サウジアラビアは国防費を一部の国を除いて他の国よりも多く支出しているが、これまでは事実上すべての軍事装備品を海外から輸入してきた。ワリード・アブ・ハリード氏は、この状況を完全に、そして後戻りできないほどに変えることを目指している。
国際防衛産業で長いキャリアを持つアブ・ハリード氏は、2030年までに軍事装備品供給の少なくとも50%を国産化することを目標に、サウジアラビアの国内防衛産業の拡大を担うサウジアラビア軍事産業(SAMI)のCEOを務めている。
これは、SAMIが2017年に設立されたときの約3%の水準と比較すると野心的な目標だが、同氏はこれを達成することができると確信している。「最低でも60%、できればそれ以上を目指しています」と同氏はアラブニュースに語った。
同氏の野心的な目標は、最近SAMIが英国の防衛大手BAEシステムズが保有していた50%の株式を買い取ってアドバンスト・エレクトロニクス・カンパニー(AEC)を買収したことで、大きく前に進んだ。
アブ・ハリード氏が「この地域における防衛電子機器の宝石」と評した会社を買収し、同社の32年に及ぶ歴史の中で初めて100%サウジアラビアが所有する会社にしたことは、SAMIにとって大きな成功だった。
買収が発表された際には、正式に買収額は発表されなかったが、「間違いなく数十億ドル規模」であったと同氏は述べた。
SAMIは航空、地上システム、防衛電子機器、武器・ミサイル、新興技術の5つの主要部門と共に設立された。
SAMIの主な任務の1つは、軍事産業総局の規制監督の下で、新しい防衛技術の研究開発を支援することだ。
SAMIは、2030年までに世界の防衛関連企業のトップ25にランクインすることを目標としており、AECの買収は、その目標に向けた所要時間を何年も短縮し、その方向への大きな後押しとなった。
この買収により、数年間BAEシステムズの地域上級経営幹部を務めていたアブ・ハリード氏にとっても個人的な長い道のりが終わったことになる。
所有権の変更にもかかわらず、同氏はこの英国の会社との関係が継続され、新しい構成で協力がさらに進むことを期待している。
「彼らはサウジアラビアで50年の歴史を持っており、今後もAECのプロジェクトに全力で取り組んでくれると確信しています」と同氏は述べた。
この取引はまた、サウジアラビアの政府系ファンドで、SAMIを保有するパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)とPIFが所有する数十億ドルの資産の傘下にAECが入るものだ。
「どのような投資も大きな意味を持ち、相乗効果が必要で、ビジョン2030に沿ったものでなければなりません」とアブ・ハリード氏は強調し、PIFはSAMIに「非常に協力的だ」と付け加えた。
サウジアラビアはその歴史の中で、防衛の必要性を国際的パートナーシップに頼ってきた、そして「過去60年間、この地域で最も安全に暮らせる場所の1つ」であり続けてきた、とアブ・ハリード氏は言う。では、何が変わって独自の防衛産業を成長させるための動きを促すのだろうか。
「私が考える変化は、石油に完全に依存していた経済を多様化させるという素晴らしい展望を持った素晴らしい指導者が現れたということです」と同氏は話した。
経歴
生まれ:1966年、サウジアラビア アル・ウラ
学歴
職歴
「私たちには世界最大級の防衛予算があります。そして、この産業が私たち自身の需要を満たすところまで国産化し、将来的には地域や海外に目を向けることができるということは、サウジアラビアにとっては異例の機会です。40年前、50年前にはそうなるべきでした」
世界の防衛産業は数兆ドル規模のビジネスだ。防衛産業は技術の最先端で、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの企業間の競争は極めて激しい。
防衛産業はまた、国際政治のデリケートな世界に深く関与しており、地政学的緊張の第一線に立っている。
アブ・ハリード氏は、サウジアラビアが独自に製造できる装備やシステムの種類には限界があることを認識している。
「例えば、非常に高性能な第5世代の戦闘機を設計・製造することは、近い将来には実現しないでしょう。それには莫大な額の投資が必要です」と同氏は話した。
「ですが、質問を逆にすれば、どんなものが作れないのかということになると思います。すぐにできることはたくさんあります。例えば、メンテナンス、修理、分解整備、UAV(無人航空機)、防衛電子機器、地上システムなど、これらはすべて今でも実現可能です」
