

【ワシントン/パリ】アメリカ食品医薬品局(FDA)はファイザーのコロナワクチンの使用を承認し、数日内に接種を始めると今週金曜日発表した。コロナによる死亡者数が29万5千人を超えたアメリカはこれで大きい転機を迎えることになる。
FDAにより緊急使用が認められたワクチンは、ドイツのBioNTechと共同開発したもので、後期治験で95%の発症予防効果を示した。
FDAは16才以上の人にこのワクチンが接種できると発表。最初の2千9百万回分のワクチンは主に医療従事者や長期療養施設に入居している高齢者に接種する予定だ。
「24時間以内にワクチンを投与し始める」と、米大統領のドナルド・トランプ氏はツイッターに投稿した映像で話した。「全てのアメリカ国民にワクチンを無償提供する」とも発言。
米国政府はFDAの承認後すぐに国中にワクチンの配布を始め、来週の頭にでも接種を始めると発表した。
モデルナ社のワクチンが早急に承認されれば、大勢のアメリカ国民が今月中にワクチンの接種を受けられるようになる。
ファイザーとBioNTechのワクチンは今月初旬、イギリスで初めて承認され、今週火曜日よりイギリス国民への接種が始まった。当ワクチンはカナダでも承認され、来週より接種が始まる予定。メキシコとバーレーンでも承認が降りた。
ウイルスの拡散を抑えるための組織的対策に失敗したアメリカでの感染、入院、死亡者数が記録的な水準で増えている状況でFDAの緊急使用許可(EUA)は承認された。今週、病院での集中治療施設が逼迫している中で、一日当たりのコロナ死亡者数は3000人に昇り、国の医療システムさえも崩壊する恐れがある。
「緊急使用許可には皆期待していましたし、この爆発的な感染状況を終息させる一連の措置の第一歩です」と、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターの上級学者であるアメッシュ・アダルジャ氏は言う。
「私がコロナウイルスの患者を診療する時、緊急使用許可のことをあまり念頭にはおかないと思います。多くの人が感染し、その多くが入院し、また多くの人がワクチンが有意義な効果を出す前に死んでいくでしょう。」
アメリカ政府が来週にでもワクチンを緊急承認する可能性のあるモデルナ社を含め、アストラゼネカ社とオクスフォード大学、ジョンソン・エンド・ジョンソン社がワクチン開発で先頭集団を走っている。
BioNTechは今年1月にmRNA(合成メッセンジャーRNA)の技術を使ったワクチンの開発を始めた。また、承認後には完成品も製造する。この技術は化学伝達物質を使って細胞に新型コロナウイルスの一部分を真似たタンパク質を作らせる。免疫システムはこのタンパク質を侵入者と判別できるように学習する。BioNTechは3月にファイザーと開発契約を結んだ。
ワクチンはマイナス70度で保存、輸送しなければならない流通上の複雑な難点をかかえており、特殊な冷凍庫やドライアイスが必要となる。
モデルナのワクチンは同じ技術を使っているが、超低温で保存する必要はない。
接種開始
ファイザーはワクチンの適正な管理のため、ドライアイスを詰めた特別な輸送容器を開発した。多くの州政府は、特殊冷凍庫が足りない農村地域への輸送に必要なドライアイスが確保できるかを懸念しているが、ファイザーは十分な供給量があるとしている。
ワクチン開発は感染状況に対するトランプ政府の対策の中心であり、言い換えると、他では州政府がそれぞれ対策をたてるしかなかった。トランプ政府は、接種を希望する3億3千万人のアメリカ国民が2021年半ばまでに接種を終えるのに十分な供給量が確保できると発表した。
政府はワープ・スピード作戦(Operation Warp Speed)を通して、5千万人が接種を受けられる1億回分のファイザーワクチンを発注した。追加分は交渉できるが、具体的なことは明らかになっていない。
ファイザーの役員で元FDA長官のスコット・ゴッティレーブ氏は今週あったCNBCとのインタビューで、ファイザー社が米政府に追加回数分の販売を提案して断られたことを明かした。
米国は2回の接種が必要なモデルナのワクチンを2千万回分購入することに合意した。また、ジョンソン・エンド・ジョンソン及びアストラゼネカとの供給契約も結んでいる。しかし、これらのワクチンの承認はまだ先だ。
アメリカの感染症最高専門家であるアンソニー・ファウチ博士はワクチンの輸送がうまくいき、十分な数の国民が接種を受けることに合意すれば、国を疲弊させるこのパンデミックからの開放の兆しもみえてくるだろうと言う。
