
ロバート・エドワーズ
コロンビア、ボゴタ:国連の支援関連諸機関が火曜日に共同で公表した報告書によると、2015年から2017年の期間に始まる近東・北アフリカ地域(NENA)全般の飢餓率の上昇について、紛争がその主要原因を成しているという。報告書はまた、アラブ諸国にも紛争に巻き込まれた国と平和な国との間で大きな格差が生じているとしている。
『2020年、近東および北アフリカにおける食糧安全保障の地域的概要:アラブ諸国における食糧システムの回復力強化』と題したこの報告書は、西はチュニジアから東はイエメンまでの22ヵ国における、食料システムの回復力と栄養状態を評価したものだ。
同報告書の2019年評価によれば、この地域では新型コロナウイルスの流行以前からすでに人口の約12.2%に相当する5140万人ほどが飢餓状態にあり、ウイルスの流行がサプライチェーンや生計手段の破壊をさらに進めた。
この地域の約1億3700万人が、十分な量の栄養価の高い食糧を定期的に摂取することが困難な、中程度あるいは重度の食糧不安を抱えているとされ、この動向は、システム的な回復力を向上させる対策が取られない限り、さらに悪化することが予想される。
この動向の結果としてこの地域は、国連の「持続可能な開発目標」に定められた2030年までに飢餓を撲滅するとの誓約をほぼ確実に果たせないであろうと報告書は予測している。実際に報告書の現在の軌道を基にすると、飢餓の影響を受ける人口は2030年までに7500万人を超えることが推定される。
「次々と起きる政情不安や紛争が食糧システムを圧迫しており、それが直接的・間接的な形で様々な影響として表れています。そしてその目に見える最大の結果が、国内や国境を越えて移住を余儀なくされる人々の大規模な波です」と、国連食糧農業機関NENA地域担当責任者のアブドルハキム・エルワエル氏はアラブニュースに語った。
「例えば、報告書の調査結果によると、2020年時点で500万のシリア人が国連世界食糧計画(WFP)の援助に頼っています。さらに、レバノンの労働者たちが現在、シリア人移民と農業分野の職を奪い合っており、それが農村地域の失業率や貧困率を増加させ、食糧の入手を困難にさせています」
「一方、南イエメンでは、他の既存の社会経済的な状況に加えて、主に暴力行為の影響から、2020年には2980万人が深刻な食糧不足に陥ったことが報告されています」
この報告書は、食糧農業機関、西アジア経済社会委員会、国際農業開発基金、国際児童緊急基金(ユニセフ)、世界食糧計画、世界保健機関といった国連の諸機関の共同調査に基づいている。
調査結果の中でも特に懸念されるのが、飢餓や食糧不足が人々の健康や子供たちの発育に及ぼす影響だ。同報告書の2019年評価によると、5歳未満の子供の22.5%が発育不良、9.2%が衰弱、9.9%が肥満であった。
また、栄養不良が原因で、この地域の成人人口の27%が肥満に分類され、アラブ地域を世界で2番目に肥満の多い地域にしている。同様の栄養不良が原因となり、出産年齢の女性のうち35%が貧血に陥っている。
アラブ地域の飢餓状況を悪化させている一番の原因は、紛争であることが明らかになっている。報告書の記録によれば、アラブ諸国における栄養不良は2000年から2002年の期間を起点として減少を続けていたが、この減少傾向が、2014年から2016年の期間に中断した。これは地域の暴力行為が著しく増加した時期と重なる。
確かにこの期間、ガザ地区はイスラエルの熾烈な爆撃に2ヵ月近く晒され、ダーイシュがイラクとシリアの広範囲を制圧し、リビアは第二次内戦に陥り、イランを後ろ盾とするフーシ派がイエメン首都のサナアを制圧し、ソマリアとスーダンはいずれも新たな暴力行為に見舞われ、これらすべてが合わさり、第二次世界大戦以降で移動を余儀なくされる人々の規模が最大となった。
「食糧安全保障の低下や飢餓との闘いは、2015年以降、世界的に顕著になりました。近東・北アフリカ地域を始めとする世界各地における紛争が、この悪化状況の主な要因となっています」とエルワエル氏は述べた。
