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地球とその住人を救うためにお金を出すのは誰か?

国連の後押しの下、2016年に署名されたパリ協定では、世界の気温上昇を許容範囲内に抑えるために、196カ国が個々の温室効果ガス(CO2)の排出量を制限する目標に合意しているが、この合意を受けて、気候変動と戦うための「マスタープラン」は存在しない。
国連の後押しの下、2016年に署名されたパリ協定では、世界の気温上昇を許容範囲内に抑えるために、196カ国が個々の温室効果ガス(CO2)の排出量を制限する目標に合意しているが、この合意を受けて、気候変動と戦うための「マスタープラン」は存在しない。
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25 Jan 2021 03:01:55 GMT9
25 Jan 2021 03:01:55 GMT9
  • 気候変動に対する湾岸協力会議(GCC)の意識の高まり

アンソニー・ローリー

アラブニュースジャパン特集

東京:米国大統領に就任したジョー・バイデンが取った最初の一連の行動の一つは、ドナルド・トランプ前大統領が離脱した気候変動の抑制に関する法的拘束力のある国際条約であるパリ協定に米国を再び復帰させ、またジョン・ケリー元国務長官を米国の「気候変動対策のツァー(全権委任者)」に任命することだった。

どちらの動きも、地球温暖化の結果として、火災、洪水、ハリケーン、干ばつ、病気(ほんの数例に過ぎない)などの脅威の増大に直面している地球にとっては朗報であった。さらに、米国、中国、日本、欧州連合(EU)などの大国が炭素排出量の目標を設定したこともまた朗報である。

しかし、地球と78億人の人類が直面している存続に関わる脅威から地球を救い、貧困、不平等、資源競争をめぐる社会不安(あるいは戦争)の脅威など、他の巨大な社会経済問題を解決するという課題は、まだ「解決したこと」とはとても言い難い状況にある。

バイデン政権がトランプ時代よりもはるかに啓発的な態度と行動にシフトし、排出量目標が広く採用されているにもかかわらず、必要な変化を誰が実施し、その費用を誰が負担するのか、という問題は未だに解決されていない。

国連の後押しの下、2016年に署名されたパリ協定では、世界の気温上昇を許容範囲内に抑えるために、196カ国が個々の温室効果ガス(CO2)の排出量を制限する目標に合意しているが、この合意を受けて、気候変動と戦うための「マスタープラン」は存在しない。

同様に、自然災害の起こる頻度と規模の加速、気候変動に対応するための交通やエネルギーシステムなどの重要なインフラの構築の必要性など、気候変動に直接または間接的に結びついた巨大な課題に対処するための壮大なマスタープランは作成されていない。

湾岸協力会議に参加している国々は、直面する脅威を実感する立場にある。エルゼビア出版グループの専門誌「サイエンス ダイレクト(Science Direct)」が報じたところでは、アラブの国々の地域の気候は「人間の活動により、年ごと、10年ごとに急速に変化している」。

「アラビア湾岸地域では複数のレベルで気候変動に関心を持っており、(同地域での)意識は確実に高まっている。実際、気候変動の可能性は、食料安全保障、再生可能エネルギー、公衆衛生など、多くのセクターやシステムに影響を与えている」と、サイエンスダイレクトは指摘している。

「湾岸諸国の人々が享受している富と贅沢は、気候変動の影響を受ける。この影響は、降水量(降雨量)の著しい減少に伴う地域の周囲温度の上昇など、多くの形で明らかになりつつある」と同誌は付け加えている。

しかし、気候変動のような実存的な脅威の深刻さを認めることと、その問題を解決する方法を見つけることとは、別次元の話しである。広く行き渡っている見方として、政府が対応するだろうという見方と、いや民間企業が対応できるであろうというものがある。どちらも問題を単純化しすぎである。

具体的には、2016年に承認された国連の持続可能な開発目標(SDGs)が課題の本質とその解決方法を明らかにし、いわゆる「ESG」(環境・社会・ガバナンス)投資(これも国連のアイデア)がSDGsの資金調達の方法を提供していることが想定されている。

「地球を救おう(Save the Planet)」という呼びかけは、かつては一部の変人の活動とみなされていたが、それ以来、彼らの見解に対する惜しみない敬意以上のものを獲得し、個々の気候変動活動家の集団を超えて全世界に広まっている。気候変動に伴う自然災害の急増とともに、気候意識が高まってきている。