「2021年の第二四半期までに効率的に動けば、夏の終り、または第三四半期の終わり頃には社会を守るために十分な集団免疫を手に入れる可能性があります。また、2021年の年末にはコロナ以前に近いような正常状態にある程度近づくこともできるしょう。」
2つのワクチンが難関に直面
今週金曜日、コロナウイルスと戦う研究競争で2つのワクチン候補が苦戦していることが明らかになった。これで、免疫を獲得するためのグローバル規模での動きもつまずいた。
北米とアフリカで感染拡大が加速し、ヨーロッパでは安定化し、アジア及び中東では状況が改善している中、ワクチン開発の最前線からの2つニュースが飛び込んだ。
公式データからAFPが集計をとった結果、新型コロナウイルスが1年前に中国で発生して以来、世界中で158万人の人が命を落とした。
記録的な速さで開発が進むワクチンが世界中に希望をもたらした一方で、一部のワクチン候補は苦戦している。
フランスのサノフィとイギリスのGSKは今週金曜日、自社のワクチンは2021年の年末までに完成できないと発表した。
研究者によると、新しい試験結果で高年齢の成人からの免疫反応が低く出たためだ。
オーストラリアでは今週金曜日、初期症状段階の一部被験者が臨床試験によりHIV偽陽性反応を引き起したため、クィーンズランド大学で開発中だったワクチンを第一相試験の途中で白紙に戻した。
一方で接種計画に拍車がかかる他のワクチンもある。
米大統領当選者のバイデン氏は「この不必要な闇の時期に訪れた明るい光」を歓迎した。アメリカでは30万人近くの人が死亡しており、世界でもっとも死亡者が多い国である。
アメリカは長期療養施設を始めとして、今月中に2千万人の接種を開始したい考えだ。
イギリスは西欧の国では初めて、ファイザーとBioNTechが開発したワクチンの接種を開始した。カナダ、バーレーン、サウジアラビアでもこのワクチンが承認された。
カナダでは14箇所にワクチンの初回輸送分が来週月曜日に到着する予定で、その後一両日間で接種が始まる。
「とても期待しています。子どもが生まれるので、なるべく早く接種を受けたいです」と、トロント在住のミシェルがAFPに語った。
イスラエルはファイザーのワクチンを今週水曜日に受け取っており、12月27日からの接種開始を予定している。
香港は今週金曜日にファイザー及び北京にあるシノバック社と2つのワクチン契約を結んだと発表した。2021年の頭に接種を始める計画。
アストラゼネカは新たな混合方を試している。ロシア支社が臨床試験で自社のワクチンをロシア産のスプートニクVと混合させることを発表した。
「異なるワクチンを合わせて使うことは、強い免疫反応と使いやすさを手に入れることにより、さらに広い範囲での予防効果を生み出すための大切なステップになるかもしれない」と、製薬大手の同社は声明で言及している。
ロシアと中国では国内で生産した、それほど厳しい審査を経ていないワクチンの接種をすでに始めている。一方でEUは2つの候補ワクチンの完成を待望んでいる状況。
EUの監視団体はファイザーとモデルナのワクチンに関する決定をそれぞれ12月末と1月初旬に行うと発表した。
しかしワクチンに関する疑問もまだ多く残る。
主要な問題としては、今後発生する副作用、免疫の有効期間、他人への感染抑制力、子どもや妊婦、免疫不全症患者への投与可否などがある。
ヨーロッパで追加制限
ヨーロッパでの感染拡大が少し弱まったことで、フランスは6週間に及んだ移動制限を来週火曜日より解く計画だ。ただし、大晦日も含めて午後8時以降の営業は制限する。
ギリシャは今週金曜日、国外からの旅行客の隔離義務を廃止し、クリスマス期間には教会を開け、また美容院や書店などの小型商店は来週月曜日から営業を再開できると発表した。
一方のスイスでは、ふたたび感染者が急速に増えていることから、商店、レストラン、バーでの午後7時以降の営業規制を発表した。
「病院と医療従事者が限界に達しています。もう待っていられません」と、シモネッタ・ソマルーガ大統領が首都ベルンで開かれた記者会見で話した。
移動制限は経済への悪影響と退屈、その他数え切れないほどの不幸をもたらしたが、環境には良い影響を与えた。
グローバル・カーボン・プロジェクトによると、移動制限により、2020年の炭素排出量は7%減の記録的な減少となった。
一番は12%減のアメリカ、続くEUでは11%減となった。
スポーツ界ではフォミュラー1世界チャンピオンのルイス・ハミルトンがコロナウイルス感染から回復し、シーズン最終戦のアブダビGPのレースに参加できる許可を得た。
ロイター/AFP