
ドバイ: プールサイドのヴィラで、一年中太陽の光を浴びながらの在宅勤務などいかが?
ここ数か月、ドバイの優良物件の購入が相次いでいる。バイヤーは、パンデミックに拠らない10年来の低価格、資金調達のしやすさ、そしてビジネスを展開しやすい経済といった利点を利用している。
高級ヴィラ、シービューコンドミニアム、中古のファミリーハウスといった物件の販売が急増し、パンデミックのピーク時における市場活動の落ち込みに加え、それ以前も5年間低迷が続いていたドバイ不動産市場も、再び活気を見せるようになった。だが、賃料が依然として下落しており、供給過剰の状態も続いていることから、ドバイの主要な経済エンジンのひとつである不動産市場の回復への道のりは、まだまだ長いと考えられる。
ドバイの経済は貿易、観光、そしてビジネスサービスの地域ハブとしての国際的な評判に依存しているが、そんなドバイ経済も昨年は、コロナパンデミックで人員削減する企業の続出により大きな打撃を受けていた。2019年にはGDPの7.2%を占めていた不動産部門の需要を支えるために必要な外国人労働者も、その多くが国を去っていった。
だが、不動産業者によると、ロックダウンや外出禁止令が解除されたこの半年間は、市場の動きが活発になり、その好影響で、家族向けのヴィラや、ビーチやゴルフコースの高級物件の価格も安定してきたという。
Nest社で主に高級ヴィラを扱っている不動産業者のマシュー・ベイト氏は、国民、居住者、外国人観光客が購入の機会を得たことで、ビジネスはここ数か月の間に大幅に活気づいてきたと語る。
「新型コロナのロックダウンから、ディストレスト資産がいくつか出てきたのは確かです。現在は、2020年初頭、2019年の価格に戻ってきていると言えるでしょう」とベイト氏は語った。
今年の冬の観光シーズンを見てみると、世界中の多くの国がコロナウイルス対策を再強化するなか、ドバイは観光客を迎え入れ、UAEでも世界最速のワクチン接種キャンペーンが始まった。
「膨大な数の観光客が押し寄せ、多くの人々がドバイを知ることになりました…。最近でも、1500万AED(約40億円)以上の物件を扱うお客様数人の案件をお取り扱いしましたが、こうしたお客様はニューヨークやロンドンに物件をお持ちで、現在はドバイに目を向けておられます」とベイト氏は言う。
それでも、ValuStrat社の価格指数によると、高級ヴィラの価格が安定した一方で、ドバイのコンドミニアム全体の価格は、2月になってもそのほとんどが下落している状態だという。
S&P社のクレジットアナリストであるサプナ・ジャグティアニ氏は、来年のある時期まで待たなければ、ドバイの不動産市場がパンデミック前の水準まで回復することはないと予想している。
「価格は前回のピーク(2014年)から40~50%下がっています…このため、価格が同様のレベルまで回復する道のりはゆっくりと長いものになると考えています」とジャグティアニ氏は語った。
ジャグティアニ氏によると、2020年末の賃料は、同市場が10年前に迎えた最後の景気の谷と比べても5~10%ほど低い状態だという。
UAEを拠点とする投資・調査会社「ペニンシュラ・リアル・エステート」のチーフエコノミストであるクリストファー・ペイン氏は、UAEの長期的な経済動向はパンデミック以前から低迷状態であり、そのきっかけは2014年から2015年にかけての原油価格の暴落だったと述べている。
「原油価格の低下は、人口数にも影響を与えています。企業はコストの削減を迫られ、解雇される人員が増え、国を去る人が増える、というわけです」とペイン氏は言う。
不動産検索ポータル「Property Finder Group」のリネット・アバド氏によると、低価格や住宅ローン条件の緩和に加え、パンデミックによる在宅勤務の普及に伴い、より広い間取りの物件に対する需要が増えたことから、ドバイのセカンダリー・マーケットでの売買取引は、9月以降、毎月過去最高を記録しているという。
