

ラワン・ラドワン
ジェッダ: 世界保健機関(WHO)によると、乳がんは2020年に世界で230万人の女性の人生に影響を与え、その年だけで68万5千人が亡くなっている。この病気が生存者とその家族に与える心理的代償に関する資料としての記録は多くない。
サウジアラビアでは乳がんは全てのがん診断の31%を占め、最も一般的ながん疾患となっている。同国にマンモグラフィーが導入されたのは2002年だが、55%の症例が後期段階で発見されており、回復可能性の低下要因になっている。
いくつかの研究では、局所または領域浸潤性乳がんと診断され、治療を受けて完治したとされた女性の20~30%が再発を経験するとされている。そのため、生存者はがん再発の不安を常に感じている。
診断後、そしてがんを克服していく過程で適切に向き合っていく方法を見つけることは、治療の効果や生存率に直接的な影響を与える可能性がある。
がんは生活のあらゆる場面に大きな影響を与え、さまざまな感情的・行動的反応を引き起こすため、患者ががんに向き合う際に「万能」で役立つアプローチはない。
ジェッダの精神科専門医であるアリ・ザイリ博士はアラブニュースに対し、治療中・治療後の乳がん患者の心理社会的適応は、障害とともに生きることを学ぶ患者や末期患者と何ら変わりがないと話す。
実際、診断を受けると心理的に壊滅的な打撃を受けることがあり、不確実性、不安、絶望、あきらめといった感情を引き起こす。うつ病を含む精神的苦痛はよくあることだ。
ザイリ博士はがん患者を大きく2つのカテゴリーに分類している。対処能力が高く、診断を受け入れ、治療に適応できる患者と、否認段階が長く、激しい感情的混乱に苦しむ患者だ。
「前者は、うつ病や不安神経症、睡眠障害、情緒不安定、気分障害に悩みにくい傾向があります」とザイリ博士は言う。「そういう患者は、例えば、日常生活をできるだけ普通に過ごすということに関して、よりうまく対処できます。そういう行動はストレスのバランスを取り、ストレスを最小限に抑えるのに役立ちます」
後者は治療に協力せず、医師のフォローアップを受けることを怠り、危険なライフスタイルを止めること拒否・拒絶することが多く、うつ病や不安神経症、感情的混乱、睡眠障害、摂食障害を起こしやすいという。
「そういう患者は感情をコントロールできないので、怒りをぶちまける可能性が非常に高いです。そういう人たちは孤立しがちで、他人と接するときにイライラして問題を起こしがちな傾向があります」
2児の母で36歳のエラフ・バグダディさんにとって、リンパ節炎(1つ以上のリンパ節に感染する病気)の病歴がより深刻な問題となる可能性があるとは思いもよらなかった。
「成人してからもリンパ節は感染しやすいので定期的にチェックしており、手術のような治療行為はこれまで1、2回しか受けたことがありません」と彼女はアラブニュースに話した。
「2019年の定期検診では何も問題がなく、COVID-19のパンデミックがあったため次の定期検診を受けるのが遅れました」
「数ヶ月前、体がとてもだるくなって体調がすごく悪化し、しょっちゅう寒気がして、ある時熱っぽくなり、その後、一連の奇妙な症状を感じ、最後にしこりができました。変だなと感じるのには十分でしたが、大ごととは思っていませんでした」
リンパ節にまた炎症が起きたのだろうと思い、バグダディさんは夏に内科を訪れた。しかし、この時は「念のため」とさらに検査やスキャンをお願いした。数週間後、彼女は乳がんと診断された。
「最悪の事態に備え、検査結果に記載されたコードを解読しようと常に検査用語について調べていたため、最初のショックはありませんでした。腫瘍医から何を言われても受け入れる覚悟はできていました」
「腫瘍医の方は時間をかけて優しく親切に、自分だけでなく家族も一緒になって落ち着けるような適切な説明をして下さいました」
バグダディさんが診断、生検、手術、治療という困難に立ち向かうことができたのは彼女の穏やかな人柄のおかげだ。
「初めて心が折れたのは乳房切除の直後でした。それは2日目のことだったのですが、隣でコーランを流していたら、ある一節で涙腺が崩れました」と話す。
「難しくなることは分かっていたし、準備もできていましたが、十分に準備ができることなんてないのです。ある短い一節で、私たち人間がどんなに弱いかということを思い返し、心が揺れました」
「大したことないとごまかすことなんてできません。これは大変なプロセスなのです。そして私の場合、あることがきっかけで次につながりました。月末までに化学療法を開始する予定です。でも私は人生を楽観的に考えるタイプですし、愛する人たちに囲まれて希望を持ち続けられるのが助けになっています」と彼女は語る。
数年前、メディアタレントから作家に転身したオマイマ・アル・タマミさんもがんとの闘いを始めた。乳がんの発見は誤診で遅れたものの友人や家族の支えで克服できたが、心のセルフケアが特に重要だった。
「私は闘病中ずっと、強く、前向きで、充実して、元気でいるように努めました。そうすることで周りの人たちにも力を与えられるし、自分の病気に対しても同じアプローチを取ることができたのです」と彼女はアラブニュースに語る。
実際、友人や家族、同僚はがん患者に影響を及ぼす感情的な環境に注意を払わなければならない。多くの人にとっての最初の反応は同情であり、それは患者にとって複雑な拡大効果をもたらす可能性がある。
アル・タマミさんはがん患者には同情は必要ないと言う。代わりに、がん患者は病気と正面から向き合うために正直で率直な会話を必要としているのだ。
しかし、このような率直な会話は誰にとっても口にするほど簡単なことではない。
「私は暗い性格で自殺願望があり、痛みの閾値がなく大丈夫ではありませんでした」と政府部門をリタイアした55歳のラジャア・アル・カティーブさんはアラブニュースに話す。
アル・カティーブさんは代々乳がんの家系であることを知っていたので毎年必ずマンモグラフィーを受信し、健康的な生活を送ってリスク低減に努めていた。それにも関わらず乳がんと診断されたときは大きなショックを受けた。
「ショックが大きすぎて耐えられませんでした。私は自分自身で孤立してしまい、怒り、疲れ、常にボロボロの状態でした。トンネルの先に光が見えたなら、その瞬間に這ってでも逃げ出したい気持ちでした」
診断から1年経ってアル・カティーブさんは事態を受け入れ始め、自分自身を教育し、心の中の強さを見出すのを助けてくれた人々と時間を過ごすようになった。
「知り合いの8割方とは縁が切れ、かつて親友と呼んでいた人たちも赤の他人になってしまいました。愛する人をがんで亡くしたことでがん患者との付き合い方を知っている人たちの中に私は救いを見出しました」
「がんは残酷です。髪の毛がどんどん抜け落ち、顔色や特徴も消え、ほとんど自分が分からなくなり、抗がん剤治療の副作用で体は毒素だらけになるのです」
「そんな中、一番大切な人たちのサポートこそが痛みに耐える気力を与え、外に出て世界を見たり、この牢獄から抜け出すそうと頑張る力を与えてくれるのです。」