東京:オンライン上でコンピューターゲームを対戦する「Eスポーツ」が、専用のゲームソフトや機器によって、日本各地の福祉施設で広がりを見せている。
こうした施設では、入所者が1分程度の短時間のオリジナル・ゲームに取り組んでいる。ゲームはボタン式のスイッチを利用するもので、能力や年齢を問わず楽しめるように開発されている。
高齢者の認知機能維持や障がい者の社会交流の場として、Eスポーツが活用されている。東京都は今年3月から、都内の障害者施設にゲームの貸し出しを行う事業を始めた。
東京都足立区にある社会福祉法人足立の里やざいけ福祉園では、昨年11月下旬、知的障害や肢体不自由のある入所者が余暇を利用して、都から提供された用具を使ってEスポーツに取り組んだ。
同施設の入所者たちは、15種類のゲームの中から自分の好きなゲームを選ぶことができる。例えば、色の識別が難しい人は、4つの色のボタンのうち1つだけを使うフットレースに参加した。複数の色のボタンを使い分けることができる人は、高いポールに設置されたバスケットにお手玉を投げるゲームを楽しんだ。優勝した選手には施設関係者から歓声が上がった。
同施設の関係者は、「施設で大会が開催されると、接戦で全体の雰囲気が盛り上がる」と話していた。
東京都は今年度、障害者の日常生活介護や就労継続支援を行う10施設にEスポーツ用具貸与事業を拡大した。3ヶ月間の試用後、自治体はこの取り組みの効果を評価する予定だ。
12月中旬に開催された都主催のEスポーツイベントでは、障害者施設5施設と会場がオンラインで結ばれ、8チームが参加した。都は、多くの施設からの機材貸し出しの要望に応え、来年度以降の事業継続を検討している。
一般社団法人UDEスポーツ協会は、熊本県合志市を拠点にEスポーツに特化したゲームの開発・普及に取り組んでいる。UDEスポーツとは、ユニバーサル・デザイン・エレクトロニック・スポーツの略。
同協会の代表理事で理学療法士の池田隆太氏(39歳)は、COVID-19のパンデミックにより、介護施設に在職中、外部との社会的交流が減少していくのを目の当たりにした。
池田氏は市販のゲームを使ったEスポーツイベントを検討したが、複雑なルールやコントローラーのスキル、既存のゲームを福祉施設に常設することの制限などの課題にぶつかった。そこで池田氏たちは、自分たちの手でカスタムメイドのゲームソフトを開発することにした。
パソコンと関連機器を接続し、専用サイトにアクセスすれば、同協会が開発したユニークなゲームに参加できる。
同協会は従来のものを直径7.5センチのボタンに変えるなど工夫を凝らした。あごや指先で操作できる小さなスイッチや、静電気や点滅に反応するスイッチなども製作した。それらを巧みに組み合わせることで、重度の肢体不自由者でも遊べるように工夫されている。
現在、全国約120の介護施設や障がい者施設が、月額契約により同協会のEスポーツシステムを導入している。最大4人までの同時プレイが可能で、毎月開催される大会では参加者同士のオンライン交流も盛んに行われている。
同協会などが実施した調査によると、Eスポーツを継続的に利用することで、高齢者の注意力や意欲の向上に寄与しているという。また、障がい者の身体機能が向上し、就労につながった例も報告されている。
「高齢者もスマートフォンを使いこなす時代ですが、福祉施設の入所者の多くは、折り紙や風船バレーボールなど、昔ながらの素朴な余暇を過ごしています。幅広い世代が参加できるEスポーツが、交流やリハビリのきっかけになれば」と池田氏は語った。
時事通信