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ハマス支配下のガザ地区でのイスラエル人人質事件、ネタニヤフ首相にとっての政治的陥穽と化す

拉致したイスラエル市民をキブツ・クファル・アザからガザ地区に移送するハマスの武装グループ。10月7日未明、大型連休の油断を突いて、イスラエルに多方面からの攻撃を行ったパレスチナの武装勢力ハマスは、少なくとも130人を拉致した。(AP写真 / ハテム・アリ)
拉致したイスラエル市民をキブツ・クファル・アザからガザ地区に移送するハマスの武装グループ。10月7日未明、大型連休の油断を突いて、イスラエルに多方面からの攻撃を行ったパレスチナの武装勢力ハマスは、少なくとも130人を拉致した。(AP写真 / ハテム・アリ)
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09 Oct 2023 03:10:10 GMT9
09 Oct 2023 03:10:10 GMT9
  • 2006年にハマスの武装グループが若い徴集兵のギラッド・シャリット氏を人質とした事件では、最終的にシャリット氏の解放と引き換えに1,000人を越えるパレスチナ人拘禁者が釈放された
  • 今回、ハマスは、少なくとも130人のイスラエル人の人質と引き換えにイスラエルの刑務所に拘禁されているパレスチナ人全員(約4,500人)の釈放を求めている

エルサレム:ハマスの武装グループがイスラエル軍兵士や民間人(高齢の女性や子供、家族)数十人を人質としたことは、近年のいずれの危機的状況よりもイスラエル国民の感情を強く揺さぶり、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の極右政権に解決不可能なジレンマをもたらしている。

2006年にイスラム過激派組織がイスラエルの年若い徴集兵のギラッド・シャリット氏を拉致した事件は、イスラエル社会に何年もの間動揺を与え続けた。国民感情に突き動かされたイスラエル政府は、ガザ地区への激しい空爆を行い、シャリット氏と交換に1,000人を越えるパレスチナ人拘禁者を釈放するに至った。その多くがイスラエル人に対して手加減の無い殺人的な攻撃を行い有罪判決を受けたパレスチナ人たちだった。

今回、ガザ地区を支配下に置くハマスは、10月7日、多方面への電撃攻撃の一環としてイスラエルの民間人と兵士を拉致した。ハマスよりも小規模ながらより大胆な武装グループであるイスラム聖戦は、独自に30人を拉致したと8日に発表した。

ネタニヤフ首相とその同盟者であるタカ派の極右主義者らは、700人以上のイスラエル人がこれまでのハマスの攻撃で殺害されたことへの対応を求める強い圧力下に既にあり、今回のイスラエル人同胞の拉致拘束により更なる苦境に立つことになった。ハマスに対してイスラエル軍の全兵力を投入するとネタニヤフ首相が確言したことで、人口密集地のガザ地区全域で非公開の場所に散らばっているイスラエル市民の安全が深刻に危惧されるようになった。

イスラエル軍諜報部でパレスチナ部門の責任者だったミヒャエル・ミルシュタイン氏は、「イスラエル国防軍が展開できる方向や地域が制限されることになります」と今回の人質事件の現況について語った。「状況は一層複雑になるでしょう」

ハマス武装グループに2006年に捕らえられた兵士ギラッド・シャリット氏の解放を求めて2008年7月22日にテルアビブで開かれた集会に参加するイスラエル人たち。長期にわたって、シャリット氏の拉致拘束はイスラエル社会に動揺を与え続けた。シャリット氏は1,000人以上のパレスチナ人拘禁者と引き換えに解放されたが、その多くはイスラエル人に対して殺人的な攻撃を行い有罪判決を受けていたパレスチナ人たちだった。(AP / 資料写真)

シャリット氏の拉致拘束事件でもイスラエルの諜報機関が為し得なかった事ではあるが、今回ガザ地区内で拘束されているイスラエル人の人質の居場所を突き止めることにはさらなる難題が伴っている。ガザ地区は狭小で、イスラエルの地上軍と海軍に包囲されて、常に上空から監視されているものの、イスラエルの諜報機関にとって、テルアビブから1時間強のこの都市域には、依然把握しきれていない部分があると専門家らは語る。

ネタニヤフ首相の国家安全保障顧問を務めたヤアコフ・アミドロー氏は、「イスラエル人の人質たちの拘束場所は、私たちには分かりません」と語った。「しかし、このイスラエル人人質事件では、イスラエルは、ハマスが壊滅するまで空爆を続けることになるでしょう」

ハマスは、既に、イスラエル人の人質の解放と引き換えに、イスラエルの刑務所で拘禁されているパレスチナ人約4,500人(人権団体ベツェレムによる算出値)全員の釈放を求めていると述べた。

パレスチナ人たちにとって、イスラエルで拘禁されている同胞たちの運命は、感情的にならざるを得ない事柄に違いない。それは、丁度、イスラエル人たちが、ガザ地区で人質となっている同胞たちの運命に抱くのと同様の感情である。1967年の中東戦争で、イスラエルがヨルダン川西岸地区を占領して以来、推定75万人のパレスチナ人がイスラエルで収監されてきた。ほぼ全てのパレスチナ人が、イスラエルの刑務所で実際に拘禁されたか、そうした経験を有する同胞と知己である。イスラエル政府は、そうしたパレスチナ人をテロリストと看做しているが、パレスチナ人は拘禁されている同胞を英雄視している。占領下のヨルダン川西岸地区の一部を管轄するパレスチナ自治政府は、その予算の約8%をそうした拘禁者たちと彼らの家族の支援に充当している。

