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リビア洪水による死者数が露呈する紛争当事国での気候問題に対する認識と対応の分断

リビアのデルナ市で発生した洪水による惨状。2023年9月16日。(AP通信)
リビアのデルナ市で発生した洪水による惨状。2023年9月16日。(AP通信)
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29 Sep 2023 10:09:44 GMT9
29 Sep 2023 10:09:44 GMT9
  • 気候変動によって、リビア洪水へとつながった豪雨が発生する確率が最大50倍引き上げられ、今年のその時季の雨量が最大50%増加していたと、科学者らが明らかにした

リビア、ミスラタ / ベイルート:リビア東部を拠点とする議会のアズマハン・バラオン議員は、1ヶ月以上前に、同議会に対して気候変動委員会を設置するよう要請していた。

バラオン議員は、この問題について話し合う日程が設定されると聞かされていた。しかし、今月、豪雨により老朽化していた2つのダムが決壊し、破壊的な奔流が引き起こされ、死者を出すに至る洪水にデルナ市が襲われ、彼女の取り組みは無に帰してしまった。

海岸沿いの都市であるベンガジに拠点を置くバラオン議員は、「残念ながら、法律や選挙、そういった事に私たちが注意を払っていたことが妨げとなってしまいました」と語った。

暴風雨「ダニエル」は、紛争で引き裂かれたリビアの政治家たちよりもはるかに素早く移動し、インフラを圧倒する洪水を引き起こし、デルナの各所を押し流し、数百もの建造物を破壊したのだった。

国連は、この災害による死亡者数は4,000人を越えると正式に発表した。他方、8500人以上が依然行方不明である。

さらには、リビア北東部全域で40,000人以上が退避を余儀なくされており、内少なくとも30,000人がデルナ市内の住民であると国連は発表した。

特定の気象現象における地球温暖化の影響を調査する研究共同体である「ワールド・ウェザー・アトリビューション」の科学者たちは、気候変動によって、リビア洪水へとつながった豪雨が発生する確率が最大50倍引き上げられ、今年のその時季の雨量が最大50%増加していたと語った。

「ワールド・ウェザー・アトリビューション」の科学者たちは、また、氾濫原の建造物やインフラの劣悪な状態、長期にわたる武力紛争といった他の要素も今回の惨事の要因となったとか述べた。

リビアの状況は、アフガニスタンやアフリカのサヘル地域諸国の大多数の騒然とした国々の状況に酷似している。こうした国々は、政情不安や脆弱な統治といった深刻な問題を抱えた上で、増大する気候変動の脅威に対峙している。その結果、国民や資産を保護するための対策に必要な資金の獲得が増々困難となっているのである。

ノーベル平和賞受賞者のデズモンド・ツツ大主教は、2007年、こうした状況を「アダプテーション・アパルトヘイト」と表現した。

ツツ大主教は、国連の報告書で、「気候変動の脅威に直面する世界の貧しい人々を、彼ら自身の乏しい資源次第で溺れるなり泳ぐなりさせておくというのは、道徳的に間違っています」と述べた。「残念ながら…、それがまさに今起こっていることなのです」

この報告書以降、温暖化が進む世界の最前線に立つ脆弱な立場の人々のための資金が不足しているという指摘は、声を増々大にする気候正義活動家らによって、度々繰り返されてきたが、現実の世界においてはっきりとした変化が起きるには至っていない。

世界的規模で活動を展開する人道支援機関である国際救助委員会の国際プログラム担当上級統括副責任者であるキアラン・ドネリー氏は、「新たな種類の段階的システム」について語った。

ドネリー氏は、イエメンやソマリアといった気候変動の影響と紛争による政治的脆弱性に同時に悩まされている約15の国家を特定した。

さらに異常な気候や海面上昇に対する回復力を構築するために利用可能な資金の多くは、その受け取り手となる政府の能力を前提としている。この要件により、政治的に不安定な地域を除外するリスクが発生するのだと、ドネリー氏は語った。

「公共部門が脆弱な国々は…、(気候変動の影響に対応するための)資金へのアクセスを得られず、さらに不利な状況に追いやられることになります」と、ドネリー氏は語った。「それは、丁度、自己強化型の悪循環とでも呼ぶべき過程なのです」