「しかし近東・北アフリカ地域では、状況が良好な方へと変化していた時期でさえも、成人人口の11% から12%が飢餓や深刻な食糧不足に見舞われていました」
報告書によれば、2000年から2002年の期間以降のこの地域の非紛争国における栄養不良人口の割合は、5%から8%の範囲で推移してきた。これは、栄養不良人口が一般的に2.5%以下であるほとんどの先進国に比べると、約2倍から3倍の数値だ。
一方、紛争諸国における飢餓率は非紛争諸国に比べて格段に高く、24%から30%の間で推移してきた。2014年から2016年の期間に至るまでは下降傾向にあったが、この期間以降に上昇を始めたのだ。
例えば、戦争で荒廃したイラクにおける栄養不足の蔓延率は、2007年から2009年の期間に25%であったのが、2011年から2013年の期間には21.8%にまで下がっていたが、それが再び上昇し、2015年から2017年の期間には24%までになった。
蔓延率は2017年から2019年の期間に23.7%に落ちたとはいえ、国の人口が増加しているために、イラクの栄養不足人口は2009年から2011年の期間の650万人から一貫して増え続け、2017年から2019年の期間には910万人に達した。
対照的に、比較的平和なアルジェリアの栄養不足蔓延率は、2007年から2009年の期間に5.6%であったのが、2015年から2017年の期間には3.2%に下がり、それ以降も減少し続けている。一方、裕福な湾岸国家であるクウェートの蔓延率は、全期間で一貫して2.5%以下に抑えられている。
紛争は、この地域で飢餓や食糧不足が増加する主要な要因ではあるが、唯一の要因ではない。報告書は、気候変動、誤った政策立案、経済的混乱などの影響により、新型コロナウイルスの流行以前から蝕まれてきたこの地域の食糧システムの脆弱性も浮き彫りにしている。
「コロナ以前の状況も反映させたこの報告書で、新型コロナウイルスがこの地域の食糧安全保障に及ぼした影響全体を評価するのは困難です」とエルワエル氏は述べた、「しかし、ウイルスの流行が地域の脆弱性をさらに露呈させたと結論づけることはできるでしょう」
食糧サプライチェーンを圧迫する他の要因としては、水不足、高い輸入依存率、不平等、人口増加、大量移民などが挙げられている。
「政策の不備に加えて、環境への負荷や圧迫が農業食品の経済に影響し、飢餓や栄養状態を悪化させることもあります。国によっては国家政策で持続不可能な形で地下水を汲み上げることにより、資源をさらに圧迫し、塩水の侵入を招いているところもあります」とエルワエル氏は述べた。
「例えば、サウジアラビアでは過去に、淡水の帯水層に大きな負担のかかる集約的な小麦農業を行っていました。この慣行は最近になって、より持続可能で効率のよい政策に改善されました」
健康的な食品にはコストがかかることも要因として挙げられており、たくさんの新鮮な果物や野菜、豆類、肉、乳製品という栄養豊かな食生活は、米やパンといったでんぷん質の穀類で必要な基礎エネルギーを摂取する食生活に比べ、約5倍のコストがかかると推定されている。
実際のところ報告書によれば、健康的な食生活をする余裕のない人口はアラブ地域では50%以上となり、世界平均の38%を上回っている。
この地域の紛争国家も非紛争国家も、広範囲に及ぶこれら数々の問題を緩和するような政策を追求する必要があるとエルワエル氏は述べた。
「人々の食糧安全保障や栄養状態を向上させたいのであれば、意識喚起が鍵となります。この地域には、これらの要因を緩和すべく真剣に取り組む意向を示している国もあります。しかし、食糧安全保障や栄養状態の下降を食い止めるには、さらに多くのことが必要です」と同氏は言う。
「現在のコロナ禍にあって、これは各国に相当な難題を突き付けているようにもとられるでしょう。しかし、食糧安全保障や栄養状態は、持続可能な発展課題には重要な問題であり、人々の幸福にも経済や社会の全般的な発展にも影響を及ぼすのです」
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ツイッター: @RobertPEdwards