
【ロンドン時事】公衆衛生の専門家で英キングス・カレッジ・ロンドン教授の渋谷健司氏がこのほど時事通信のインタビューに応じ、新型コロナウイルス感染拡大により来夏に延期された東京五輪開催について、「世界では(感染拡大の)ペースが上がっている。まだまだパンデミック(世界的流行)はこれから広がっていく。今の状況では非常に難しい」との見方を示した。主なやりとりは次の通り。
―五輪が開催できた場合、大会中に必要な感染予防策は。
まずは日本に来る方に検査を徹底することが大事だし、さまざまな条件をクリアする必要がある。それは1カ国だけでも難しいし、世界中から(人が集まる)となると非常に困難。競技場の条件や観客のことを考慮すると、運営面のハードルは非常に高い。
―大会の開催可否を決めるべきタイミングは。
第2波がこれから来て、南半球に(感染被害が)広がることを考えると、感染流行の予測から言えば(開幕4カ月前に延期を決めたのと)同じような時期になるのでは。
―ワクチン開発のめどは。
「最短で18カ月」と言うのは、本当に最短だと思う。ワクチンが行き渡るまでには相当時間がかかる。五輪までには間に合わないと思う。年内に承認されるかもしれないが非常に(可能性は)低いし、来夏に間に合わせて量産するのは、ほぼ無理だと思う。
―ワクチンがない中で五輪を開催するには。
唯一のやり方としては、検査を定期的にやるしかない。完全には止められないが、水際対策となると検査しかない。五輪のためというより、(日本に)入ってくるための条件になる。
―競技によってリスクの大きさは異なる。
室内競技は非常に大きいが、一番駄目なのは一律で自粛したり、同じ行動を取ったりすること。個別に対応していかないと、できるものもできなくなってしまう。
―選手村の運営も難しい。
五輪の選手は若くて元気な人が多い。無症状の人が自覚なく広げていく可能性は高い。世界中から来る人が、社会的距離などを守れるのか。集団で食事をしないとか、徹底的に管理しないと難しい。
―東京五輪は真夏の開催。
今のところ(新型コロナの)季節性は明確ではなく、暑いから広がらないということもない。傾向としては乾燥した冬の方が広がるが、夏でも安心できない。
◇渋谷健司氏の略歴
渋谷健司(しぶや・けんじ) 公衆衛生学の専門家。東京大医学部卒。米ハーバード大で公衆衛生学博士号を取得。01年から世界保健機関(WHO)でシニア・サイエンティストなどを歴任。WHO事務局長上級顧問。英キングス・カレッジ・ロンドン教授。東京大客員教授。
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