ラハイナ時事:米ハワイ州マウイ島の山火事では、島西部のラハイナに被害が集中した。岬に位置し、景色や文化を楽しめる場所として愛されたラハイナ浄土院(浄土宗)も猛火にのみ込まれた。住職の原源照さん(87)は16日、時事通信のインタビューに応じ「へこたれていられない。再興したい」と語った。
「山火事は年中行事。ただ、あの日は風が異常だった」。原さんは火災が発生した8日を振り返る。午後3時ごろ、本堂の扉が壊れた。熱風が吹き付ける中、警察に促されて妻や娘、孫と避難した。本堂や三重塔は焼失した。
ご本尊は置いてきたはずだった。しかし、現場に残った尼僧が運び出し、翌日、原さんの元に届けてくれた。「自責の念でいっぱいだった。命を顧みず助け出してくれた」と声を震わせて感謝した。「長い年月がかかるかもしれないが、お寺を再興していかないといけない」と決意している。
原さんは長野県山本村(現在の飯田市)出身。浄玄寺の長男だったが、1963年、ハワイの浄土宗の僧侶に誘われ、ラハイナ浄土院の主任開教使となった。5年たった68年、浄土院が火災で全焼。原さんは不在で、妻がご本尊を抱えて避難した。
70年に同じ場所に再建された浄土院は、三つの島を見渡せる眺望に加え、夏には大勢が集まって盆踊りが行われるなど、日本文化に触れられる場として親しまれてきた。ハワイの日系移民を描いた倉本聰さん脚本のテレビドラマ「波の盆」(83年)の舞台にもなった。
火災後、寄付や激励の申し出が相次いだ。失ったものは大きいが「善意に報いる形で前進しなければならない」。原さんは声を詰まらせ、前を向いた。
時事通信