セカンドリー取引が主流になったということは、ドバイ市場が根本的に変化してきたということでもある。これまでは新規プロジェクトからのオフプラン販売が主流だったが、昨年はデベロッパー数社が、新規プロジェクトを減速するか中止にした。消息筋が昨年4月にロイターに伝えたところによると、エマール・プロパティーズのドバイ・クリーク・ハーバーもそうしたプロジェクトのひとつである。このプロジェクトは、20万人の居住を想定したウォーターフロントの高級マンション開発である。
ドバイでは、パンデミックの影響で延期されていた2020年万博が10月に開催される予定のほか、最近は一連の長期ビザ及び市民権ルール緩和措置も実施されたことにより、中長期的には市場センチメントが改善することになるだろう、というのがアナリストらの予想だ。さらに、UAEとイスラエルとの関係正常化やカタールとの関係の雪解けもプラス要因となり、ドバイやその不動産市場への投資が増加するだろうとも予想されている。
ただ、市場の一部のセクターでは需要の増加について楽観視されているものの、最も重要な問題である供給過剰は依然として改善されていない。
人口のほとんどが外国人であるこの市場では、新築の家屋やマンションにおいて供給が需要を上回る状態が長年続いている。
「この需給バランスは、2021年は年間を通じて悪化するのではないかと考えられる。これは、特に今後12〜18か月間に供給量が増加すること、そして企業や従業員がダウンサイジングをなんとか切り抜けるなか、最終的には失業者が本国に送還されることになるため、需要がますます抑制されることに起因する」と、不動産サービス会社のAsteco社が報告書で述べている。
2021年の新規供給予測については、意見がさまざまだ。不動産コンサルタント会社のKnight Frank社は、今年のオンラインを通した新規供給は「史上最高レベル」となり、ドバイでは昨年の35,808戸から約83,000戸まで増加すると見ている。一方、Astecoは、2020年の約34,050戸から今年は約41,500戸に増加すると予想している。
「一部の市場指標では、2021年の見通しは明るいとされています…ドバイでの抵当権付き物件購入の伸びなど…ですが、それが回復のきっかけになるでしょうか?それ自体だけでは、無理なのではないかと思います。回復のきっかけとなる主な要素は、供給の削減だと私たちは考えています」とジャグティアニ氏は語った。
新規プロジェクトの削減により、デベロッパーの収益が打撃を受けている。ドバイ最大の上場デベロッパーであるEmaar社は昨年、純利益が58%減少、ライバルのDAMAC Properties社も、10億4,000万ディルハム(2億8,316万ドル)に上る純損失を記録した。
「デベロッパーにかかる負担は複数あります。主に、流動性やキャッシュフローを管理しながらタイムリーに納品するということです。これに加え、2021年にはプリセールスはあまり期待できないかもしれませんし、見られるのは主に、利益の減少やレバレッジの上昇だと思います」とジャグティアニ氏は語った。
2008年の金融危機以降、業界ではリストラが相次ぎ、破綻するデベロッパーも出てきた。
さらなるリストラや統合の兆しも見えてきた。Emaar社はモール部門の買収および上場廃止を計画しているし、政府系のMeraas Holding社も、ドバイの投資ビークルであるDubai Holding社の傘下に入りつつある。
ドバイやその支配者らにコネを持つ大手企業ならば、安価な土地や一等地を獲得しやすいことから、困難を切り抜けられるのではないかと考えられる。
「バランスシートが強含みのデベロッパーなら、生き残りの可能性も小規模なデベロッパーよりは高くなるでしょう。最も柔軟な支払いプランを提供するデベロッパーに市場シェアが移行するからです。小規模なデベロッパーにとって、価格の手頃さに対する懸念に対応するのは困難なことですから」と、Arqaam Capital社のモハマド・ハイダー氏は語った。
ロイター