







フランク・ケーン (Frank Kane)
ドバイ : 国際通貨基金 (IMF) が登場することとなれば、経済政策立案者は、時にやや神経質になることもある。
77 年の歴史を持つ国際的な金融機関は、言葉の厳密な意味での規制機関ではない。しかし、大臣、中央銀行、そして当局者といった、その国の政策立案者の経済の運営方法に対して、肯定的あるいは否定的見解を述べる権利がある。
極端な場合、IMF は、危機にある経済から得た、人命を救うことにつながり得る知見を肯定、あるいは否定することができる。もう少し通常の状況では、その判断は、国際資本市場の評価の際、あらゆる国が使用する国際信用格付けに大きな影響を及ぼす可能性がある。
先月 IMF の「使節団」がサウジアラビア訪問を終えた時、それは、パンデミックと、関連する 2020 年の経済的打撃への対処に対するIMF の正式見解を待っているところであった。そのため、王国の経済政策立案者の中には、少なくとも一抹の不安があったことは間違いない。
資源の豊かなサウジアラビアが IMF による金融支援を求めることには、特段問題はない。しかし、同基金は、コロナウイルスが猛威を振るった 2020 年には、定例の年次訪問を実施していなかった。そのため、パンデミックの発生に続く急激な景気後退の対処するための大胆な政策変換となった年の後には、扱うべき領域が数多くあった。
結果として、サウジ当局者が心配する必要はまったくなかった。先週発表された「完了報告書」は、パンデミックが引き起こした莫大な課題に対する当局の対処方法を、圧倒的に信任するものだった。
それだけでなく、石油依存から脱却して王国経済を多様化するというビジョン 2030 の戦略を強く支持するものだった。
独立系エコノミストは、IMF の肯定的姿勢に驚くことはなかった。「パンデミック、そして低い原油価格にもかかわらず、国は先取りして多くの改革を行っています。公的医療制度も立ち直りが早いことが明らかとなっています」、とドバイ・インターナショナル・フィナンシャル・センター (DIFC) の前チーフエコノミスト、ナセル・サイディ (Nasser Saidi) は、アラブニュースに話した。
IMF の専門家は断定的だった。「政府は、迅速かつ断固たる姿勢で COVID-19 の危機に対応しました。厳格で早い段階における外出禁止、および健康上の影響緩和措置によって、感染者と死亡者数を抑制することができました。ワクチン接種の計画もこの数か月、首尾よく進んでいます」、と彼らは話した。
「政府および SAMA の導入する財政、金融、そして雇用支援計画は、企業とサウジの労働者におけるパンデミックの影響緩和への一助となりました」、と専門家は加えた。
この評価の主な理由は、2016 年以来実施されているビジョン 2030 改革計画にある、と IMF 担当者は結論付けた。この計画が目指すところは、王国経済を近代化し、より活力に溢れ、起業家精神に富んだ民間部門を創出し、経済的推進力として財政支出の代わりとなってもらうことだ。
「ビジョン 2030 に基づく改革は、経済によるパンデミックの舵取りの実行を手助けするという点で重要な役割を担っています。官庁間の協調と統治という強固な仕組みを構築するための取り組み、政府と金融サービスのデジタル化の発展により、労働市場における流動性を増大させるための改革、そして財政および金融政策上の強力な緩衝策、これらすべてによって、危機を管理する経済的準備が整えられたのです」、と IMF は発表した。
正しい方向に進んでいることを、あらゆる指標が示している。実質経済成長率は、今年 2.1 パーセントと予測されており、2020 年における 4.1 パーセントの下落から大きく好転することとなる。この多様化計画の成功を測る重要な指標として極めて重要な非石油部門では、実質経済成長率は、2020 年下期は反発し、この兆候は 2021 年にも継続するものと思われる。
非石油部門の成長は、今年は 3.9 パーセント、そして来年は 3.6 パーセントと IMF は予想している。しばしば IMF の最大の関心事となるインフレーションは、来年はまったく対処範囲内の 2.8 パーセントなる見込みだ。一方、多様化戦略における別の重要指標である失業率は、昨年末時点でサウジアラビアは、12.6 パーセントに落ち込んだ。
その上、国際市場を再調整するための OPEC+ の減産戦略においてサウジアラビアが果たす役割から、今年と来年にはその成果がもたらされることだろう。比較的高い原油価格で、石油の供給が通常に戻る来年には、石油の国内総生産は、6.8 パーセントの成長へと回復する。
