ニューヨーク:上川陽子外相は23日(日本時間24日)、訪問先の米ニューヨークで中国の王毅共産党政治局員兼外相と約1時間会談した。広東省深セン市で日本人男児が刺殺された事件について、会談時間の多くを割いて協議。上川氏が容疑者の厳正な処罰を申し入れたのに対し、王氏は日本側の「冷静な対応」を求めた。
事件は日本人学校の10歳の男児が登校中に男に刃物で刺され死亡した。動機や背景は明らかになっていない。
上川氏は、犯行の動機など事実の解明を急ぐよう強く要求。邦人の安全確保のため、具体的措置を講じるよう求めた。根拠のない悪質で反日的なSNSの投稿などに関し、取り締まりを徹底することも申し入れた。
これに対し、王氏は「われわれも目にしたくない偶発的な個別事案であり、法律にのっとり処理していく」と説明。中国外務省によると、王氏は「政治問題化と事態の拡大を避けるべきだ」とも訴え、日本側に「冷静かつ理性的」な対応を求めた。
中国側が事態の沈静化に躍起になるのは、中国国内の「反日感情」と事件が関連付けて受け止められれば、政治問題化し日中関係に深刻な打撃を与えかねないためだ。官邸関係者は「対応を誤れば取り返しがつかないと中国も分かっている」と指摘する。
中国では6月に江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子が襲撃される事件が発生した。日本政府関係者は、「偶発的事案」を強調する王氏の発言について、「中国全体の問題ではないと主張したいのではないか」との見方を示した。
会談では、中国による日本産水産物の禁輸措置緩和についても意見交換。上川氏は、規制の撤廃に向けて「目に見える進展を確実に示したい」と述べた。日本外務省によると、王氏から輸入再開の具体的な時期の言及はなかった。
上川氏は、8月の中国軍機による領空侵犯や9月の空母「遼寧」による接続水域航行に関し、「深刻な懸念」を改めて伝えた。
時事通信