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ジェイソン・グリーンブラット著「アブラハムの道で」 中東和平プロセスの内幕を伝える一冊

会合を終え、バーレーン、エジプト、イスラエル、モロッコ、UAEの外相らと共に写真撮影のためにポーズを取るアントニー・ブリンケン米国務長官。2022年3月28日、イスラエルのネゲヴ。(AFPファイル)
会合を終え、バーレーン、エジプト、イスラエル、モロッコ、UAEの外相らと共に写真撮影のためにポーズを取るアントニー・ブリンケン米国務長官。2022年3月28日、イスラエルのネゲヴ。(AFPファイル)
(左から右に)アブラハム合意に署名する、バーレーンのアブドゥルラティーフ・アル・ザヤーニ外相、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、米国のドナルド・トランプ大統領、UAEのアブダッラー・ビン・ザーイドアール・ナヒヤーン外相。(AFP)
(左から右に)アブラハム合意に署名する、バーレーンのアブドゥルラティーフ・アル・ザヤーニ外相、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、米国のドナルド・トランプ大統領、UAEのアブダッラー・ビン・ザーイドアール・ナヒヤーン外相。(AFP)
はためくUAEとイスラエルの国旗。2022年1月31日、ドバイ万博2020にて。(AFP)
はためくUAEとイスラエルの国旗。2022年1月31日、ドバイ万博2020にて。(AFP)
ユダヤ教の祭ハヌカーを祝って大きなメノーラーに火を灯すラビのリーバイ・ダックマン氏。2021年11月28日、ドバイ万博2020のイスラエルパビリオン。(AFP)
ユダヤ教の祭ハヌカーを祝って大きなメノーラーに火を灯すラビのリーバイ・ダックマン氏。2021年11月28日、ドバイ万博2020のイスラエルパビリオン。(AFP)
米国のドナルド・トランプ前大統領の義理の息子であるジャレッド・クシュナー氏。アブラハム合意の締結において重要な役割を果たしたとされる。(Getty Images、AFP経由)
米国のドナルド・トランプ前大統領の義理の息子であるジャレッド・クシュナー氏。アブラハム合意の締結において重要な役割を果たしたとされる。(Getty Images、AFP経由)
エミレーツ航空初となるUAEからイスラエルへの旅客便を記念して、着陸した後にウォーター・サルートで歓迎される航空機。2022年6月23日、ロッドのベン・グリオン空港。(AFPファイル)
エミレーツ航空初となるUAEからイスラエルへの旅客便を記念して、着陸した後にウォーター・サルートで歓迎される航空機。2022年6月23日、ロッドのベン・グリオン空港。(AFPファイル)
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06 Oct 2022 03:10:40 GMT9
06 Oct 2022 03:10:40 GMT9
  • アブラハム合意によりイスラエルとアラブ4ヶ国(UAE,バーレーン、スーダン、モロッコ)との間の国交が正常化した
  • 正常化は中東の紛争の合理的かつ平和的な解決につながるだろうとグリーンブラット氏は述べている

デヴィッド・ロマノ

米国ミズーリ州:歴史的なアブラハム合意から2年が経過した今は、それが中東・北アフリカにもたらした変化を振り返る絶好の機会のように思われる。

この合意により、これまでのところイスラエルとアラブ4ヶ国(UAE,バーレーン、スーダン、モロッコ)との間の国交が正常化した。

ジェイソン・グリーンブラット氏の著書「アブラハムの道で(In the Path of Abraham)」は、アブラハム合意を実現した思考とプロセスについての内幕を読者に伝える一冊となっている。2016年にドナルド・トランプ大統領(当時)によって外交交渉特別代表に任命された同氏は、ジャレッド・クシュナー氏、デヴィッド・フリードマン大使、クシュナー氏の側近アビ・バーコウィッツ氏と共に、イスラエルとパレスチナおよび近隣諸国との間の和平調停のための米国の取り組みを主導した。

この本は、彼らがいかにこの記念碑的な任務にアプローチしたのかについて、非常に分かりやすく明確かつ率直に描いている。グリーンブラット氏と同僚たちはそのプロセスの中で、長年にわたって蓄積され、この問題についての大量の「専門家」によって伝えられてきた、アラブ人とイスラエル人との間の紛争についての常識の多くを投げ捨てなければならなかった。

この紛争についての長年のコンセンサスでは、パレスチナとの最終的な和平協定が実現するまではイスラエルとアラブ諸国との和平や国交正常化を追求することはできないとされていた。

