ナダル・サモーリ
大阪:破壊、打撃、衝突、粉砕はどれも不完全な人間の生活と切り離せない。人間ならではの性質を避けようとすれば疲弊し、完璧を目指しても落胆するだけだ。
だからこそ不完全さの中に美を見いだすことについて語る意味がある。その考え方が実に優美に現れているのが金継ぎだ。椀を手当てし、欠けた陶器を純金の継ぎで復活させる日本の伝統的な修復技術で、「欠陥」を隠すよりも強調するのが特徴である。
金継ぎは、捨てられた器を再利用するサスティナブル・アートである。その歴史は15世紀の茶道の成立にさかのぼる。「きん」は黄金、「つぎ」は継ぎ合わせることである。合わせると「黄金で継ぎ合わせる」、「黄金の指物」という意味になる。あらゆる創造物には生命が宿っていると考え、物をきわめて大事に扱う日本人の習慣が昇華した技術だ。また、不完全さに美を見いだす「侘寂」(わびさび)の美学とも関係がある。
本来の金継ぎにはおびただしい忍耐が求められる。それでも、漆を塗り、器を完全な形にする作業は心を無にしてくれる。器に集中すると癒しの効果が得られる。陶器の修復は自己を回復させる。器だけでなく、それを修理する人にも癒しの変化をもたらす。
「1つの金継ぎを仕上げるまでにだいたい1カ月かかります。市販の金継ぎには、接着剤などの石油系の素材が使われています。一方、伝統の手作業では金粉を混ぜた漆を使います」と杉中伸安氏は言った。
杉中氏は滋賀県に「宗永堂」という名の工房を持つ金継ぎ職人だ。金以外にもさまざまな色、模様、素材を使う「変わり継ぎ」という珍しい技法を専門としている。また、漆の匠でもある。漆は壊れた陶器のかけらをつなぎ合わせ、かけらを失くした隙間を埋めるときに使う接着剤である。
漆を塗った後、純金、銀、またはプラチナをちりばめる。丼や湯飲み、水差しに引かれた線はそれぞれ特徴的で、独特のDNAのようなものが感じられる。
「金の線は隙間に沿わせるのが普通です。デザインしてレイアウトしているわけではなく、ひびや欠けで金の継ぎ目の形が決まります」と杉中氏は言った。
金継ぎは、手頃な価格の市販の塗布剤に押され、徐々に元来の特徴を失いつつある。金継ぎカップルと呼ばれる研氏とミチエ氏は、彼らのコンサルティング会社、Isono Revitalizing Office合同会社(イソノリバイタライジングオフィス)を通じて杉中氏にアプローチした。この会社はアートが専門で、杉中氏以外にも、日本の消えゆく工芸品の事業とその地元のビジネスの活性化を支援している。
「私たちは器の細い線を美しいと考えていて、金継ぎをした後の器全体に調和が生まれるように細部まで気を配ります。通常、割れ目を確認するときは容器の内側から光を当てます。光の漏れ方で割れ目の位置が分かります」とミチエ氏は言った。
ケン氏も付け加えた。「そして最後にコツコツと叩いてテストします。少しでもひびがあれば音で分かります。修復が完了していれば軽い音になります」
ひび割れは一筋縄ではいかない。形も大きさもいろいろで、ひびが大きければ大きいほど多くの黄金が必要になり、その分、器の価値が上がる場合もある。
「金箔を貼ることもあります。薄い黄金のシートで大きな亀裂を覆うのです。その上に漆を塗って、表面をつやつやにします」と杉中氏は言った。
金継ぎが生み出すのは驚異的な美の形だけではない。職人を「フロー状態」に導くことができるのだ。これは日本語で心がない様子を意味する「無心」に近く、僧侶や瞑想者、アーティスト、武道家が禅の修行を通して体験する状態だ。
さらに、金継ぎが何より印象的なのは、傷ついた人に関連があるからだ。人は自分自身のひび割れや人生の問題、不運な状況ばかりを見て、それを黄金で癒す機会を逃してしまう。
世界とその社会は、MENA地域における過去10年間の位相の相対的な急変、Covid-19、あるいは日本で頻発する自然災害まで、逃れられないダメージであふれている。失われたかけらの追想にひたるよりも、割れ目を見つめ、それを黄金で埋めていくような金継ぎ社会の実現に視点を移すほうが建設的だ。そうすれば、不運な状況から新しい考えや創造が生まれることもあるだろう。
亀裂が大きければ大きいほどたくさんの黄金が使われ、器の価値も上がるのである。