SAMIはすでに、中東最大級のメンテナンスおよび分解整備サービスの供給者で、ジッダを拠点とするAircraft Accessories & Components Co. Ltd.を保有している。
防衛電子機器と航空電子機器という高度に革新的な分野で、SAMIは世界に挑戦する準備ができている。
「UAVは航空機の未来です。近い将来にどこかの国が、実際に人間が操縦する戦闘機の新製品を発表したら、私は非常に驚くでしょう」とアブ・ハリード氏は話した。
「サウジアラビアにとって、無人戦闘機の製造は絶対に可能です。私たちはすでにいくつかのサウジアラビアの研究センターと協力して無人機の研究に取り組んでいます」
このような野心的な計画が現在実現可能となっているのは、サウジアラビアには十分な訓練を受けた経験豊富なエンジニアの中核グループがあること、そして彼らは国際的な大手防衛企業のいくつかで技術を学び、それらの技術を国内で生かす準備ができているためだ。
「世界最高の大学で学んだサウジアラビア人は何千人といます。そして、彼らは帰国して活躍しています。サウジアラビアには私たちが誇れる素晴らしい才能を持った人たちが確かにいます」とアブ・ハリード氏は語った。
AECの従業員の85%はサウジアラビア人であり、増え続ける総勢2,500人のSAMIの従業員をさらに国内の人材で賄う計画は、同氏の戦略の重要な要素となっている。
「国内の人材がいなければ未来はないと考えているので、これを維持することは絶対に不可欠です。私たちは、サウジアラビアの優秀な人材の中でも特に優秀な人材、精鋭中の精鋭を引き付けたいと考えています」と述べ、国内化計画の重要な要素としてSAMIアカデミーの設立を強調した。
サウジアラビアの他の大きな強みは、BAEシステムズとの関係に加え、防衛ビジネスの優良顧客として数十年にわたって築き上げてきた豊富な国際的パートナーシップだ。
アブ・ハリード氏は、SAMIが国内で独自の産業を構築しようとする中で、これらの関係は今後も維持され、より強固なものになると確信している。
「防衛分野の世界的なリーダーは、米国、英国、欧州であり、これらの国々が当社の重要な焦点となります。南アフリカや韓国には、私たちが協力していく良い企業があります」と同氏は述べた。
サウジアラビアは近年、ロシアや中国との経済・投資関係を緊密にしてきたが、防衛分野ではこれらの国々とのビジネスはほとんど行われていない。SAMIが国際的パートナーのグループを広げようとする中で、これに変化はあるのだろうか。
「私たちは常に、サウジアラビアの指導者から指示を受けています。私が重視しているのは、私たちはすでに他の多くの企業と協力関係にあるということです。私は、自分の国のために最善のことをしたいし、協力企業のために最善のことをしたいと考えています。これは、私が彼らに対して約束をしたからです」とアブ・ハリード氏は言う。
「私は既存の協力企業を動揺させるつもりはありません。なぜなら協力企業に対する私の約束は、私たちが完全な透明性を持って仕事をするということだからです。私たちは双方にとって最善のことをします」
国際社会におけるもう1つの大きな問題は、サウジアラビアが米国や欧州諸国の政界で圧力の対象となっていることで、これらの国々では一部の政治家がサウジアラビアに対する防衛装備品の販売制限について議論している。
米国のジョー・バイデン次期大統領は、選挙戦でサウジアラビアに対する防衛装備品販売のさらなる制限を検討していることを明言しており、この動きは直感に反して、サウジアラビアの防衛産業を国産化するというSAMIの戦略に拍車をかけるものと考えられる可能性がある。
「私たちは、サウジアラビア王国にとって最善のことをしなければなりません。私たちは、正しい方向性を示し、正しい決定を行う指導者を全面的に尊敬しています」とアブ・ハリード氏は話した。
「他の企業と同様に、私たちは制約を受けながら仕事をしなければならず、常に制約を尊重します。しかし、私たちはサウジアラビアにとって最善のことをしなければならず、それはサウジアラビアの指導者の指示を受けて行われます」
ある意味では、イスラエルといくつかのアラブ諸国の関係に加えて、カタールとサウジアラビアの関係が修復したことで、この地域はそれほど危険な場所ではないように見える。しかし、イランと近隣アラブ諸国との間の大きな対立は解決の兆しを見せていない。
アブ・ハリード氏は、このような問題はSAMIでの同氏の責任範囲を超えていると言う。「繰り返しになりますが、私たちは偉大な指導者の指示に従い、サウジアラビアのために最善を尽くします」と同氏は話した。