長い間、気候変動の脅威を隠蔽してきた無知と無関心の暗闇は、ようやく啓発の兆しが見えてきたが、地球とその住民の将来にもたらされる気候に関連した社会経済的な脅威の全容は、まだ十分には理解されていない。

悲惨な結果を招く気温上昇を防ぐために二酸化炭素の排出量を削減するということは、発電に使う化石燃料を再生可能エネルギーに切り替えることを意味する。

しかし、無数の炭鉱や化石燃料発電所を閉鎖したり、これらの「座礁資産」を償却したりする費用は誰が負担するのだろうか。

新たな発電所の建設資金は誰が提供するのだろうか、あるいは製造業に欠かせない鋳物工場や製鉄所を建て直すための資金は誰が出すのか?何十億台もの自動車をガスから電力に切り替えさせるための費用を、誰が払うのだろうか?環境に配慮した無数のプロジェクトへの投資資金はどこから出てくるのだろうか?

先進国や開発途上国の経済に対する気候変動の影響を緩和するには、何兆ドルもの費用がかかる。言うまでもなく、感染症(新型コロナウイルス感染症など)の蔓延に対処するための、保健施設や衛生設備の改善に必要な莫大な金額も必要となる。

ある英国銀行の高官が見積もったところでは、国連の持続可能な開発目標に沿って、持続可能な低炭素経済への移行にかかるコストは、2020年から2030年までの10年間で、新規投資ベースで最大90兆ドル(世界のGDPの1年分に相当)に上るとされる。

人間の活動に欠かせないインフラ(輸送、エネルギー、通信)整備も、莫大な支出が必要となる分野である。公式の推計では、インフラ整備にかかる費用は、2030年代半ばまでに100兆ドルに達するとされる。

誰がこのような莫大な支出に資金を提供するのかは、良い質問であり、これまで真剣に問われてこなかった。国連は、5年前に「持続可能な開発目標」を発表した際に、費用負担に答えることに挑戦したが、それ以来、説得力のある回答はされていない。

国連加盟国は2016年、経済的福祉と社会の安定を維持し、環境の悪化を食い止めるために、投資を投入する必要がある幅広い分野について合意している。これらは、貧困を終わらせ、繁栄を確保し、地球を守るという幅広い目的をもって17の目標として掲げられている。

この17の目標は、国連開発計画の説明するところでは、「貧困を終わらせ、地球を守り、すべての人々が平和と繁栄を享受できるようにするための普遍的な行動の呼びかけ」を表している。その中には、気候変動や「持続可能な消費」の必要性を扱うものも含まれている。

国連は、こうした野心的でありながらも不可欠な目標を達成するためには、2015年から2030年までの15年間で、毎年5兆ドル、又は総計で約75兆ドル、ほぼ世界の国内総生産の1年分に等しい金額が必要と推計されている。

このような莫大な金額は、あまりに多額で正確に把握することが困難であり、また、推計値のぶれも、そもそもが「大まかな推計」に過ぎないと言われるだけ、非常に大きいため、容易に混乱を呼び起こす。それにもかかわらず、この推計値は、地球の将来に巨額な財政負担が待ち構えていることを認識させるのに十分なインパクトを持つ。

国連は、世界中の政府がSDGsの資金調達コストの半分以上を毎年支払うことには無理があり、政府が支払えない金額は、民間部門が担う必要があることを示唆している。つまり、年間平均で2.5兆ドル、現在から2030年までの期間で25兆ドルの負担が期待されている。

世界銀行グループの推計によると、世界の民間貯蓄の利用可能額は約270兆ドル、世界の年間GDPの約3.5倍であることを考えると、これは可能なように見える。しかし、民間貯蓄のほとんどがすでに投資済みであり、簡単には地球を救うことにシフトは出来ない。

ESG投資の動きは、企業や金融資産家に、投資方針において環境及び社会的(ガバナンス含む)な目標を受け入れる義務を課しているため、国連気候変動およびその他の開発目標の資金調達を支援するのにある程度貢献することが期待される。

しかし、これは、気候変動やその他の社会経済的目標を実行する権限と能力を持つ、専門機関を設立することとは大きく異なる。それでも、ESGはすでに、地球を救うためのより良いグローバルな計画に期待する機関投資家や個人投資家から20兆ドルもの資金を集めることに成功している。

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