化を遂げたとのことだ。
「現在の両国の勢いをさらに促進して、両国関係をこれまでになく深めていくことを望んでいます」と同大使は付け加える。
上村大使によると、日本は世界的な技術大国として評価されており、技術移転を通してサウジアラビアの持続可能な開発を支援するという大役をこなせるとのことだ。
「私は、投資こそ技術移転を促進する最高の方法だと考えています」と同大使は説明する。「日・サウジ・ビジョン2030の一環として、日本はサウジアラビア経済計画省、サウジアラビア総合投資庁、およびその他の省と協力して、ビジネス分野での投資プロジェクトの促進に全力であたっています」
例えば日本の中東協力センターは、実行可能性調査を実施することで、日本とサウジアラビア企業の間で11もの合弁事業の立ち上げを支援した。
上村大使によれば、そうした施策と同時に、リヤドの2つの教育機関とジェッダの1つの教育機関でのサウジアラビア市民向けの技術研修を通して、日本は人材育成やサウダイゼーション政策にも貢献しているとのことだ。それに加えて、ジェッダのサウジ・日本自動車技術高等研修所では若者向けに自動車技術者になるための研修を行っており、リヤドのプラスチック加工高等研修所では石油化学関連の仕事を見据えた研修を行っている。
上村大使によれば、日本とサウジアラビアは技術分野で多数の協力合意を締結しており、多くのハイテクプロジェクトで協力を進めているとのことだ。その例として、サウジアラビアでの産業ロボット関連の研修施設の設置が挙げられる。
「こうしたプロジェクトを通して、私たちの技術分野の経験と知識をサウジアラビアの研究者や学生に伝えられたのではないかと私は考えています」と同大使は言う。「サウジアラビアの学生を技術分野で支援するために、日本政府ではMEXT(文部科学省)という政府の奨学金制度を用意しています。若く優秀なサウジアラビアの学生、研究者、及び教師はこの制度を利用して日本に渡り、科学、技術、言語、芸術、及びビジネススキルを学んでいます。
「2300万人以上のサウジアラビアの人口のほとんどは若者です。彼らは、皇太子主導で進められている改革に賛同しています。日本も改革に賛同し続け、サウジアラビアとの揺るがぬ戦略的パートナーシップのもとで、官民問わず全力でビジョン関連のプロジェクトを促進し続けます」
日本では現在大阪で第14回目を数えるG20サミットが開催されており、来年の開催国はサウジアラビアである。上村大使は、サウジアラビアには議題となる世界規模の問題に関連して、担うべき重要な役割があると考えている。
「個人的には、サウジアラビアは世界の貿易とエネルギー関連の問題に関して大きく貢献できるのではないかと考えています」と同大使は言う。「サウジアラビアは自由貿易の主導者であり、また石油依存型から再生可能エネルギーを含む新たな複合的なエネルギー利用への転換分野でも先駆者的存在です。そのためサウジアラビアは、2020年のG20の場で、サウジ・ビジョン2030や関連プログラムで掲げられている明るい未来に向けて道を切り拓き、そうした未来を世界に向けて提示することができるでしょう」
サウジアラビアで娯楽産業が新たな形式の芸術にも門戸を開きつつある今、両国間では文化分野の協力と交流も進展している。
例えば上村大使によれば、東京で近日中に「サウジ文化の日」イベントが開催予定で、またリヤドでは「日本文化ウィーク」が開催予定とのことだ。
「私たちは、多くの文化イベントを企画し、娯楽、伝統文化のイベント、及び和食を通して、サウジアラビアの人々に本物の日本文化を体験してもらおうと、努力を重ねています」と同大使は説明する。
東京では2018年1月に、アラビア半島の豊かな文明、歴史、及び文化を考古学の観点から紹介する「アラビアの道」展が大きな成功を収めた。また日本大使館は「東北の美しき手工芸」展を企画中で、同展はリヤドの国立博物館で来年初頭に開催される。
観光業に話が及ぶと、「日本は官民問わず、サウジアラビアの観光業に様々な方法で貢献できると思います」と上村大使は語る。
上村大使によれば、サウジアラビアに外国人を迎え入れるために簡単な観光ビザ制度が導入されたことは、日本でも大きく報じられており、多くの日本人はサウジアラビアを訪れてみたいと思っているとのことだ。
日本の民間企業は、サウジアラビアの観光業活性化計画を大きなビジネスチャンスと考えており、訪れる価値があるにも関わらず観光客が少ないことでは右に出る国が少ないと捉えられているサウジアラビアに、今ツアーが企画されているのだ。
「日本政府と協力して、観光業界は多くの日本人旅行者をサウジアラビアに送り込みます」と上村大使は言う。「この国の豊かな歴史と文化に日本人観光客は魅了されると確信しています。またそれによって、日本人はより深くサウジアラビアを理解できるようになり、相互理解も深まるでしょう」
日本も、遺産関連の観光業を紹介するため、サウジ観光国家遺産委員会やその他の公的機関の代表を日本に招待した。
「この分野での協力関係を加速させ、将来の協力を促進するために、観光業と文化遺産に関する研修コースが両国間で2019年に予定されています」と上村大使は言う。
日本が2020年のオリンピックとパラリンピックを開催すること、そしてサウジアラビアでのスポーツの発展はビジョン2030の重要な部分をなしていることに鑑みれば、スポーツも協力によって良い成果が見込める分野である。
両国はすでに多くのスポーツ関連のプロジェクトで協力しており、昨年には柔道、フェンシング、水泳、及び重量挙げで交換訪問を実施したことを上村大使は指摘する。
協力関係は今年も継続し、アーチェリーの練習合宿に加えて、障がい者スポーツのプログラムが女性向けに企画されていると同大使は付け加えた。
また日本は東京オリンピックに向けて、サウジアラビアの女子柔道チームの指導のため、女性柔道コーチを1人派遣した。