
東京オリンピックはすでに夏季大会の最高出費額を記録しており、経費は今後も増加する予定であると、英国オックスフォード大学の広範囲の研究結果が示している。
東京大会のコストはすでに200%を超えていると、主執筆者のベント・フライヴバーグ氏はAP通信社のインタビューで説明した。ここにさらに、新型コロナ感染拡大による翌年への延期で数十億ドルが追加されることになる。
フライヴバーグ氏は、オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールの経済学者である。彼の全研究をこの論文で見ることができ、論文は雑誌『Environment and Planning A: Economy and Space(環境と企画A:経済と宇宙)』の9月15日号に掲載される予定だ。タイトルは、『Regression to the Tail: Why the Olympics Blow Up(最後部までの後退:なぜオリンピックは失敗に終わるか)』である。
2021年7月23日まで延期された東京大会は、焦点を当てたなかの一部分に過ぎない。論文は2012年と2016年の版に続くシリーズ3本目であり、1960年からのオリンピック経費を調べ、コストは削減されているとの国際オリンピック委員会(IOC)の主張にも関わらずコスト上昇が続いていることを明らかにしている。
フライヴバーグ氏は、経費が上昇・超過する多くの理由を挙げ、IOCにその解決策を提唱している。コストの大部分は各政府が引き受けており、IOCが寄与するのはほんの一部に過ぎない。
「オリンピックは、ひとつの都市が引き受けることのできる最高レベルのリスクをもたらします」とフライヴバーグ氏はAP通信に語った。「この傾向を続けていくことはできません。どこの都市も、このようなことはしたくないでしょう。あまりにも法外な額で、ほとんどの都市が賄え切れないほどの負債になりますから」
論文のなかでフライヴバーグ氏は、2024年のパリに続いて2028年に開催が予定されているロサンゼルス市のエリック・ガーセッティ市長に言及している。
「政府が負債を抱えたり大会費用を助成したりすることを厭わないようなところであれば別ですが、正しいモデルを見つけ出さない限り、ほとんどの都市は今後一切オリンピック誘致にイエスと言わないことでしょう」とのガーセッティ市長の言葉を論文は引用している。
ガーセッティ市長の言う「正しいモデル」とは、もっと低コストの、という意味だ。
オリンピックのコスト追跡は難しく、重複や見解の違いという複雑な迷路にはまり込む。政治家や事務局は、どれがオリンピック費用でどれがそうでないかについて常に論議しているからだ。
フライヴバーグ氏は次のように書いている。「残念ながらオリンピック事務局や主催者たちは、大会のコストやコスト超過についてよく誤った情報を伝える。……よって我々は、主催者であるIOCや政府が、オリンピックの真のコスト、コスト超過、コストリスクについて信頼できる情報を供給してくれていると当てにすることはできない」
フライヴバーグ氏が着目しているのは、試合開催コストである運営コストと、スポーツ会場建設のための資本コストのみだ。彼は第3のカテゴリーを除外しているが、こちらのほうが通常は何倍も巨額になる。道路の改修や空港建設、そして彼が「プロジェクトの見栄えを良くすること」と呼ぶものに掛かるコストであり、それらも納税者にのしかかってくるのだ。
「我々の見積もりは控えめであり、我々の追跡できない隠れたコストがたくさんあります」とフライヴバーグ氏は述べた。「さらに、あまりにも複雑なために我々が含めないことにしたコストもたくさんあります。我々は、信頼の高い数値が入手できるものだけを含めることにしており、調査する各都市についてはすべて同様にそのやり方で調べています」
また、負債コストや、オリンピック後のスポーツ会場運営にかかる将来的なコスト、インフレ等も、考慮から除外しているという。
オックスフォード論文の数値は次の通り。東京大会の支出は158億4000万ドルで、これは夏季オリンピックのこれまでの最高額であった2012年ロンドンオリンピックの149億5000万ドルをすでに抜いている。1年の延期によるコストでさらに数十億ドルの追加が見込まれるという。
東京事務局は126億ドルを使ったと公式発表している。しかし国のある監査官によれれば、複数のオリンピック間での一貫性を欠くことになるとしてオックスフォード論文が省いた支出を加えると、実際のコストはその2倍になるという。
2013年に開催権を勝ち取ったとき東京都は、コストは73億ドルになるだろうとしていた。
「彼ら(IOC)は我々の研究結果に難色を示しているようですが、このような綿密な研究論文に反論するのは非常に困難です」とフライヴバーグ氏は述べた。「そして彼らは反論していませんし、できないでしょう。我々の研究は彼らにとって問題なのです」
AP通信へのメールでIOCは、最新版のオックスフォード論文をまだ読んでいないとしてコメントを控えた。そして、マインツ大学とソルボンヌ大学による別の研究論文を引き合いに出した。
こちらの論文もオリンピックはコスト超過であると結論付けているが、しかしそれは他の大規模プロジェクトと同様の範囲だと述べている。しかしフライヴバーグ氏の研究論文は、それは違うとしている。
フライヴバーグ氏はIOCと断続的に接触しており、IOCのセミナーに研究者を派遣してきた。コスト上昇の大きな理由は、IOCがその支払いをしないからだと彼は述べている。彼はまた、安全面のコスト上昇や開催地を世界中に移動させていることにも触れた。新たな開催都市は基本的にゼロから開始することになり、彼はこれを「永遠のビギナー症候群」と呼ぶ。
IOCは最近になってコストを制御しようとしているが、その努力は「あまりにもわずかであまりにも遅い」と彼は言う。
「彼ら(IOC)は開催仕様を定義しながらも、その経費を支払わないのです」とフライヴバーグ氏は述べた。「例えば、あなたと私が、自分たちの住む家の仕様を決めながらも、それについての支払いをしないのと全く同じことです。あなたはどんな浪費がしたい?よし、金箔を貼ろう、というように。これが長年にわたって行われてきたことなのです」
フライヴバーグ氏は、自分はIOC会長のトーマス・バッハ氏とゆっくり会話する機会を楽しんできたと言う。自分はオリンピックのファンなのだと言っている。
「IOCが話し合いを渋ってきたとか、私が渋っているなどということもありません」と彼は述べた。「我々は話し合いたいと思っているのです。我々はIOCに情報を把握しておいてもらうために、書面でコミュニケーションをとってきました。しかしもちろん、我々はトーマス・バッハ氏との席を持ちたいと思っています」
AP