エフレム・コサイファイ
ニューヨーク:米国の有権者にとって2020年大統領選挙はジェットコースターに乗っているようなものだ。どちらの候補の側に乗っているとしても。
候補者が当選に必要とする270という選挙人団票のマジックナンバーが変わることはない。しかし、投票が締め切られて2日が経過しても、重要な激戦州で一般投票の集計が続くなか、くだんの数字は動く標的のように見える。
最新の開票経過報告で両候補者の得票率はきわめて接近しており、木曜日午後の時点で、アリゾナ、ペンシルベニア、ネバダ、ノースカロライナ、ジョージアの各州では当選確実は出されていない。選挙の結果はこれらの州のいくつかの組み合わせによって決まる。
米国の選挙にまつわる数学っぽい頭の体操にとまどっている人には、この1週間のはらはらさせる状況を通じて、複雑なシステムの背後にある道理が明らかになったはずだ。政治家がおおかた無視している、あるいは忘れてしまっている、遠隔の地や農村部の郡の有権者が、指導者の選出にあたってはニューヨークやカリフォルニアなど人口が密集した巨大な州の有権者と同じだけの発言権を持つことを保証するように、システムが設計されている。
1億4000万以上の票がすでに集計され、現在の状況では、結果はペンシルベニア州で今後集計される約100万票、ドナルド・トランプとジョー・バイデンの得票差が紙一重のジョージア州での40万票、そしてアリゾナ州の40万票で決まる。
アメリカ人の、そして世界中の人の眼は今、選挙後にはほとんどの人が忘却の彼方に追いやってしまいそうな名前の郡に注がれている。アリゾナ州のマリコパ郡やジョージア州のフルトン郡などだ。
それらの郡では、決定権はマイノリティに与えられる可能性がある。例えば、プエルトリコやドミニカ共和国出身のラティーノは、ハリケーン・マリアの際に自分たちの故郷をトランプがどのように扱ったかに不満を抱いていたが、大挙して投票所に向かい、反トランプの票を投じた。あるいは、キューバ系アメリカ人は、社会主義の脅威が感じ取れる状況下で、反社会主義の立場をとる大統領の下にはせ参じていた。そのいやな感覚の状況は、コミュニティが数十年にわたって社会主義体制下であえいできた苦難の歴史を思い出させるものだ。
また、ジョージア州のアトランタ郊外のアフリカ系アメリカ人は、人種差別との闘いで自分たちの側に立たないと見なしている現職大統領ではなく、バイデンを選択した。一方で、フロリダ州マイアミ・デイド郡の黒人男性がトランプに投じた票数は予想より多かった。バイデンが自身への投票を当然視していたことが、この若いコミュニティには心地よく響かなかった。
木曜日の午後遅くにホワイトハウスは「制限」と告げた。この用語は、その日はもう新たな発表はないという発表のために用いられる。トランプはカメラを遠ざけ、顧問団と協議を続けた。選挙に負けた場合に結果に異議を申し立てる法廷闘争を起こす可能性があるが、それに向けた準備だ。トランプは、自分が負けるとしたら選挙で不正が行われた場合だけだ、と示唆した候補者だ。
すでにトランプ陣営はあたふたと訴訟を起こしている。ミシガン州でバイデンが当選確実になるとすぐさま、共和党員による開票監視が認められるまで同州の集計を停止することを求める訴訟を起こした。ペンシルベニア州でも同じような訴訟を起こしており、最高裁まで闘うつもりのようだ。
トランプは、負けたとされるが0.5パーセントしか差がなかったウィスコンシン州での再集計も求めている。ジョージア州での投票用紙の取り扱いについても異議を申し立てており、陣営はチャタム郡の選挙管理当局者を相手どって訴訟を起こそうとしている。同郡では、投票締め切り後に届いた投票用紙が不適切に集計されているという疑惑が持ち上がっている。
トランプのこの好戦的な姿勢を、政権の多くの高官が前面に立ち、コメントすることで援護している。高官たちは選挙の信用を貶め、選挙の健全性を疑わしいものにしようとしている。
例えば、大統領の子息エリックは水曜日にツイッターにメッセージを投稿して、100万票以上の集計がまだ残っている段階で、ペンシルベニア州での父親の勝利を宣言した。ツイッター社はすぐにそのツイートに断り書きを付け加えた。「公式の情報源は、(ペンシルベニア州の)闘いでこのツイートのとおりには当選確実を出さない可能性があります」。木曜夜の時点で、同州の開票結果はきわめて僅差で、当選確実は出されていない。
トランプの盟友ルディ・ジュリアーニはテレビカメラの前で突飛な主張を行った。郵便投票の投票用紙は火星からやってきた可能性があるとか、ジョー・バイデンは「5,000回投票できたのではないか」など。
トランプとはまったく対照的に、ジョー・バイデンは集計が続く状況下で慎重に言葉を選んでいる。開票結果が自分に有利な方に変わってきているように思える状況でも、勝利宣言したい誘惑を抑えて、選挙制度への信頼を表明している。
僅差の場合には両候補者とも結果に異議を申し立て、再集計を要求する権利があるが、バイデン陣営では、選挙が適切さを欠いていると訴えるトランプの訴訟は「迷惑な」戦術に過ぎないと見ている。主張の裏付けとなる証拠がほとんど存在しないように思えるためだ。例えば、集計プロセスは透明性を欠いているという主張は、すべての集計センターに監視カメラが設置され、いっさいの作業がライブでストリーミングされて世界中の人が見ている状況では、理屈に合わないと考えている。
しかし、すべての法的な異議申し立てが最高裁のはるか手前で棄却されることを願いながらも、民主党は強力な法務チームの準備も整えたことを明らかにしている。予測不可能なトランプは敗北を突き付けられたときにどういう行動に出るかわからないという恐怖に駆られるように、民主党ではこれまでのどの陣営も策定したことのない最大の選挙防護プログラムを作成しており、しかもそれを使用する準備ができていると発表した。
「私たちは選挙に勝利しようとしている、私たちは選挙に勝利した、私たちはその選挙を守るつもりだ」と、バイデン陣営の法務責任者であるボブ・バウアー弁護士は語った。
残りの票が集計されるのにたいへんな時間がかかっていることに多くの人がフラストレーションを覚えるなか、ペンシルベニア州の民主党知事トム・ウルフは、同州で時間がかかっていることについて何の謝罪もしなかった。
「これは採用手続きだ。有権者が指導者を選んでいるのであって、その逆ではないことを、私たちは確かなものにする必要がある」と述べた。
同州を相手どってトランプ陣営が起こした訴訟について、ウルフは「民主的な手続きを打倒しようとする(不名誉な)企て」と表現し、「すべての票が確実に集計されるように、私の権限のすべてを行使して死に物狂いで闘う」と誓った。
同州の集計を停止させようとするトランプの企てに対して、ペンシルベニア州のキャシー・ブックバー州務長官はさらにそっけなかった。「私たちは最後の票が集計されたときに決定できる」。
ブックバーは、100年前の憲法修正第19条の採択で最高潮に達した、参政権獲得を求めるアメリカ女性の長い闘いと、選挙での人種差別を禁じた1965年投票権法についても喚起を促した。
そして、「ペンシルベニア州のすべての票のために私たちが闘うにあたって、私はそのすべての日々と共にある」と語った。
世論調査家や専門家は今回の選挙に関して非常に多くの点で間違ったが、次の一点では正しい。「今回の選挙の物語の終わりはまだはるか先だ」。