気候変動が、リビアの政治的な言説に登場することはほぼ無い。しかし、デルナ市の西に位置するアル・バイダ市に住む政府職員で34歳のワリド・ファティ氏の生活は気候変動の顕著な影響を被っている。

今回の洪水により、ファティ氏の自宅の背後の壁が押し流され、隣家の7人家族が死亡した。

ファティ氏の給料からの僅かな貯蓄は、自宅の修繕に充てられることになる。ファティ氏は、今、気候を恐れ、冬に起き得る災禍を懸念しながら、不安と恐怖の中で暮らしている。

「どうすれば良いのか見当もつきません」と、ファティ氏は語った。「私たちは不安で一杯です。私たちには頼り先が無いのです」

国際的に認知されているトリポリの政府も、2019年にリビア国民軍(LNA)がジハード主義者を放逐して以来デルナ市を支配下に置いているリビア東部の政府も、長年知られていたダムの脆弱性を修復したり、暴風雨の来襲が予期される以前に住民を退避させる事はしなかった。

さらには、デルナ市の各所の住民はそれぞれ異なる指示を当局から受けたと、現地に居住する複数の家族が語った。海岸沿いの住民は避難するように勧告され、市中心部の住民は自宅に留まるよう告げられたと、住民らは述べた。

ハリファ・ハフタル将軍が率いるLNAは、2011年にNATOが支援した蜂起によってムアンマル・カダフィが打倒されて以来、分裂状態にあるリビアの東側半分を支配下に収めている。

リビア東部のアル・バイダ市近郊の空港のムハマド・マンフル司令官は、今回の洪水災害の責任は国際社会とリビアの東西両政府にあるとして、3者を非難した。

電話インタビューで、マンフル司令官は、「インフラに問題があり、建築や構造にも問題があり、ダムのメンテナンスの欠如にも問題があった」と述べた。

大災害発生の数時間後、LNAの指導者であるハフタル将軍は、現地のテレビ放送で、洪水被害を受けた地域は「困難で苦痛に満ちた時間」に見舞われていると語り、必要な支援を提供するよう指示したと付け加えた。

ロンドンを拠点とするシンクタンクである王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の中東・北アフリカ上級研究員のティム・イートン氏は、リビアで権力を掌握した人々の多くは、気候変動のような外的脅威から国民を守ることよりも、むしろ「権力の掌握を維持すること」に注力していると語った。

「誰も真剣に考えず、政治的言説の一部にすらなっていないとなると、気候変動対策を実行したり、そうした気候変動関連の資金を利用したりすることは絶対に出来ないでしょう」と、イートン氏は付け加えた。

今月初め、世界気象機関の会長は、分断されているリビアにおいても、もし気象サービスが機能していれば、今回の洪水による死傷者は皆無だったかもしれないと述べた。

リビア西部の首都トリポリの気象センターで、気候変動に関する技術的専門知識を持つ職員の数は「指で数えられる程度です」と、同センターの広報担当のビン・ラマダン氏は、コンテクストに語った。

トリポリの気象センターは運輸省の管轄下にあるものの、リビア全土の降雨量を正確に測定できるレーダーを備えてはいない。ビン・ラマダン氏は、行政は腐敗しており、官僚主義によって数ヶ月から数年発注が遅滞することもしばしばだという。

「政府が気象センターに対して十分な支援を行わない限り、気候変動への対応は不可能です」とラマダン氏は語った。「私たちは多くのことに失敗しています。それは辛いことです」

運輸省にコメントを要望したものの、速やかな返答は無かった。

同様の問題が、世界中で、気象サービスやインフラに影響を及ぼしている。

どのように備えられ、また、資金が提供されているのか否かによって、リビアのように気候変動の悪影響下に国民が無防備に放置されてしまうこともあれば、国民が適切に保護されることもある。将来の気候リスクに対応する計画を立て、備えを十分にしておくことが必要なのだ。

米国ジョージ・ワシントン大学工学部のケイトリン・グレイディ教授は、地球上のダムの大半が1960年代から1970年代に建設されたことを指摘し、その多くが現在寿命を迎えており、災害の発生に繋がる恐れがあると付け加えた。

グレイディ教授は、「今後も世界中で極端な豪雨が発生することでしょう」と語り、気候変動との闘いや気候適応の取り組みにおいて何かを変えない限り、こうした異常気象は数多くの地域で起こり続けると考えられます」と述べた。

ロイター

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