ただ、パレスチナとの和平協定の実現は難しかったため(今でもそうだ)、事実上、地域においてイスラエルに関係するあらゆる事に対する拒否権がパレスチナの諸政党に与えられていた。

しかし、イスラエルとパレスチナの紛争が膠着しているように見える間にも、中東・北アフリカ地域は時と共に変化を遂げてきた。

学者やシンクタンクから、情報部員、国務省や各国外務省の役人まで、昔からの専門家たちの大半はこの変化を理解していなかった。

汎アラブ主義はかつてのような影響力をアラブ世界において持っていない。また、アラブ諸国の指導者や国民の大半は依然としてパレスチナに非常に同情的ではあるものの、自国の国益も追求したいと思っている。

特に、アラブ諸国のリスク評価の中でイランの存在が非常に大きくなっており、アラブ諸国はイスラエルを、イランを断固として敵視している軍事的・技術的強国と見なし、自分たちと共通の大義を見出している。

また、好むと好まざるに関わらず中東・北アフリカ地域において不可欠な存在であるイスラエルは、どこかに行ってしまうことはない。実際、現在の状況においては、イスラエルはイランの脅威を見失うことはないだろうし、イランが核武装することの地政学的重大性を把握し損なうこともないだろう。

グリーンブラット氏が見抜いていたように、アラブ諸国の多くにとってイスラエルとの間の共通の利益はイランとの間のそれに勝っている。また、イスラエルからの長年にわたる様々な和平の申し出を前にしたパレスチナ指導部の非妥協的姿勢がそのような利益の一致を拒否することはもはや許されないだろう。

グリーンブラット氏はこう書いている。「パレスチナ自治政府は完璧を追求するあまり、徐々にではあるが確実に、かつては盤石だった近隣諸国からの政治的・財政的支援の多くを失ってしまった」

「ますます多くのアラブ諸国にとって、平和的国家を求めるパレスチナを支持することを、同じくより繁栄的な未来を望んでおり、かつそれに値する国民の要求よりも優先的な大義として擁護することがますます難しくなっている」

そのような共通の利益は、地政学的連携や脅威の中だけでなく、エネルギー、食料、水、健康などの社会的・経済的領域にも存在している。

グリーンブラット氏は、ランド研究所による最近の研究を例に挙げている。「イスラエルとパートナー4ヶ国(UAE、バーレーン、モロッコ、スーダン)が今後10年間にこれらの自由貿易協定のもとで新たに得る直接的な利益の総額は約700億ドルに上り、また約6万5000人の雇用が新たに創出されると予測されている」

「そして、パートナー5ヶ国の全てが多国間自由貿易協定のもとで相互に貿易するとした場合、ランド研究所の計算では、新たに得られる利益の総額は1480億ドル以上となり、雇用創出は18万人を超える」

UAE、バーレーン、モロッコ、スーダンのアラブ人指導者たちには、これら全てを見据えたうえで必要な措置を講じるだけの先見の明と勇気があったことが証明されたのだ。

アブラハム合意モデルの支持者は、是非はさておき、「パレスチナとの和平が先、アラブ世界との国交正常化は後」という方程式を逆転させればイスラエルとパレスチナの和平実現の可能性も増すと主張している。彼らはその証拠として、アラブ連盟が約70年にわたってイスラエルをボイコットし遠ざけてきたことは和平の実現に確実に何の貢献もしなかったと言う。

良くも悪くも、イスラエルに対するアラブの統一戦線が存在することで、イスラエルは軍事力や警戒を維持する必要性を確信するとともに、アラブ世界がイスラエルを真に受け入れて本物の和平を築くシナリオを想像しにくくなっていたのだ。

しかしながら、イスラエルとパレスチナの交渉による和平実現が依然として最も困難な目標であることに誰もがはっきりと同意しているのであれば、その目標を共有する者たち全ての支援を集めれば良いではないか。

中東・北アフリカ地域のアラブ諸国の大半は、イスラエルとパレスチナの紛争に合理的かつ平和的な解決がなされることを非常に明確に望んでいる。そして、イスラエルとの国交を正常化した国々は今こそその実現に貢献できる。

パレスチナのマフムード・アッバース大統領と会談するジェイソン・グリーンブラット氏(左)。2017年5月25日、ヨルダン川西岸地区の都市ラマッラー。(AFPファイル)

