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サウジアラビア・UAE・カタール、クリエイティブエコノミーへの多額の投資で文化的優位に

ルーヴル・アブダビ。(提供/ヨルギス・イェロリンボス氏)
ルーヴル・アブダビ。(提供/ヨルギス・イェロリンボス氏)
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13 Jan 2023 09:01:45 GMT9
13 Jan 2023 09:01:45 GMT9
  • アラビア湾のアラブ3ヵ国は、文化事業、博物館、展示スペース、音楽会場に何十億も投資している
  • この投資が実を結び、この3ヵ国は国家主導と民間の支援による文化的ルネッサンスを享受している
レベッカ・アン・プロクター

ドバイ:新型コロナウイルス感染症のパンデミックによるロックダウン・休業・旅行禁止によって、観光・娯楽・コンサート鑑賞は壊滅的な打撃を受けたが、その後の2022年は、失われた時間を取り戻すための猛ダッシュとでもいうべきものとなった。

ウクライナ戦争の影響でパンデミック後の世界経済の回復の見通しが立たない中、アラビア湾岸のエネルギー輸出国、特にサウジアラビア・UAE・カタールは、その予定外の利益の大部分を文化活動に還元している。

この10年間、これらの国々は、観光と経済成長を促進して国家の誇りの感覚を根づかせるために、文化事業に何十億も投資し、新しい博物や展示スペースや音楽会場を設立してきた。

3-2-1カタールオリンピック&スポーツ博物館。(デビッド・レベネ氏)

こうした投資が実を結び、湾岸諸国は国家主導と民間の支援の両方によって、文化的ルネッサンスを享受しているように見える。

世界の他の国々では、政府による芸術予算の削減が行われている、この時期にである。

例えばイギリスでは、主要な美術館や博物館がイングランド芸術評議会の2023年の予算を大幅に削減され、かつてアラブ文化の中心地であったダマスカス・バグダッド・ベイルートは戦争や不安定さ、人材流出で荒廃し、今では往時の面影はない。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下は、2016年にビジョン2030を打ち出した際に、文化と新しいクリエイティブエコノミーの形成をサウジアラビアの開発課題の中心に据えた。

この計画は、サウジアラビアの経済を石油やガスから多角化し、社会変革とともに経済・教育・行政の改革を実施するものであった。

サウジアラビア文化省は、2018年に設立されて以来、国内および海外で文化イベントの増加を先導してきた。

2021年には、サウジアラビアで25件の新たな文化団体による100件の文化イベントを開催したと報告している。

最近のハイライトには、2021年12月に初開催されたディルイーヤ現代美術ビエンナーレなどがあり、今後のハイライトには、1月23日にジェッダのキング・アブドルアジーズ国際空港のハッジ・ターミナルで開幕予定のイスラム美術ビエンナーレなどがある。

文化省の「2021年版サウジアラビア王国における文化の現状に関する報告書:公共空間における文化」によると、2021年の最初の10ヶ月間に国内の文化施設を訪れた国内観光客は約1,050万人であり、2019年の総計850万人を上回った。

文化省は12月に、「生きがいとなる文化を促進する」というビジョン2030の目標を達成するための取り組みの一環として、リヤドにあるサウジアラビア初の商業銀行の旧本店に、フェナア・アラウワルという文化センターを開設した。

さまざまな文化活動に使用されるこのセンターは、サウジアラビアと海外のクリエイターを結びつけることを目的としている。

昨年ドーハにオープンした、3-2-1カタールオリンピック&スポーツ博物館。(デビッド・レベネ氏)

ルネッサンスの思想は、芸術活動の隆盛を表す一方で、垣根を取り払い、自由な意見交換の場を提供するという考え方も示している。

ルーヴル・アブダビ館長のマニュエル・ラバテ氏はアラブニュースに対して、「歴史上、イタリアのルネッサンスからアラブ世界のナフダに至るまで、芸術運動にとって重要な転換点は数多くありますが、いずれも計り知れない創造性と、開花しつつあるアートシーンが特徴です」と語った。

「近年、アラビア湾岸諸国が著しい文化的発展を遂げていることは明白ですし、これは、継続的な投資、異文化間のコラボレーション、そして、より深い理解を築いて対話を促進する上で文化や芸術が重要であるという認識によってもたらされているのです」

サウジアラビアの社会変革は、はっきりと感じられるものでなければ意味がない。そのプロセスは、砂漠での大規模なレイブから、リヤド・シーズン、美術ビエンナーレ、映画学校などのフェスティバルまで、クリエイティブな思考や異文化間の対話を刺激している。

ジェッダのハフェズ・ギャラリーの創設者兼ディレクターであるカスワラ・ハフェズ氏はアラブニュースに対して、「サウジアラビアのすべての主要都市で、芸術展の種類・量・質が確実に増えています」と語った。

「私たちは、おもにサウジアラビアのアーティストを対象として専門的なキュレーションによる展覧会を開催したり、地元や地域、国際的なアートフェアへの参加を通じてアーティストの露出を促進させたりすることで、これまでと同様の貢献をしています」

サウジアラビアの隣国カタールには、国家主導の文化計画がある。

カタールは、2022年のFIFAワールドカップ開催と並行して、10年以上前からその文化シーンに何十億も投資してきた。

その目的は、サウジアラビアと同様、石油や天然ガスに過度に依存した経済から脱却し、観光と文化活動に移行させることである。

カタールの文化活動の指揮を執っているのは、世界的なアートパトロン兼コレクターであり、首長であるシェイク・タミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ氏の妹である。