パレスチナ政策調査研究センターのハリル・シカキ所長は、「拘禁されているパレスチナ人が釈放されることは、ハマスにとって大きな意味があります」と語った。「それは、パレスチナの市井の人々の間でハマスの評判を高め」、他方、パレスチナ自治政府を「弱体化させ、その正当性を貶めることに繋がるからです」

しかし、ヨルダン川西岸地区の入植者を含む、ユダヤ教への信仰心が篤く影響力のある極右の閣僚を複数擁するネタニヤフ政権は、パレスチナ人への屈服と看做し得るいかなる政治的ジェスチャーにも激しく抗っている。現政権が拘禁されているパレスチナ人の釈放の要求に応じる「可能性は絶無です」と、エルサレム・ヘブライ大学の政治学者であるゲイル・タルシール氏は述べた。

「イスラエル政府の急進派と過激派は、ガザを壊滅させたがっています」と、タルシール氏は語った。ネタニヤフ首相は、7日、野党のヤイール・ラピード党首による緊急挙国一致政府の樹立の提案を却下した。

これは、ネタニヤフ首相が「自身の率いる過激派国家主義の政権はまだ継続し得る」と考えていることを示しているのだとタルシール氏は述べた。

ネタニヤフ首相は、昨年の選挙に汚職の裁判を受けながらも勝利するために、イスラエルのユダヤ人としてのアイデンティティに対する脅威の認識に付け込んで人気を高めた極右の同盟者たちを頼りとしたのだった。

イスラエルの有力な財務相で入植者たちの指導者でもあるべザレル・スモトリッチ氏は、7日遅くの会議で、イスラエル軍が「人質の安否を重視せず、ハマスを容赦なく攻撃する」ことを求めた。

「戦争においては、容赦のないやり方をしなければなりません」と、スモトリッチ財務相はその会議で述べたと言われている。「私たちは、この50年間で最大の攻撃を行い、ガザ地区を制圧する必要があります」

しかし、イスラエルが無差別作戦に引きずり込まれるということは、一般市民が自国軍による執拗な爆撃の犠牲になったり、人質としてハマスに何年も苦痛を与えられ続けたりするリスクが生じるということでもあり、それがネタニヤフ首相にとっての政治的破滅に繋がる可能性もあるのだ。

イスラエルのベテラン政治評論家エフド・ヤアリ氏は、「これは、深刻なジレンマです」と語った。「恐ろしいのは、地上作戦開始と同時にハマスが1時間毎、2時間毎に人質を処刑するといった脅迫を行うであろうということです。そうなったら、本当に白熱した議論が沸き起こるはずです」

イスラエルの波乱に満ちた歴史を通して、人質については世論が常に極度に敏感になることが示されてきた。それは、つまり、18歳で兵役が課され、軍が自国民を決して見捨てないことを誇りとするこの国では、拉致がいかに協力な武器となり得るかということでもあるのだ。

ガザ地区との境界に近い南部の都市アシュドドに住む58歳のタリ・レヴィ氏は、「こうして人々が連れ去られることを受け入れてしまったら、国も政府も軍も無いも同然ということになります」と語った。レヴィ氏の友人の内の数人も行方不明となっている。

ハマスが7日に行った攻撃で行方不明になったイスラエル人たちの家族が行った8日夜の記者会見は、そのままゴールデンタイムに生中継された。動揺した近親者たちの中には涙をこらえたり泣き出す人々もいた。彼らは、政府に人質の解放に向けた措置を取ることを求めた。

過去には、自国民が人質となることを容認できないイスラエル社会が大規模な世論の圧力を伴う組織的な活動を行い、イスラエル政府が不均衡な人質と拘禁者の交換に同意するよう誘導されたことがある。こうしたケースとして、2011年のシャリット取引や、1985年にイスラエル人の人質3人の解放の引き換えに拘禁中だったパレスチナ人1,150人を釈放した件を挙げることが出来る。

ネタニヤフ首相が、このジレンマからいかに抜け出し得るかについては、軍事アナリストの間でも意見の相違が見られたが、愛する人々を人質に取られたイスラエル国民にとって答えは苦痛なほど明確だった。

アドヴァ・アダル氏は、「政治やすべての状況を一旦脇に置いて、出来る限りのことをして欲しいと思います」と語った。アドヴァ・アダル氏の母である85歳のヤッファ・アダル氏が、銃を持った戦闘員らのゴルフカートに乗せられ、境界線を越えてガザ地区へと慌ただしく連行された様子がビデオに撮られていた。泣き始めて割れてしまったヤッファ・アダル氏の声がビデオに記録されている。

アドヴァ・アダル氏は、「母は、頻繁に薬を服用する必要があるのです。きっと今とても苦しんでいるのに違いありません」と語った。

AP

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