それらの国は交渉を仲介し、イスラエルとパレスチナの両方が何らかの落とし所を見つけられるよう説得し、そして何よりも、地域において穏健な政治を推進する強力な勢力となることができる。

グリーンブラット氏とそのチームはこれを全て理解していた。しかし、アラブ地域に政策を変更する用意があることに気づいていただけではなかった。

彼らは良い方向への変化をもたらすために辛抱強く取り組み、そのプロセスの中で恐らく地域の数百万人の生活を向上させた。

そのことに関しては、我々は皆彼らに感謝しなければならない。

残念なことに、アブラハム合意のこのような背景を読むことで最も恩恵を受けることができるはずの人々は、恐らくこの本を読むことはないだろう。概して、人々は自分がいかに間違っているかという話を読みたがらないからだ。また、この本にはより細かい部分で反論すべき点があり、そのことも一部の読者を遠ざけるかもしれない。

例えば、(評者を含む)多くの米国人は、ドナルド・トランプ元大統領に対する著者の極めて高い評価を全く共有しないだろう。そのような読者は、2017年と2019年に米国の同盟者であるクルド人(米国が支援する連合軍と共にダーイシュを打ち破った同盟者だ)を裏切った大統領が、この地域について理解するとか常に正しい選択をするなどとは信じられないはずだ。

入植地拡大に反対するデモを行うパレスチナ人たちに投石するイスラエル人入植者たち。2022年7月29日、占領下のヨルダン川西岸地区のアル・ムガイヤー。(AFPファイル)

また、この本の中のどこかでイスラエルの政策立案者が少なくともある程度の批判を受けることを期待したいところではあった。例えば不法な入植の問題だ。評者などは、イスラエルがなぜ占領下のヨルダン川西岸地区(ユダヤとサマリア)において、そこに住む人々を受け入れる(すなわち市民権を与える)ことなく、さらなる土地を要求できるのかが未だに理解できない。

二国間解決を支持するために避けられない単純な計算を行ったとしても、片方を取ればもう一方も取らなければならないということになるように思われる。すなわち、土地を取るなら、そこに住む人々に平等な市民権を与えなければならないということだ。平等な市民権を与えることがイスラエルにとって危険過ぎるということであれば、パレスチナ人が存続可能で尊厳ある自分たちの国家を(それが可能になった時に)作るのに十分な土地を維持できるよう、イスラエル人は入植をやめる必要がある。

最後に、イラン核合意の問題も依然として厄介だ。不都合な真実として、合意締結後の数年間と比較すると、トランプ大統領による核合意からの米国の離脱以降の方が、イランが核兵器製造に向けてより前進しているという事実がある。米国がイランとの軍事的衝突を望まない限り、この問題には良い解決策がないかもしれない。それを望まない点ではオバマ、トランプ、バイデン政権は一致している。

(左から右に)アブラハム合意に署名する、バーレーンのアブドゥルラティーフ・アル・ザヤーニ外相、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、米国のドナルド・トランプ大統領、UAEのアブダッラー・ビン・ザーイドアール・ナヒヤーン外相。(AFP)

この問題についてグリーンブラット氏に言わせれば、事態はかなり単純になる。イランとの核合意はオバマ大統領とケリー国務長官が引っかかった詐欺であり、トランプ大統領がそれを終わらせたというわけだ。これに対する反論としては、2020年1月のガセム・ソレイマニ司令官の標的暗殺を除けば、トランプ政権はイランの無力化という問題に関してほとんど成果を上げていないという事実が指摘できる。

イランの体制は依然として強固に存在しており、ウラン濃縮はおさまるどころか拡大し、イラクやシリアなどでのイランの影響はかつてなく強くなっている(2017年10月にトランプ大統領が、米国の同盟者であるクルド人をイランとイラクの軍隊が攻撃するがままにしておくことを決めた後は特に)。

上述のような屁理屈は見られるものの、グリーンブラット氏の本が手に取るに値するものであることには変わりはない。中東・北アフリカ地域における平和と発展に関するストーリーは、それに対するほとんど伝染性とさえ言える楽観主義を含め、本棚の中に場所を占める価値があるだろう。

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  • 「アブラハムの道で(In the Path of Abraham)」ジェイソン・D・グリーンブラット著(ニューヨーク:ウィキッド・サン・パブリッシング、ハードカバー、325ページ)
  • 評者:デヴィッド・ロマノ、ミズーリ州立大学のトーマス・G・ストロング教授(中東政治)
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