
リヤド:世界経済の見通しが不透明な中、サウジアラビアはビジョン2030の戦略が牽引する多角化に向けた力強い取り組みによって際立っている。同国ではそのような取り組みの結果、インフレや地政学的緊張への懸念の広がりをよそに事業活動が活発化している。
国際通貨基金(IMF)による最新の「世界経済見通し」は、2023年の世界経済成長率は前年の3.4%から2.8%に減速するが来年は3.0%に上昇すると予測している。
この暗い世界経済予測は、インフレ退治のための厳しい政策の必要性、今も続くウクライナ紛争、地理経済的分断の高まり、ノンバンク金融部門の脆弱性など、複合的な要因に基づいたものだ。
しかし、いくつかの湾岸協力理事会(GCC)諸国、特にサウジアラビアにおいては、世界経済の暗い見通しは楽観と熱狂的な経済成長に取って代わられている。
経済多様性指数
経済産業大臣やレバノン中央銀行副総裁を歴任したレバノンの政治家でエコノミストのナセル・サイディ氏が率いる経済・ビジネスアドバイザリーコンサルタント会社ナセル・サイディ・アンド・アソシエイツは、市場のボラティリティーにもかかわらず、2000~2019年に中国、米国、サウジアラビア、ドイツ、オマーンといった国々で経済多様性指数(EDI)のスコアに顕著な向上が見られたことを明らかにしている。
さらに、バーレーンを除くGCC諸国は、同期間のEDIスコア上昇率上位20ヶ国に入っている。
サウジアラビアはEDIが急成長している国の一つだが、その歩みは比較的低いレベルから始まったことに注目することが重要だとサイディ氏は指摘する。
以前はサウジの多角化のレベルが限定的であったため、その成長ペースは既に高度に多角化されていた国のそれを上回ることになったと同氏は説明する。
「高度に多角化された経済への収束のプロセスが存在している。この傾向は今後も続くと予想される」
IMFも同様に、サウジアラビアの非石油GDPが堅調な民間消費とギガプロジェクトを含む非石油民間投資に牽引されて急増し、2022年にはGDPの4.8%に達したことを強調している。また、サウジアラビアの2023年前半の非石油成長率は5%を超えると予測している。
石油輸出に大きく依存する国々が経済多角化の難しさを長年認識してきた一方、サウジアラビアは現在、その確固たる政治的コミットメントと急速なスピードで実行に移されているビジョン2030の政策のおかげで、経済多角化計画の成功の兆しを目の当たりにしている。
アクセス・パートナーシップの中東担当責任者であるフセイン・アブル・エニン氏はアラブニュースに対し、「サウジの成功は、野心的な2030アジェンダに導かれた政府一丸の統一的アプローチの存在のおかげだと言える」と指摘する。
ムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相が2016年にビジョン2030を立ち上げて以来、政府は女性の雇用制限の緩和、新たな経済分野の開発、エネルギー補助金の削減など、数多くの経済・社会改革を実行に移してきた。
サイディ氏は、サウジのEDIスコアが向上したことは、(経済政策に支援された多角化戦略の要となる要素である)非石油民間部門のGDPへの寄与を拡大するための意識的な努力を考えれば驚くべきことではないと強調する。
「石油依存脱却・多角化はアウトプット面において、国土の広さに加え、関税水準は比較的低いものの各部門が比較的閉鎖的であることから恩恵を受けてきた」と同氏は指摘する。
新興部門
サイディ氏は、ビジョン2030が実行に移されるにしたがってサウジはよりオープンになりつつあり、デジタル経済、旅行、観光、物流、娯楽、文化などの新興部門が多角化の取り組みに寄与するだろうと語る。
アブル・エニン氏はさらに、サウジの経済多角化の取り組みが概ね成功しているのは、政府が「デジタルトランスフォーメーション」への投資を増やしているおかげだと指摘する。
同氏はアラブニュースに対し次のように語る。「公共部門サービスへのクラウド導入の加速から、新興技術(生成AI、ロボティクス、分散型台帳技術)活用の奨励まで、サウジアラビアは経済多角化目標の達成に向けて大きく前進することができている」’
サウジアラビアが多角化の取り組みを続ける中、具体的な成果がアウトプット面で見えてきている。観光、メディア、ホスピタリティー、エンターテインメント、鉱業、金属、金融、デジタル領域などにおいて新たな分野が切り開かれているのだ。フィンテック、AI、クリーンエネルギーにおける進展もそれに含まれる。
アブル・エニン氏は、経済多角化を進めるうえでの障害や課題を克服するためには国のデジタル部門の成長が重要だと強調する。
同氏はアラブニュースに対し、「サウジアラビアはそのような障害を克服するために、高度なトレーニングモジュールとデジタル人材への投資を続けなければならない」と語る。
サウジアラビアはビジョン2030の実現に近づくにつれ、地域の経済・テクノロジーのハブへと進化し、世界市場においてますます重要な役割を担うようになると同氏は予想している。
成長を持続させる
IMFの2022年の報告書によると、サウジアラビアの経済多角化モデルが顕著な利益と成功を収めつつある一方で、石油は依然として同国の主要な輸出・財政収入源であり、GDPへの直接寄与度は40%を超えている。
サイディ氏は次のように説明する。「貿易面では、石油は今でもサウジの主要商品だ。しかし、石油は国際的な商品であるため、多くの多様な国々との間で取引されている(そのことが、主要な貿易相手国の成長や需要が弱まった場合のためのある程度のバッファーとなっている)」
しかし、今後のことを考えると次のような疑問が生じる。サウジアラビアの経済多角化モデルは、どうすればその実りある軌道を維持できるだろうか。
サイディ氏によれば、サウジは鉱業や金属などの部門に加えて、宗教的・文化的・歴史的なものを含むホスピタリティー・観光分野に投資すれば「利益を得られる可能性が最も高いと思われる」という。
さらに、歳入強化策も導入されている。他のGCC諸国と比較すると高い15%の付加価値税や、特定の商品やサービスの購入時に課税される物品税や法定税金などの措置だ。
これらの追加措置により、「サウジは過去に顕著だった、石油の好不況サイクルに追随することで順景気循環的な財政政策につながっていた政府歳入の順景気循環性から脱却することができた」とサイディ氏は説明する。
サウジアラビアにとっては歳入強化策の実施を含む財政再建努力の継続が不可欠であるとサイディ氏は強調する。同国が外国企業地域本部のリヤドへの移転の誘致に努める中、法人課税の取り組みがどのような形になるかが興味深いところだという。
さらに、クリーンエネルギー部門から経済多角化の機会がさらに拡大する可能性がある。サウジが2060年までの二酸化炭素排出量実質ゼロの達成に向けた取り組みを進める中では特にそうだ。
「クリーンエネルギー部門は大きな成長の可能性を秘めている。太陽光発電した電力を相互接続された送電網を通してはるばる欧州や南アジアに輸出することだって可能になるかもしれない」と同氏は言う。
「私の考えでは、サウジは2020年代の間に新たなエネルギー大国として台頭し、太陽光発電において比較優位を築き、『グリーン電力』と水素を輸出するようになるだろう」とサイディ氏は締めくくった。