2022年3月、シェイカ・マヤッサ氏は、カタールが3つの新しい博物館(ルサイル・ミュージアム、アートミル・ミュージアム、カタール自動車ミュージアム)を建設すると発表した。

これらの新しい施設は、マトハフ・アラブ近代美術館やイスラム美術館などの文化施設を統括するために2015年に設立された政府機関である、カタール・ミュージアムズが運営する予定である。

シェイカ・アル・マヤッサ氏は、2022年に出版した著書『文化の力』の中で、「文化はもっとも強力なツールです。

そこには宗教も言語もなく、ただ開かれています」と書いている。

しかし、彼女が2014年のTEDトークで強調したように、芸術と文化は国家のアイデンティティを構築するものでもある。

「私たちは文化施設と文化の発展を通じて自分たちを見直すのです」と彼女は当時語っていた。「芸術は、私たちの国民としてアイデンティティにおいて、非常に重要な部分になります」

カタール・ミュージアムズの展示・マーケティング担当の副CEO兼集中展示ディレクターであるリーム・アル・タニ氏は、国の文化的アイデンティティを外の世界と共有したいという強い願望があると述べている。

タニ氏はアラブニュースに対して、「私たちの歴史と、私たちの国家のより大きな背景を紹介したいのです。石油のおかげで突然ここまでやって来ただけではありません」と語った。

「これが私たちです。これが私たちの歴史であり、私たちの出身地であり、これらが私たちの伝統であり、知恵であり、知性なのです」

「近年、アラビア湾岸諸国が著しい文化的発展を遂げていることは明白です」と語った、ルーヴル・アブダビのマニュエル・ラバテ氏。(提供)

「これを簡潔な方法で紹介するのも博物館の役割です。また、今の世代のカタール人が自分たちの過去を理解できるようにしたいのです」

UAEも10年以上前から同様の戦略をとっており、同時に、国際的に有名なギャラリーをアラビア半島に誘致しようとしている。

UAEの首都にあるサーディヤット文化地区には、270億ドルをかけたサディヤット島の観光・文化開発プロジェクトの一環として2017年にオープンしたルーブル・アブダビがある。

2025年に完成予定のグッゲンハイム美術館、2023年に完成予定のアブラハム・ファミリー・ハウス、2025年に完成予定のザイード国立博物館もサーディヤット文化地区にある。

ラバテ氏はアラブニュースに対して、「これらの博物館はすべてUAEの、文化発展へのコミットメントと、芸術における世界的リーダーでありたいという願いを表しています」と語った。

UAEは、カタールやサウジアラビアと同様に、文化部門を成長させて経済に貢献するために、国費による計画を実施してきた。

UAEの文化当局は2018年に、「より戦略的で持続可能かつ野心的な方向性」で取り組む、カルチャー・アジェンダ2031と呼ばれる国全体の文化戦略に合意した。

2021年に開始された、UAEの文化・クリエイティブ産業に対する国家戦略は、2031年までに文化・クリエイティブ産業部門の貢献度を国内総生産の5%に引き上げることを目指している。

その根本的な目的には、「世界の文化と創造性の地図におけるUAEの地位を強化する」ことと、「クリエイティブな思考を刺激して、世界中から文化的才能とクリエイティブな起業家を引きつける」ことが含まれている。

そのロードマップでは、ビジネスと起業家精神が大きく重視されており、「フリーランサーやクリエイティブ系のスタートアップをUAEに誘致して、住んだり働いたりしてもらう」ことなどを目標として掲げている。

リヤドのミスク・アート・ウィーク。(提供)

特にドバイのプライベートアートの分野は、海外からの参加者によって拍車がかかっている。

注目すべきは、フランスの画商エマニュエル・ペロタン氏がドバイに最初のスペースをオープンしたのをはじめ、近年オープンした国際的なギャラリーの数々である。

他にも、ドバイ初のアフリカ資本の現代アートギャラリーであるエフィーギャラリーは、共同設立者のクワミ・ミンタ氏によると「世界中でものすごい勢いで急成長しているアフリカ系現代アートシーンの最前線に立つ」という使命を掲げて2021年に立ち上げられた。

ミンタ氏はアラブニュースに対して、「最初の場所にドバイを選んだのは、この地のアートシーンが比較的新しいため、拡張と革新を行うには完璧な地だからです」と語った。

海外のギャラリー経営者がドバイに集まっているのは、UAEの文化拡大に参加するためだけではない。

アラビア湾岸地域に広がっている、歓迎すべきビジネス環境に惹かれているのだ。

2021年9月にドバイでムンバイのヴォルテ・アート・プロジェクトを立ち上げた、インド人コレクターでアート起業家のトゥシャール・ジワラジカ氏は、アラブニュースに対して「ここではビジネスがしやすく、おそらく世界のどこよりも簡単です。また、政府から大きなサポートが得られることもあり、ここでオープンすることにしました」と語った。

「ドバイは、その文化的景観に関しては、ほぼ何も描かれていないキャンバスだと言えます。文化的景観の形成に実際に貢献できる、世界でも数少ない場所の1つなのです」

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