また、王国の財政政策立案者は、IMF によって注意を受けることともなった。「石油による収入が減少し、財政支出の必要性が増加したため、赤字は、2020 年には GDP の 11.3 パーセント (2019 年には GDP の 4.5 パーセント ) にまで拡大した。もっとも、この赤字は、新規借り入れと政府預金の取り崩しにより、問題なく調達された。」赤字は、今年は 4.2 パーセントに減少する見込みで、これは公式予測よりも低い、と IMF は発表した。
付加価値税率を 3 倍としたことや、生活費の支給額および国内のエネルギー価格に対する助成金の削減といった、パンデミック中に導入し議論を呼んだ施策は、「そのどれもが、財政計画の修正に大きく寄与しており、撤回、あるいは遅らせるべきではない。」
財務省の取り組みは、IMF の評価するところだった。「より詳細な情報を予算文書中に公表すること、財務データの適用範囲を中央政府を超えて広げること、といったことを含め、財政の透明性を高め続けるための行動は必要です」、と彼らは話した。
サウジアラビア財務大臣ムハンマド・アル=ジャダーン (Mohammed Al-Jadaan) は、IMF の賞賛に感謝の意を表した。「COVID-19 によるパンデミック、石油価格の変動、急激な経済的変動、国際的な需要下落、成長後退、そしてサウジ政府が行っているその他の課題にもかかわらず、このような結果を得ることができました」、と彼は応えた。
IMF は、王国の金融、資本市場を賞賛の対象に含めた。「金融部門に関しては、SAMA が十分な統制監督を継続的に行っています」、と IMF は発表した。
「収益の減少、そして過去数年間にわたって、( 低水準であるものの ) 不良債権がわずかに増加したにもかかわらず、銀行は十分な資本と流動性を備えています。」
「資本市場当局 (Capital Market Authority) と国債管理センター (National Debt Management Center) の指導の下、株式および債券市場改革が、目を見張るような速さで継続しています。これらの改革によって、会社は資金調達の選択肢が、貯蓄家は投資機会が増加しています」、と IMF は加えた。
「債券市場を効率的に開拓し、重要なエネルギーインフラの建造物を建設し、赤字を埋め合わせることに加えて、サウジアラビアが財政における姿勢が慎重であることは、評価される必要があります」、と前 DIFC チーフエコノミストのサイディは話した。
極めて重要な事案、つまり、パンデミックによる窮状の影響、そしてビジョン 2030 構想に継続的な投資が必要であることによって、サウジアラビアの外貨準備が徐々に減少していることについて、IMF は楽観的だった。「現在の経済構造を考慮すれば、為替レートのペッグ制は、サウジアラビアに有利に働き続けます。SAMA の外貨準備は、非常に安全な水準で維持されています」、と IMF は発表した。
IMF 査定官からは、何点か注意があった。「回復を確実なものとし、より力強い成長に拍車をかけるために、政策立案者は、残りの COVID-19 関連の支援の出口を注意深く管理し、ビジョン 2030 に基づく、より長期的な改革に関する行動計画を継続してゆく必要があります」、と彼らは話した。
また彼らは、「社会保障の網」に対する支援を継続し、低収入世帯を支援する必要性を強調した。そうした世帯は、より高い税率と生活費の支給撤回によってさらに悪化する景気後退による影響と、懸命に戦っているかもしれないからだ。
「万一回復が失速した場合、政府の資本支出を計画通り減らすこともまた、遅れる可能性があります。中期的な資本支出の上限は変わらないにも関わらず、です」、と IMF は発表した。
とりわけ、経済的改革の勢いを維持することは重要だ。「民間部門におけるサウジの労働者の競争力を増大させることは、改革の行動計画の成功にとって、重要なことです。サウジの労働者の期待賃金が、彼らの生産性に見合ったものであること無しに、競争力があり多様性を備えた民間部門が発展することは、難しいでしょう」、と IMF の査定官は締めくくった。
サウジによれば、成長の継続の速さは、世界の石油市場と、将来のウイルスパターンによる。しかし、IMF の結論と同様に、その兆候は明るい。
「マクロ経済的な安定性、そして財務に対する慎重な姿勢を備えたサウジアラビアの成長見通しによって、国内外の投資、そして住宅投資や世帯消費の増加は、さらに勢いづくことでしょう」、と彼は話した。
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• Twitter: @frankkanedubai